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123【延長保育】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 「急にお呼びして申し訳ない。シュバイツ フォン ロードランダです」

 その名前を名乗ったからには、一応変身を解き、翅を出す。


「私は、プロング フォン カウバンド。トルネキ王国では子爵位を賜っております。この度は、息子及び当子爵領の子供達を保護していただき、ありがとうございます」

 そういって、挨拶をしてきたのは立派な洞角ほらづののインパラ族の男性だった。

 ロムドム劇団の座長は、エルフとインパラ族のハーフだけと顔立ちがインパラよりなだけで角はないもんな。

 この人は角だけでも六十センチはありそうだ。そうすると、頭頂迄の身長が百七十近いので二メートル三十センチってことだ。力強いというより優雅な角だ。うん、不便そう。


 だって、跪いて俺の右手を額に当ててきても角が顔に刺さりそうなんだもんね。

 そこは、あちらがそうはならないような角度があるみたいでうまくいったんだけどさ。


 そして、貴族服というより南の国の装束って感じだ。風通しのよさそうな麻っぽい素材のボトムと、膝まである軽やかなジャケットが風に靡く感じ。とはいえ、素材は高級だろうなという雰囲気があるね。


「息子のブーカさんと、一緒に冒険者をされているティキさんのお二人は、一か月に及ぶ監禁中にも、他の子供に手持ちの食料を与えたり、積極的にリーダーシップをとって、頑張られていたようで、他の子供さんにも頼られていたようです。

 攫われてきた子供は、何とか全員無事に保護できたと思います。とはいえ今はギルドに登録された人数と、俺が保護した人数が合っているに過ぎないですけど」

「ええ、二人は当家の敷地内で攫われてしまったのです」

「敷地内ですか」

「ええ、敷地と言っても中庭のようにぐるりと塀で囲ったりしているわけではないですからね」

「なるほど。

 あと、それからこちらの勝手なんですけど、ティキさんと、この子を会わせたいんです」

「さっきから気になっていたんですよ。

 ティキにそっくりですね。なあ、侍従長」

「はい、本当ですね」

「この子は、マチューラ フォン ケティー嬢と言いまして、今はガスマニア帝国のポリゴン町の冒険者ギルドマスターのドミニク卿の後見を受けて、ポリゴンの孤児院で暮らしているのです」

「なんと」

「ですから、二人を合わせた後、この子をどうするかについては、ドミニク卿を呼びますので、話をしていただきたいのです。もしかしてティキさんは、侍従長さんの伝手でこちらでお過ごしなのでしょうか」


 俺が、子爵の横にいる猫人族の男性に視線を向ける。


「はい、子爵の侍従長のザビィと申します。

 私の母が内陸の方にある国の出身で、ティキの祖母が遠縁にあたるのです。もちろん。ティキの下に妹がいるようなことも聞いたことはありましたが、何分あちらは内紛中でして、治まる迄この子の実家がどうなったのか聞きに行くことができないのです」

「なるほど分かりました。

 マツ、この方は遠い親戚だって」

「うん」

 初めて見る大人ばっかりで少し人見知りが出てきているみたいだな。俺の後ろにしがみついている。

 ロムドム劇団とか、他の冒険者は平気だったのに。貴族だからか?うんわかるよ。


「では、子爵様は一度私の部屋でお待ちいただけますか?」

 司祭様が声をかける。

「そうだな、二百四十人の照合は大変だろう。シュバイツ殿下宜しく頼みます」

「はい、お任せくださいね、とは言え俺は開放するだけですけどね」


 子爵が出て行った後に、ギルマスのスコルさんに話しかける。

「ドミニク卿を呼んでもいいですか?」

「宜しくお願いします!」

「では」

 と言って、大聖堂の壁にあるドアのひとつの色を変える。

 コンコンコン

「いいぞ」

 ガチャリ

「おはようございます。ドミニク卿、おねがいします」

「ああ」

「おはようごじゃいましゅ」

「おはようマツ」

 ドミニクがマツの頭をなでたので、少し彼女の表情が緩む。


 大聖堂の中にはリストを持ったシスターと冒険者ギルドの職員が入ってきた。


「マツは、ここで座っててね」

 とチェンバロのシートに座ってもらう。

「わあ、いいの?いつもおうじはここにすわってるのね」

 ニコニコ顔になった猫娘にほっとする。


「では、小さい子から出てきてもらいますね」

 ガチャリ

 ダンジョンがあった控室の反対にある物置のドアを利用して、アナザーワールドの大きい方の建物につなげる。

 大きいとはいえ、海の屋敷と同じぐらいの大きさだ。お風呂も二つにしたしね。中には二段ベッドを山ほど置いている。スフィンクスがコツコツ大工仕事で作ってくれていたのだ。

 『王子はアナザーワールドを避難所にしそうだから』って。予知能力のすごい奴だぜ。


 つなげた扉から、小さい子が二人一組で手をつなぎながら出てきた。

 お話が出来そうにない子は俺が鑑定してメモを渡す。


「えっと、この子は犬人族のパピーちゃん、男の子二才と三か月」

「この子は、お名前言える?」舌足らずで分かんないな。人間族の女の子、モモカちゃん、二歳五か月。日本人みたいな名前だな・・・。

「はいモモカちゃん。この紙持ってね」

 こっくり


「次はうわ、可愛い、兎人族のおや男の子。二歳七か月、ホワン君。はいこの紙持ってねえ?あのシスターのところに行ってね」

 こっくり


「殿下の、鑑定ってすごいですね」

「でしょ、大人なら、犯罪歴とか、指名手配中とかも出ちゃいますよ」

「私たちは、魔道具がないと分からないですけどね」

「とくに、こんな小さい子供たちはまだ身分証が無かったりしますもんね」

「ほんとですよ」


 ギルド職員やシスター達と話をしながらも、どんどん子供たちを識別していく。

 八歳ぐらいからは、平民の子は大抵冒険者の仮登録はしてあるから、タグを見せるだけで大丈夫みたい。ゴブリンがタグを外さなかったのが良かった。あいつ等やるじゃん。


 そして今度は、冒険者ギルドに待機していた親が一人ずつ入ってくる。二人の時もある。

「ホワン!」

「ママ!パパ!・・・わーん」

 感動のシーンだな。


「ああよかった。ああ、シュバイツ殿下、本当にありがとうございました」

「よかったですね」


「あーん、お父さーん」


 なかには親じゃなくてお祖母ちゃんとか、おばちゃんとかいろいろな人が引き取っていく。


 だけど、

 四人の子がお迎えが来なかった。


「この子たちの親の住所は聞いてるので、訪問してきます。四人なら今日中に引き取られなくても、孤児院にいてもらえば大丈夫ですしね」

「そうですか・・・でも」


 小さいころ、保育園で母さんが最後にお迎えに来た時を思い出した。

 土曜日はそもそも保育される子供が少ないうえに、延長保育の子はもっと少なかった。でも母さんが忙しくて、時間ギリギリに来たときは、俺が一人だった。しかもそういうことは一度きりじゃなかったけどな。

 迎えに来ないことはないってわかってるけれど、冬なんて園から見える窓の風景が真っ暗な夜になったりして、先生が一生懸命絵本を俺一人に読んでくれても、テレビを独り占めしてビデオや番組を見ていても、寂しくて泣きたくなるんだよね。年長さんになってもさ。


 あんなに沢山いた子供たちがすっかり少なくなってくると、広い大聖堂がすごく寂しく感じる。


「シュンスケさん」

「ブーカ。お疲れだったな、自分も被害者だってのに、たくさん面倒見てくれてありがとう。ティキも」

「いえ、小さい子のお世話をすることで、攫われたつらさとかより、しっかりしなくちゃって思えて、でもみんなお迎え来てよかったです。ちょっと羨ましいな」

「そうか」

「それで、あの、妹は・・・」

「あっちに座っているよ。マツ!」

 祭壇のチェンバロのシートに座ってずっと作業を見守ってくれていたマツ。

「あい!」

 シートから降りて祭壇から手を伸ばしてくるのに抱っこして下す。

「ああ、マツ。会いたかったわ」

「おねえちゃん?」

「ええ、赤ちゃんだったものね、私があなたの姉よ」

「おねえちゃん!」

「マツ」


 尊いなあ。


「聞けば、ティキは冒険者の仮登録しているんだって?」

 姉妹の再会をゆっくりしてもらおうと、俺は礼拝用の長椅子に一緒にすわったブーカに話を振る。

「ええ、僕と、護衛の一人と三人で何とか依頼をこなしていて」

「なかなか、物騒だったもんな。ルーキーが一人では活動できないよ」

「はい、シュンスケさんぐらいランクがあればいいでしょうが」

「子供のなりじゃランクがあってもやりにくいんだよ。俺も一応、ウリアゴってパーティーに所属しているんだ。今はロムドム劇団に飛び入りしているんだけどね」

「シュンスケさんの劇見たかったな~」

「ははは、残念ながら昨日の昼公演でこの街のは終わりだ。しかも劇には俺が出ているわけじゃないからな。そのあとの歌のショーの時だ」


「ティキとマツ、そしてスコルさん、司祭の部屋に行きましょう」

 ドミニク卿が声をかける。

「「はい」」

「僕も行ってもいいですか?」

「ああ」

「シュンスケはどうする?」

「ドミニク卿。まだ、子供たちがいるから、こっちを見守っています」

「わかった」


 大聖堂には四人の子供と、シスターが一人残っている。

 どうしようか。


「あの、シスター。チェンバロ触っていいですか?」

「殿下!もちろんいいですとも」

「じゃあみんな!こっちに来て!俺と一緒に歌を歌おうよ」

 皆をチェンバロの周りに集める。

「うた?」

「うん。俺と歌うと、そこの神様に聞こえるんだよ。たぶん。

 だからきっとお迎えに来てくれる人に伝えてくれると思うんだ」

「本当?」

「本当かどうか、試してみない?」

「わかった」

「だから、神様の歌にするよ」

「「「うん!」」」


 まずは水の女神さまの歌を。

 勝手にアレンジした軽快なバージョンで


 ~~碧く~~澄んだ~~

 ~~清らかな~流れよ~

 ~~天からの恵みの水よ~


「~~同じ曲をもう一度歌うよ!みんなも一緒にね。せーの!」


 ~~碧く~~澄んだ~~

 ~~清らかな~流れよ~


 寂しく沈んでいた子供たちの表情が楽しそうになってきた。


「もっかいもっかい~!」

 リピートのリクエストをもらって、三回目を歌う。


 そのあと、大地の女神様の歌を、俺が一回歌って、みんなで二回繰り返し歌う。

 こっちも軽快バージョンだ。

 手拍子も入れてもらう。


 ~~母なる大地よ~~慈愛の恵みよ~~

 ~~草木萌ゆる命の~ありがたさよ~

 ~~豊かな~実りの~~


 この教会の神様には、大地の女神アティママ神の真っ白な石像が立っている。俺がお会いするのとは全然違う装束だけどな。その真っ白な像に少し色が付きだす。

 そして水の女神ウンディーナ神の台座の上の空間にもうっすらと光る色があらわれる。


 ほらね、叔母さんたちは呼べば来てくれるんだよ。だぶんあいつを引き取ってくれるんだ。


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お星さまありがとうございます。

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