120【デモンサージェントM】
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ゴブリンのいた部屋に戻ったことで、俺は改めて携帯を取り出す。
それまでは、精霊ちゃんサイズじゃないと通れない場所だったから、自分自身がスマホと同じぐらいの身長だったんだ。
そんなの操作できねえもんな。携帯は〈身に着けるもの〉じゃないので、サイズ調整の付与ができなかったんだ。
だが、現在位置がどこかわからなかった、ダンジョンだからなのか!
接続中のマークがぐるぐるするばかりで表示する気配が一向にない。
ゴブリンがいた部屋にはさっき見つけた横穴があるが、あいつが立って歩ける大きさはなく、しゃがむか這うしか通れなさそうだ。彼はこの先から逃げてきたのかもしれない。ここで行き止まりになりそのまま病気になってしまったのだ。
這って行くよりかはと、俺はまた小さくなって横穴に入っていく。だって横穴の下の方もドロドロしているからね。
サイリウムの棒はまだ光っている。だが初めに沢山いた三角帽の妖精が出てこなくなったなあ。
俺はパタパタと飛びながら浄化魔法を垂れ流す。その横で白色くんは紫外線を光らせて並んで飛んでいく。
“またアングララットディー!”
「鼠だな任せろ。黒い虫もいる」
擦れるのも嫌だから離れたところから、パシュパシュパシュ
そうして、小動物や虫などの、おぞましい奴を処理しながら今度はまっすぐの通路をどんどん行く。
また、少し広い部屋に出る。そこにはまたゴブリンが今度は三体いた。三体とも全身が黒く濡れていて、黒いチョーカーを付けている。さっきのやつと違ってみんな座り込んでいる。床についた裸足や手、そしてお尻は真っ黒なウゾウゾしている病原菌だまりに浸かっている。そこに武器らしい棒やボロボロにさびた短剣なども転がっている。
“おうじ・・・これは”
「ああ、でもまだみんな生きてるな」
“よーし、じょうかするよ~”
「俺も行くぜ」
白色くんと一気に浄化と治療の魔法を発動すると、床は土の色になった。
「おい!大丈夫か。ほら、この水を飲んで」
「キミハ?」
「おれは駿介、君たちの友達?も一人助けたよ」
「アア、ホント?アリガト」
「おい!」
俺は、先に助けたゴブリンのアナザールームの扉を開ける。
「おーい、こいつは友達か?」
「ア、シュンスケサン。ソウデス!オイ」
元気になってるゴブリンが部屋から出てきた。
「ベッド増やすから、手伝って」
「ワカリマシタ」
俺は一人を部屋に押し込む。
「オイ、ダイジョウブカ」
「オマエハ」
「君もこっちへ」
三人を押し込んだ部屋へ自分ももう一度入る。
顔色の良くなった最初のゴブリンに詳しく聞く。
ゴブリンたちには名前がないそうだ。ちょっと不便。
「アノ通路ノ先ニハ、ゴブリンハ、アト五人」
「みんな黒い液体をかけられているのか?」
頷く。
「ソシテ、コノ町ノ子供タチヲ、デモンサージェントガ、ツレテ同ジ部屋二入レテクルノダ」
「子供達には液体をかけてないのか」
「ナイ、人ノ子供ハスグ死ヌカラナ。悪魔ハ、今スグ殺スタメニ集メタノデハナイト言ッテタ。
シカシ、ジブン達ガ咳ヲシタリシテイタカラ。ソシテ、アノ黒イオゾマシイ小サイ妖精ハ動ク」
横から、もう一人のゴブリンも話してくれる。
黒かった首のチョーカーが緑銀色に代わっている。なぜ?
鑑定すると〈シュバイツの配下〉に代わってた!
・・・配下にしたおぼえはないぞ!
「モウスグ、子供タチハ解放サレルト、エムガ言ッテタ」
「だけど、伝染病を持たされるということか」
「ソウダ」
「わかった。ほかのゴブリンを助ける時も手伝ってくれるか」
「「「モチロンダ」」」
「じゃあ、その間に、ここに水と紙コップと、果物を置いておくから待っててくれ」
「アリガトウ、シュンスケサン」
「「アリガト」」
俺はまた小さくなって横道に入る。
“なあ、小さい妖精たちはどうなったんだ”
最初のアナザールームに待機してくれている黄色ちゃんに聞く
“なんか、みんなふるえてる”
“どういうこと?”
“くろいおに、におこられる、とかゆってる”
エムってやつは何がしたいんだ?
しばらく下りながら進むとまた少し広い部屋に出た。そこはゴブリンなどはいなくて、ネズミや虫が、黒い液体に浮いていた。その浮いたところに小さな奴らがウゾウゾと這っている。
これはダンジョンの魔物ではないのか?死んでてもそこに浮いている?
なんて考えたのは一瞬で、見たくないから浄化する。浄化すると死骸も無くなった。
「・・・ったく」
下の方をぐるりと見る。ここは筒形の空間だが俺が入ってきた以外の横穴がなかった。そして、普通の水が溜まっている。
井戸?ならもう少し浄化しておこう。まあ、あの死骸を見た俺なら、この水は絶対飲みたくないがな。
!
上から気配がする。
見上げるとはるか上の方に半円型に青空が見える。夜のはずなのに。
白色ちゃんと共にブラックライトを照らしながら上に浮上する。
やはり井戸のようだ。半分蓋がされていたのだ。本物かどうかわからない青空に太陽が見える。
外に出て六才児に戻り、スマホを出す。
普段なら位置情報が出るんだよね。GPSはないんだけど、何のシステムかな。神様システムかな。でも位置情報はまだ出ない。方角はわかる。外のように見えてまだダンジョンなのか。
井戸の東に大きな屋敷。
また、貴族の家の地下か?
考えてる時間はないな。
また井戸に戻ると竪穴の真ん中らへんに建物の地下につながっているであろう横穴に入る。さっき浮上したときに見つけたんだけどね。ここは、大人でも立って歩けそうだ。だが靴を履いてるとは言え、まだ黒い液体が奥の方から流れるように井戸に続こうとしているので通路を浄化をしながらそのまま飛ぶ。小さくなった方が狭いところは便利かもと、スマホのために大きくしていた体を精霊ちゃんサイズに戻す。
「・・・・・」
「・・・」
しばらくすると、話し声が聞こえてきた。
「苦シイ・・・」
「動ケナイ・・・」
「ママ・・・」
「こわいよ」
「ゴメンネ、ゴメン・・・」
声の気配と共に光もそちらから漏れ出ている。
さらに行くと鉄格子が見えてきた。
鉄格子の向こうには、大広間があった。シャンデリアがぶら下がり、そこから部屋が煌々と照らされていた。
そして広間の中には、すごい数の子供がいた。まるで俺の小学校時代の朝礼の光景のようだ。
高い天井に窓があるのか、カーテンが一面に垂れ下がっている。そういう所も体育館みたいだな。
・・・こんなに集めるか・・・
子供達は立っていたりしゃがんでいたりしている。そして、手や足が縛られて一様に同じ方向を向いている。
夜だというのに。眠っている子はいない。ということは皆生きているな。
他には、今まで保護したようなゴブリンが壁際で子供を囲うように並んでいる。
子どもに比べれば、ゴブリンの方がみんな具合が悪そうだ。
子供たちのいる床はフローリングなのか、黒くはない。
壁際のゴブリンたちの足元にはそれぞれ黒い液体が溜まっている状態だ。
そして、この会場の一角に舞台のように一段高いとはいえ一メートルぐらいの高さの場所が設けられていて、その真ん中には大きくて真っ黒なミノタウロスがいた。
そいつは黒い顔に黒い水牛の角を生やし、森でよく見るミノタウロスと違い少し背が低いとはいえ二メートル以上はある。野生のミノタウロスは良くて腰蓑ぐらいだが、こいつは人の様に?黒い軍服のようなものを着込んで、でも黒い棍棒を持っていた。武器がミノタウロスだな。
ただ、目だけは赤く光っている。あのポイコローザに表れて地竜を食い散らした女と同じ目だ。
こいつがデモンサージェントM?
うん名前負けだな。
ミノタウロスの背には薄い紫色の、ボーリングの玉のような丸い魔石があって大理石のような素材の台座に浮いている。
「さあ、みんな、おウチにカエしてやろう。そのマエにパンをやろうな」
舞台には五つの真っ黒なかごが置かれている。
「おい、ゴブリンども、このカゴの中身をガキどもにクわせろ」
ゴブリンたちは発熱しているのか、朦朧としていて動けていない。
「ウウッ」
「体ガ、怠過ギテ動ケナイ・・・」
バアン
「きゃー」
「うわー」
「おかあさーん」
ミノタウロスが棍棒を自分の足元の床に振り下ろす。
「ガキどもダマれ。ハヤくやれ!」
俺はミノタウロスの一番近くにいるゴブリンに念話をしてみる。
“助けに来た、聞こえていたら少し頷いてくれ”
頷いた
他のゴブリンにも念話をしてみる。
みんな頷いてくれた。
そして少し作戦を伝えると、目を閉じたり半目になったりして不調に堪えるようだったゴブリン達の目が開く。
俺はエフェクトを抑えるように気を付けながらゴブリンの足から浄化魔法と治療法を遠隔で発動する。
足首の血管から治療魔法が入り体中をめぐるように治療していく。
「ゴブリンはヨワいなあ、もうビョウキにかかったのか?しょうがないな。オレサマがジキジキにクバってやろう」
ミノタウロスが動き、黒い籠をひとつ持ち上げて、中から泥団子のようなものを取って子供に向かって投げようとする。
ヒュン
バシッ ボトッ
あれは、パンなんかじゃねえ。
俺は浄化魔法と風魔法で子供たちに届く前にミノタウロスの方に跳ね返すと、六才児の人間族の姿に変えて、子供達とミノタウロスの間に飛び出る。
「なんだ?」
「そんな汚ねえもの投げてくんな。汚れちゃうだろう」
「キタナくない。おいしいパンだよ。さあ、キミもタべておカアさんやおトウさんのところにカエろう。ナガいコはもうヒトツキもここでガンバったからな」
そういいながら次の泥団子を投げてくる。
それをまた防ぐ。
「ああ?」
赤い目が俺を睨むけど無視だ。
そして籠やミノタウロスはもちろん、この広間全体に浄化魔法と聖属性の治療魔法を高濃度でかける。
「な・・・なんだおまえ」
「それはこっちのセリフだ!」
そして、俺はミノタウロスを捕まえに行く。
振り向いて大きな魔石の方に行こうとするのを、ゴブリンが立ちふさがってくれる。
「お、おまえはなんだ!どけ・・・な、なぜオレのイうことをキかねえ」
立ちふさがったのは、最初に助けたゴブリンだ。
一度俺のアナザールームに入ったことで、このデモンサージェントMとのつながりが切れていたので、俺がこっそり出てきてもらっていた。
そして入れ替わるように、他の治療の終わったゴブリンが、浄化したばかりで病から治りきってないゴブリン達を回収してくれる。
ムーシュの時もそうだったが、このミノタウロスも俺の聖属性魔法が苦手のようだ。
近寄ると震えながら後ずさりしていく。
「な、ナンだおマエは。さらってきたガキではないのか」
ミノタウロスが俺に気を取られているうちに、ゴブリン達が子供たちの拘束をほどいてくれている。
「ミノタウロス。いやデモンサージェントエムさん」
「な、どうしてそれを」
「悪魔にこたえる義理は無いですけど」
「く、くそっ」
棍棒を振りかぶってくる。
棍棒をよけた俺は〈風の女神のミッドソード〉を出す。
「な、ナンだそのケンは」
「俺の剣。かっこいいでしょ」
俺が褒めたのがうれしいのかシューシューピカピカしております。
「マガマガしい」
「なんで、お前らはそういう表現なんだよ。神々しいと言え」
再び棍棒を振りかぶってきたやつの棍棒を手元から女神の剣で切り落とす。
そして、柄頭で鳩尾をクリーンヒット!
「ぐえっ」
俺の背後に扉を出すと、一人のゴブリンが開けてくれる。
「な、なに!」
俺は剣を仕舞って構える。
「はーい、ここに入っててね~」
「なんだとぉ」
掴みかかってくるミノタウロスを風の魔法と背負い投げの合わせ技で独房仕様のアナザールームに放り込む。
「うおりゃー」
ドスーン
バンッ
大広間には黒いものが無くなって、生臭かったにおいも消えていく。
清浄な空気が黄色ちゃんによって流れてきた。
俺はスマホでMAPを見る。
まだ接続中のようなぐるぐるするマークが出たままで、表示されない。
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