124【悪魔の受け渡し】
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ばたばたばた
二人の女性がばらばらとやってきて、
「すみません遅くなりまして、リャー。ごめんね。ああよかった」
「おかさん~」
「ままー」
「あああツァル、よかった」
そしてすぐにあと二人、男性と、女性。
「とうしゃん!」
「シェン!すまん、遅くなった」
男の子は祭壇から飛び降りて男性に飛びつく。
「おばあちゃん」
「ウーちゃん、よかった」
後ろからギルド職員が二人やってきていた。
俺のそばにはシスターもいる。
聞けばこの四人の保護者は、夜に入れられていたお知らせのお手紙が読めなかったそうだ。
「これで、みんな引き取ってもらえましたね」
やれやれと思いながらチェンバロの蓋を閉じてカバーをかける。
「ええ、こんなにすんなりみんな帰れるとも思ってなかったです実は」
女性のギルド職員が話す。
「それが不思議なことが起こったのです」
迎えに来た女性の一人が言う。
「店番が抜けられなくて、困っていたら、青い髪の美しい女性が来て、
『ここは、妾が見ておくでの、ささっと子供を迎えにお行き』と、言ってくれたので、慌てて来ることが出来たのです」
うわ、叔母さん何の店番しているんだ・・・。
「俺も、畑の草取りをしていたら、黒髪の女性がいて
『草取りなんぞ明日でも構わぬじゃろ?子供がまっとるえ』
と言われて、大急ぎでやってきたのです」
ほかの二人は、耳元でささやかれたらしい。
その話を聞いた子供たちは俺の顔を見るけど、人差し指を口に当てながら念話をする。
“ね?女神様が歌を聴いてくれたんだよ?内緒だよ!”
っていうと、みんなが神妙な表情で頷く。
「おにいちゃんありがとう!」
「ぼくも、おにいちゃんみたいなぼうけんしゃになる」
「おーがんばれ」
「あたし、おにいちゃんのことわすれない」
「でも、いやなことは忘れろよ」
「うん!おうた、たのしかった」
「たのしかった!」
「俺も、楽しかった」
再び俺のもとに駆け寄ってきた子供達の頭を順番になでてお別れする。
「奇跡が起こったのですね」
シスターが言う
俺にはもう奇跡が多すぎて普通なんだけどね。
「子供たちは皆迎えが来たんだな」
傍らの扉が開く。
「はい」
ドミニクとスコルさん、そして子爵が、子供三人とやってきた。もちろん司祭も。
そして、二柱の女神の気配がまだ祭壇にいる。
俺はもう一度祭壇に上がって、石像に声をかける。
「女神様達、お願いできますか」
『うむ、可愛い甥っ子よ』
『今回も大儀じゃったのう』
二つの台座に光が集まると、神気を感じない普通の人のような美しい女性が二人現れる。
すると、祭壇の前の空間に立っていた司祭やシスターとドミニクの順に跪く。
「こ、これは大地の女神と水の女神よ」
「ああ、本当に来て下さったとは」
その言葉を聞いてから、スコルさんと子爵と子供三人も跪く。でもマツは女神さまの方を見てにこにこしていて、女神さまもそれに頷く。マツって二人の加護がありそうだよな。
『では、ここにあれを出し』
「はい」
「あれとは?」スコルさんが言うのを無視して
扉をひとつ出す。二重扉にしていて、外側を開くと、もう一つ鉄格子がある。
こいつの部屋にはシャワーとトイレだけつけていて、ベッドは入れていない。
「なんだなんだ?ソトガワのトビラがヒラいた?・・・げっ」
バンッ
黒い奴が後ずさって奥の壁にぶち当たっている。
でかいミノタウロスのために大きなトビラにしているから、中が良く見える。
「あれが・・・」
「あれが主犯の、デモンサージェントMってやつです」
「軍服を着た黒いミノタウロス・・・」
「ミノタウロスにしてはデカくないが、黒すぎるな」
そして目は赤いまま。
青い髪の美しい水の女神が口を開く。
『今回はの、結果的には死者は無かったのじゃ。だが未遂とはいえあんなに大勢の子供をはじめこの町中を疫病で死に至らしめる計画を企てていたのじゃ。しかし、こやつは普通の存在じゃないからの、人の理で裁けるものではないじゃろ』
「はい、そうですね」
スコルさんが答える。ここはトルネキ王国なので、ドミニク卿のテリトリーではないしね。
『じゃから、こやつの処遇はわれらに任せてたも』
『よろしいか?そこの領主も』
「はい、悪魔など、私どもにはどうすればわかりません」
「勇者でもいれば討伐できるのでしょうが」
『討伐なら、そこな甥っ子が簡単にできるんじゃがの』
「ひっ」
水の女神の言葉に、ミノタウロスが息をのむ。
『悪魔エムよ、この子は優しいからの、お前が悪の塊だとてすぐに討伐せぬのじゃ。こうして捕らえるだけでの』
「ううっ」
『じゃから、妾たちが良いように処理をしておこうぞ』
「宜しくお願いします」
俺は二人に頭を下げる。
パチン
大地の女神が指をならす。
バン
シュッ
牢屋の扉が閉まって消えると同時に、俺からアナザールームのつながりが一つ消える。
「あと、叔母様達、あの小妖精たちをどうしたら良いと思いますか?」
『そうじゃの、妖精たちはお前が集めていき』
「集める?」
『精霊みたいな絶対に害のないのは放っていけばいいだろうが、妖精は不安定じゃからの』
「たしかにすぐに悪意に染まりそうですね」
『そのうち使い道は出て来るじゃろ』
使い道って・・・
『負担になるようなら引き取るえ』
「いえ、だいじょうぶです」
『ほほほ、そうやって沢山抱えていけばよい』
「えー」
思わず膨らませた俺の頬をウンディーナ神がたおやかな手で撫でる。
「わかりました。小さい妖精たちに関してはそうします」
『うむ』
頷くと二人の女神は大人たちのほうへ顔を向ける。
『ドミニクよ』
「はい、アテイママ神様」
『今しばらく、われらの甥っ子を頼むえ。これの親はどちらも今はなかなか動きづらいよってな』
『旅や冒険はたんとさせれば良いがの』
「わかりました、ウンディーナ神様」
『ではの、猫の子とその姉も元気で』
「あい!」「はい!」
そうして、俺には日常になりつつある奇跡の時間が終わった。
「はあ、感動のあまり涙が。シュバイツ殿下は本当に神様のお子なんですね」
司祭が涙を流しながら話す。
「ここだけの話にしてくださいね」
「シュンスケ、これからも悪魔狩りをするのか?」
「ドミニク卿、悪魔を探して狩るなんてしませんよ。たまたま二人連続しちゃっただけで」
「え?シュンスケさん、あの悪魔が二人目?」
「そうだよ」
ブーカの言葉にマツが答える。
「まえのは、おんなのあくまで、あのちりゅうのおとうさんやおかあさんを、たべちゃったんだよ。それでおうじがほごしているの」
「まあ、あのかわいい地竜たちを?」
「おねえちゃん。ぷうとぽうにあったんだって?」
「かわいかったわ」
「でしょ。またあそぼうね」
「ええ」
「たしかに、この方は、規格外ですね」
「まあ、神様のハーフだからな」
「スコルさんそれは言わないでー。俺はまだ人間族でいたい気分なのに」
俺は両手を胸の前で横にブンブン振る。
「どこがだ。あれだけ派手にして」
ドミニク興からあきれたような言葉が出る。
「しかも、すんなり女神さまを呼び出すなんて」
司祭様まで。大人みんなから突っ込まれる。
しょうがないじゃん、あんな気持ち悪い奴は早く手放したかったんだもん。
「しかし、今回は本当に助かりました。このお礼はぜひ」
「あ、カウバンド子爵、俺もうお金も不動産も要りませんからね!」
「ではどうすれば・・・」
途方に暮れる子爵にドミニク卿が一言いう。
「カウバンドの名誉領民権でもくれてやってくれ」
「もちろん、そんなことはお安いことですよ。そうすると、領民としての家ぐらいは受け取って貰いましょうかね」
「えーやっぱり不動産・・・」
「ぜいたくな悩みだな」
「だって・・・」
これ以上不動産が増えるならやっぱりもう一人スフィンクスが必要だ。
「さて、落ち着いたことですし、今度は私の部屋に行きましょうか」
カウバンドの街の冒険者ギルドマスターのスコルさんが、教会を出るように促す。
「はい」
そして皆で隣の冒険者ギルドの三階へ移動する。
マツはティキに手をつないでもらっている。
みんなでソファに座るが、子爵の侍従長は立っている。
「それでなシュンスケ、マツのことだが、もうしばらく旅に連れてほしい」
「え?ドミニクさん?」
「ティキが此処にいることが分かったのがマツにとってはおおきなことだが、彼女もまだ保護されている状態だ」
「そうですね」
「子爵のところに二人共をお願いするのは大変だろうし、ティキのほうをポリゴンの孤児院に連れてくるのも難しいだろう」
「なるほど」
八才からの孤児院は難しそうだな。
「それで、しばらくは、ティキとマツの件はギルマス同士で情報を共有しながら彼女たちの親なり保護者なりを待つつもりなんだが、シュンスケも引き続き、トルネキ王国の王都で情報を探してみてほしい」
「わかりました」
「もちろんトルネキのアントニオ王太子に会った後で、あちらからの依頼が大変なことならポリゴンに帰してくれたらいい」
「わかりました。じゃあ、そろそろ、マツも本格的に文字の勉強しようか。
それでお姉ちゃんに時々手紙を書いてだしてみようか」
「まあ素敵!私もマツにお手紙を書くわ」
「うん!あたしがんばる」
「でも、旅行中のマツにどうやってお手紙を出したらいいのかしら」
「おねえちゃん。それは、せいれいちゃんにおねがいしてみて」
「なるほど、黄色ちゃんはいつもマツのそばにいるものね」
「うん!」
「すごい、マツさんは精霊魔法が使えるのですね」
ブーカの言葉にマツがこっちを向く。
「まほうなの?」
「一応ね」
「わーまつのまほー」
ははは。そっちも勉強させるか・・・。
ぐぅ
はしゃいでいるマツのお腹が鳴った。
「やだ」赤い顔して可愛くお腹を押さえる。
「ははは、おなかすいたね。もうお昼過ぎてるもんね」
もうチェックアウトは朝一に済ませているからあとはロムドム団と合流して出発だな。
「では、私はこれで失礼します。シュンスケ頼む」
ドミニク卿が俺のほうを向く。
「はい、では」
といって、こちらのギルマスの部屋のドアをポリゴンのギルマスの部屋に直接つなぐ。
ガチャリ
バタン
「え?もうポリゴンに行かれたのですか?」
「はい」
「本当に規格外だわ」
「ふふふ」
「じゃあ、マチューラ嬢、お昼ご飯に行きましょうか」
小さいほうの猫むすめに手を差し出す。
「あい!おねえちゃんげんきでね」
「ええ、マツも。お手紙書くわね」
「まってる!」
子猫姉妹がもう一度抱き合う。
冒険者ギルドの一階に行き、旅芸人一座のロムドム劇団がランチ中だったのに混ざる。
「よう、もう終わったのか」
「お待たせしました」
「全然大丈夫だよ。まあ、ゆっくり食えよ」
「はい」
「まっちゃんもこっちね」
「からんしゃんありあと」
「かわいいよー」
なでなでなで
「それで、マツは姉と会えたのですけど、しばらくはまだ俺と旅を継続することになりまして」
「やったー、こんな看板娘は大歓迎よぅ」
「ははは」
「がんばりましゅ!」
「おねがいしますね。マツさん」
「あい!ざちょーしゃん」
お昼を食べて、食休みをしてから、冒険者ギルドを出る。
前には荷馬車が一つ。
“ねえねえ、僕も馬車を曳きたい!”
“え?いいの?結構長距離だよ”
“だいじょうぶ。こうみえても強いから僕”
“そりゃそうだけどさ”
「メターさん」
「はい?」
「この馬車って、ギルドのレンタルですよね」
「そうですよ」
「もうお金払っちゃってます?」
「はい、どうしました?」
「ハロルドが馬車引きたいらしくて馬だけ返せます?」
「それなら、返してきましょう。馬の分のお金も戻ります」
「よかった!」
『ごめんね、急遽違う子に変わったんだ』
馬のおでこをなでて宥める。
馬が俺の頭をクンクンする。
ハロルドだけじゃないの?こういうことするの
『そうなの?分かったわ』
「あ、女の子だった」
『いい子』
ハロルドを出す。
『まあ、奇麗な馬』
『こんにちは、今日は僕がこれを引くね』
『わかったわ』
「ハロルド様の曳く馬車に乗るなんて恐れ多いわ」
とか言いながら、タレンティーナさんがニコニコ馬車に乗り込む。
「馭者ってどうするんだ?」
「アヌビリさん。手綱を持ってるだけで大丈夫、ハロルドは道に詳しいから」
今日はいつもの俺の髪の毛で出来た頭絡に馬車用の長い普通の手綱を付けてある。
『まあ、精霊ちゃんに聞きながら行くんだけどね』
「じゃあ、みんな乗ったな」
「「「「はーい」」」」
「では殿下、旅のご無事を」
「はい、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
旅芸人一座の出発にわざわざ司祭とギルマスが見送りに出てきたので、やけに目立っている。目立つ理由にはハロルドもあるけどさ。
ハロルドの曳く馬車は軽快な蹄と車輪の音が町中に響く。
街道に入るまでも大通りに、子連れがチラホラいる。誘拐に会ってなくても、怖くて出られなかったんだよな。平和になってよかったね。
「おうじ」
「なあに?まっちゃん」
「おうじとまた、いっしょにいけるようになってよかった!」
「マツが、おねがいしたんだって?」
「そう!だって、もっとおうじをおたすけしたいもん。いまはね、おじゃまかもしれないけどね」
「じゃまじゃないよ」
「ほんと?」
「マツといるとたのしいよ」
「あたしも、おうじといるとたのしい!」
「ふふふ、かわいいわ~」
「ほんとうに、なごむね」
「マツさん、このクッションも重ねて敷きなさい。舗装のところを出るとガタガタするから」
「ありあと、ざちょうさん」
「くー可愛いです~」
「ははは」
馭者席にはアヌビリさん。幌の上にはビャオさんが寝転んでいるのがシルエットになっている。
街の門には、初めにギルドに案内してくれた兵士さんが俺たちの出るチェックをしていた。
「殿下、この度は本当にありがとうございました。お帰りの際は、また此方にお寄りください」
そう言って他の兵士と最敬礼して送ってくれる。
ちょ、目立つから!とは言えず
「ははは、ぜひ」
苦笑いを顔に張り付けて、カウバンドの街を後にするのだった。
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