121.5 挿話12【ブーカの冒険2】
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子供の僕とそう変わらない体格だが、明らかに大人のゴブリンがどんどん辛そうになっていった。立つことも出来ずに、膝をついたり、座り込んでるひとも出てきた。
それを見て僕たち子供たちは固まって震えることしかできない。
しかし、どう見ても子供達で一番年長なのは十才の僕たちぐらいで、あとは皆小さい。だから、この子たちをせめて守りたいという気持ちだけが僕を奮い立たせていた。
しばらくすると、鉄格子に変わっていた後ろの扉あたりからいくつかの小さい光がふわりふわりと飛んできた。
「さあ、みんな、おウチにカエしてやろう。そのマエにパンをやろうな」
ミノタウロスは光には気が付いていないようだ。
「おい、ゴブリンども、このカゴのパンをガキどもにクわせろ」
ゴブリンたちは発熱しているのか、朦朧としていて動けていない。
「ウウッ」
「体ガ、怠過ギテ動ケナイ・・・」
バアン
「きゃー」
「うわー」
「おかあさーん」
ミノタウロスが棍棒を自分の足元の床に振り下ろす。
「ガキどもダマれ。ハヤくやれ!」
ミノタウロスの怒鳴り声があっても光たちは消えることなく飛んでいる。
子供たちの中には何人かがそれに気が付いている。
“たすけにきたよ”
“もうちょっとがまん”
“さきに、ごぶりんたすけるから”
“もうちょっとまって”
みんなでその可愛らしい声に頷く。
ゴブリン達にも声が聞こえたのか、みんな頷いたり目を開いたりしている。
座り込んでいたひともそろそろと立ち直した。
見ると真っ黒な泥にまみれていた床がきれいになっていて、ゴブリンたち足元からきらきら光る光が揺れていた。
冒険者ギルドで聞いたことがある。俺より年下の冒険者で、治療魔法の得意なAランクのエルフの子供がいることを。子供なら、小さい通路も来れるかもしれない。
動かないゴブリンに切れたようにミノタウロスが自分で黒い泥の籠から何かを掴んで投げてきた。
ヒュー
バン
バシャッ!
でも、見えないものに弾かれたように、泥の塊がミノタウロスに飛んでいく。
そして僕たちの前に、人間族の子供が立ちふさがった。
こんな子今までいたっけ?僕よりちょっと小さいけど、黒目黒髪でしっかりと立って、ミノタウロスを睨んでいる。
「ちょ、君、危ないよ!あの黒いのに触っちゃダメだ!」
「わかってる。俺は大丈夫。もうちょっと待ってて、みんな助けに来たよ!」
そう言うや否や、男の子はミノタウロスに向かっていった。
そしてすぐに近くに見慣れない扉が出てきて、そこから緑色のゴブリン達が何人か出てきて、僕たちの拘束を外していってくれる。
「ゴメンネ、悪カッタネ」
首輪の色が白っぽく変わっていた。
「いいえ、ゴブリンさん達も大変でしたね」
「ウン、我々ハ弱イカラネ」
でも、何度も謝ってくれたし、危険をかいくぐって食料を持ってきてくれたりしていたじゃない。
ぼくも、子供たちの拘束を外して回っているうちに、舞台にいたミノタウロスがいなくなっていた。え?もうやっつけたの?
「ふう、気持ち悪っ」
そうして、男の子は全身からきらきらと光る魔法を解き放つ、それはこの広い広い大広間いっぱいに広がっていく。
「みんな歩けるか?ゆっくりでいいから立ってみような。今から教会に連れていくけど、その前に一度違うところに行ってほしいんだ。だけど、そこには俺が飼ってる地竜がいるんだ。おとなしい良い子たちだからみんなびっくりしないでね」
ニコニコしながらゆっくり大きな声で話す。
僕たちの前に立った男の子はまだ弟より小さい六歳ぐらいだろうか。でも、ギルドで噂になってた、治療魔法が得意なエルフのAランク冒険者も見た目が子供だと言っていた。エルフには見えないけれどひょっとして・・・
「あの、僕はこの街の領主の息子でブーカ フォン カウバンドって言います」
僕は、子供達を代表するつもりで声をかけた。
「俺は シュンスケ。冒険者をしているよ。ブーカさん、俺に敬語はいらないからね」
ちらりと見せてくれた冒険者のタグが金色に輝いていた。やっぱりあの冒険者だ。
しかも、
「これから、空間魔法でみんなをここから脱出させるから、手伝ってくれる?」
「もちろんだよ」
そうして、また、新たな扉がシュンスケの横に出現すると、その向こうには広大な風景と、大きなお屋敷があった。
中からは、金色の髪の侍従にしては立派な同じ顔の男性が二人出てきて、お屋敷を誘導してくれた。小さくて、動けなくなっていた子は、その二人と、シュンスケが抱っこしていた。僕も、手近にいる子二人を両手につないで一緒にそのお屋敷へ入っていく。
振り返ると、またシュンスケは今度はティキを抱っこしている。早っ。
「ティキどうしたの?」
僕は心配になって抱っこされたティキに話しかける。少し顔が赤い。
「なんか、ほっとしたら腰抜けちゃって」
「君はティキっていうの?」
「ええ、シュンスケさんありがと」
「うん。ティキは黄色ちゃん見えてる?」
「あ、この子?精霊ちゃん?初めて見たわ。見えるわよ」
「よかった」
精霊?なんだろうそれ、さっきの可愛い声かな・・・。ぼくには何も見えない。
金髪の男性はスフィンクスという人で、この人も精霊らしい。そしてこの広大な空間はシュンスケさんのスキルで作られているそうだ。
空間魔法なんて、アイテムボックスでも中々いないのに、さっきミノタウロスを閉じ込めていた扉とか、ゴブリンたちを保護した部屋もあったらしいのに、この大きな場所はなんだろう。タグの時計では二十時を過ぎたあたり。でもこの空間はまだ少し明るい。
『さあ、皆さん、お風呂に入りましょうか。女の子は三階。男の子は二階です。
小さい子は大きい子が手を引っ張ってあげてね』
“おんなのこはこっちよ”
“おねえちゃんもこっちね”
あ、小さい子見えた。あれが精霊ちゃんか。ほんとだ黄色い子がティキの頭の上にもいる。
『はい、君たちはこっちです』
スフィンクスさんに二階に連れていかれる。
『ここで服を脱いで、一人ひとつづつ籠に服を入れてね。籠の場所を覚えておくんですよ。そしてその扉の向こうがお風呂ですからね』
「スゲー」
膝より少し深いぐらいの大きなプールがあった。いや、これはプールじゃなくて風呂か。湯気が出ている。子爵家の僕のお屋敷にもこんな噴水のある飾りのプールはあるけど、こんなに広い風呂はない。カウバンドが水が貴重なのもあるけどな。
『お世話する人がいないので、大きい子は小さい子と一緒に入ってくださいね』
「はい。んじゃ僕と入ろうな」
さっきから手をつないでいる二人を世話する。
一人は犬人族で、もう一人は俺と同じインパラ族だな。
“このようきの、ここおしてみ”
赤い精霊君が話してきたので言われたようにすると、
「わあ、泡が」
“それであらって、このておけでながしてから、おおきいふろにはいろうな”
「わかった」
「「わかったー」」
いつもは、侍女や侍従に世話されることの多い僕だが、小さい子を世話するのが新鮮で楽しい。
「目をぎゅってつぶって、鼻をふさいで」
「ふぁーい」
ザバー
「よし偉いぞー。ちょっと待ってな次は君ね」
そういう風に自分と二人を洗って大きいお風呂に浸かる。
浅いお風呂だけど、こいつ等には深い。
周りを見ると、他の子も一生懸命洗っている。
あの病気のゴブリン達を見たら洗いたいよな。気持ち悪かったもん。
広い浴槽だけど、順番を譲ろう。
「僕たちはもう出よう」
「「うん」」
脱衣所と言われるところにいくと、たくさんの清潔なタオルが置いてあった。
僕は二人のちびっこと拭きあいっこして脱いだのを入れていた籠の服を取ってまたびっくり!
一か月も来ていた服が風呂に入っているわずかな間に、汗のにおいも取れてすっきりさっぱり奇麗になっていたんだ。ありがたくそれに、着替えた。
浄化魔法ってすごいな。
お風呂の終わった小さい子をスフィンクスさんに託して、俺はズボンのすそをまくり上げて、またお風呂に行く。まだ洗えていない小さい子を手伝いに行く。
ふっと横を見たら、同じ年で仲良くなった男の子も同じことをしていた。
「お、まだ風呂か」
「だって小さい子ってお風呂怖いもん」
「だよな、俺もそうで。昔派手に転んで頭ぶつけたことあるんだ」
「僕は弟が転んだのを見たことがある」
「ははは」
彼は裸のままで小さい子を洗っていた。
解放された喜びもあって、周りは笑い声も沢山だ。ああみんな無事でよかったよね。
『じゃあ、みんな一階に行きましょう。私がつくったお料理を御馳走しましょう』
スフィンクスさんが優雅に俺達を誘導する。階段で三階から降りてきた女子と合流する。
ティキも小さな女の子と手をつないで降りてきた。
一階には、いつか孤児院に見学に行った時に見た小さい子向けのテーブルと椅子が広がっていた。そこに二人のスフィンクスさんと蜂の精霊のクインビーさんが魔法で一気にお皿をならべて、スープをよそって、小さい子でも食べられるようなひき肉のステーキと柔らかそうなパンを置いてくれた。
「「「わあ」」」
「「「すごい」」」
このすごいことができる妖精がみんなあの小さい男の子に従っているんだ。Aランクってとんでもないな。いや、ギルマスもAランクって言ってたよね。こんなことはできないのでは?ほんとうはシュンスケさんって何者?
皆で食べていると、またシュンスケさんが来た。
「はーいちゅうもーく。みんな聞いてね!
本当はすぐにみんなをお家に帰したいんだけど、もう夜の八時で、暗いから。
明日の朝、教会で皆を開放します!
その時に、冒険者ギルドの人やシスターさんにお名前と年齢を聞かれるからね。ちゃんと答えること。
それから、お迎えが来ると思います。分かりましたかー」
「「「「「はーい」」」」」
「このあと、男の子は二階、女の子は三階にベッドを用意したから、ゆっくり寝てね。
朝起きても、バルコニーには出てもいいけど、この建物から出ないこと。地竜が十頭いるからね。
地竜たちは皆いい子だけど、大きいからびっくりするでしょ?怖くないと思うならバルコニー越しにお話しするのは大丈夫。じゃあ、みんなおやすみなさい!」
「「「「「おやすみなさーい」」」」」
ってどういうこと?シュンスケさんは地竜も飼ってるの?え?十頭も?すごすぎる。
「あ、ブーカさんちょっといい?ティキさんも食べ終わったね」
シュンスケさんは僕たちに視線を移して近寄ってきた。
「はい」
「なんでしょうか」
そういって俺達だけ食堂の隣にある応接に連れていかれた。
シュンスケさんが自分で紅茶を入れてくれる。
「ちょっとお話ししたいのはティキさんなんだけど、一応ブーカさんにも同席してほしい」
「「はい」」
「では、いきなりで申し訳ないですけど、ティキさんの本当のお名前を教えていただけますか?」
「え?なまえ?」
「ああ、失礼しました、俺の方が先に名乗るべきですよね。
俺の名前はシュバイツ フォン ロードランダと言います」
「って、あの、シュバイツ王子?」
ロードランダっていうエルフの大金貨の顔になっている王様が三百年も治めている国で、去年王子様がいるって発表されたって。
「はい」
といって、にこりと笑いながらふわりと姿が変わる。
緑銀色の明るい髪に、鮮やかな緑色の瞳、そして抜けるような白い肌に尖った耳、そのうえ、背中には光る翅が。
「ああ、あなたが」
こんなすごい人が僕たちを助けてくれたのか。
冒険者ギルドで最近の伝説だと色々聞いていた。
そのシュバイツ殿下の姿に明らかに感動したティキが両手を胸元で組みながら口を開く。
「私は、テクロッテ フォン ケティー と言います」
「おいくつですか」
「八才になります」
シュバイツ殿下は美しい顔でニコニコしているのが同性の僕からしてもすごく眩しい。
「あなたは今どちらにお住いですか?」
「私は今、こちらのブーカさんの家の、この街の領主のカウバンド子爵家に保護されて住まわせてもらっています」
「そうですか。あなたの親御さんや身内の方はそこにはいらっしゃいますか?」
「いえ、私の国は数年前に紛争がありまして、祖母が自分の伝手を使って、この子爵家を頼り、私を保護するように言ってくれたと聞いています」
「数年前というと、まだ紛争は収まってないのでしょうか」
「紛争が終われば迎えに来ると言われて待っているのです」
何のことだろう、シュバイツ殿下はティキの家のことを気にしているのだろうか。
ニコニコしていた顔がほんの少し陰る。
「そうですか。
ティキさんは妹さんはいらっしゃいますか?」
その言葉でティキは身を乗り出す。
「ええ、います!私もまだ小さくて、あの子が生まれてすぐの赤ちゃんの時に見たきりなんですけど、彼女も母方の祖母が必死に連れて逃がしたそうで、マチューラと言います。私より三つ下で、もうすぐ五才になるはずです」
「ああ、よかった、名前を覚えていらっしゃるんですね」
「もちろんです」
「俺は今その、マチューラ嬢と旅をしているのです。彼女の身内を探しに」
「ああっ。シュバイツ殿下、ありがとうございます。私もすごく気になっていたのです」
「では、明日、教会に連れていきますので、その時に一度会ってやってください」
「はい」
「今日は遅いので、もうお休み下さい」
「はい・・・はい。本当にありがとうございます」
そういって、シュバイツ殿下はかき消すように消えていった。
「やっぱり、伝説ってすごいよな」
「ええ、まさかマツに会えるなんて」
“てぃきは、まつのおねえちゃんなの?”
「黄色ちゃん」
“なるほどーたしかにそっくりだぜ”
「みんなはマツにあったことあるの?」
“あたしはいつも、まっちゃんといっしょよ”
“おれは、いつもおかしもらうんだ”
「へえ」
「これからは、私ともお友達になってもらえますか?」
“てぃきならよろこんで”
“いいよー”
「僕も仲良くなりたいよ」
“ぶーかと?”
「うん、おねがいします!」
“どうしようかなー”
“あたしはおともだちになってあげる”
青い女の子が僕の手の上に座ってきた。
かわいい!
“ぶーかは、みんなにみずまほうを、いっぱいだしていたもんね”
「見てくれてたんだ」
“うん”
“とりあえず、もうねなさいよ”
「そうだね」
“あした、ねぼうしたら、おいてけぼりになるかもよ”
「ええーそれはこまる」
コンコンコン
「はーい、あ、スフィンクスさん」
『王子はもう帰っちゃいましたね』
「はい」
『では、寝室に行きましょう。女子の部屋は私はいけないので』
“あたしがあんないするから、だいじょぶ”
「黄色ちゃん、ありがと」
翌日ぐっすり眠れた僕は六時に目が覚めた。
教会には九時に行けるということだったので、三時間もあるね。
おれはそっと起きあがって、昨日入ったお風呂の横にあるすごーくきれいなトイレを使い、よく映る鏡のついた洗面で顔を洗う。
「あ、おはよう」
青色ちゃんが鏡越しに俺の肩に乗ってるのが見えた。
“おはよ。はやいのえらいね”
朝になっても精霊ちゃんが見えたのがすごくうれしくて、思わず笑顔になる。
「昨日シュバイツさんが言ってた、地竜に会いたくて」
“まあ、そうね、おきてるこは・・・いるね”
バルコニーに出るとさわやかな朝の景色が広がる。一階のテラスの前には土があっていろいろなものが植わっている。その向こうに砂地があって更に向こうに大きな湖がある。左右には緑豊かな平地と森、そして山まである。
『おや、おはようございます』
もう庭にスフィンクスさんが出ていて、何やら作業をしている。
ああ、畑があるんだ。
「おはようございます。お手伝いしましょうか?」
『ありがとうございます。大丈夫ですよ。ゆっくりしてくださいね』
この、広大な風景の空間が、シュバイツ殿下の空間魔法の中とは、どうなってるんだ。
しばらくすると大きな生き物が二頭ゆっくりやってきた。
「すふぃんくす。おはよ」
「おはよ、あのこはだれ?」
『おはようございます。ぷうさん、ぽうさん。あの方はブーカさんですよ』
「ブーカさん?おはよう」
うわ、大きいのに可愛い!地竜ってこんななの?
「おはよう、ぷうさん?」
「うん、僕がぷう」
「そしてぽうさん、おはよう」
「ブーカおはよう」
「ねえ、すふぃんくす、うえのおんなのこは?」
うん?
バルコニーの手すりにつかまって上を見ると、ティキも出てきていたみたいだ。
「ティキおはよう」
「おはようブーカ、早いわね」
「ティキ?っていうの?おはよう」
「おはよう」
「ぼくは、マツかとおもった」
「あら、あなた達マツを知っているの?」
「うん、マツはともだちなんだ」
「まあ素敵、ぷうとぽうね覚えたわ。
私はマツのお姉ちゃんなの」
「やっぱりー」
「そっくり」
「そうなんだ、私はずっとマツに会ってなくて、今日会えるの」
「そっか、ぼくたちもマツにあいたいな。マツにあったらぼくたちも、あいたいって、いってたって、つたえて」
「わかったわ。必ず言うわ」
・・・なんだろう、すごく尊い会話を聞いている。
「すごいな」
隣を向くと、昨日一緒だった奴がいた。
「よう。おはよ」
「おはよう。すごいよね」
「ああ、あっちの方からも地竜が・・・いや飛竜が飛んできた」
「この世界が、シュンスケさんの魔法なんだってさ」
「すげーな。俺達より年下っぽかったけどな」
「まあ、エルフって成長が遅いっていうから、見た目より年上かもしれないけどな」
「そっか」
一ヶ月にも渡るミノタウロス地獄の後の、地竜天国でまったりできた幸せな朝だった。
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