117【推して推されて】
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「シュンスケちゃん、こんなところで逢えるなんて」
たしかに、このおばちゃんはポリゴン町で何度か見たな。
俺が初めてこの世界に来てしばらくあの教会で歌ってた時から。
あの時は学費を貯めたいと、結構な頻度で出演していた。まだ治療どころか魔法を全然仕えなくて、魔道具の蛇口でお湯やら氷やらを出すだけだった。
「シュンスケこの方は?」
俺達が舞台を後にするときに、出待ちをしている人たちが沢山いた。
もちろん、この旅芸人ロムドム劇団のファンが凄く沢山いらっしゃるんだけど、俺を待ってくれていたおばさんが何人かいた。
「俺がポリゴン町で学費稼ぎのためにミサの音楽を担当していた時に支援してくださっていた方たちで」
「ええ、今となって支援なんておこがましかったわ」
「そんなことはありません。俺、あの時は本当に世間知らずで、皆さんに助けていただいたのは確かです」
「そんな、ありがたいお言葉です。今となってはシュンスケちゃんとお呼びするなんて失礼かと思いましたが、貴方は私たちにとっては遠い昔に亡くした子供のように思っていたのですよ」
「おにいちゃん、このひとたち・・・」
「そう、ポリゴン町の教会で俺の演奏を聞いたことのある人だよ」
「あら、この猫ちゃんも見たことあるわね」
「うふふ」
「俺のことは駿介と呼んでください!お願いします。俺の父も母もそう呼んでくれるんです」
そう言ってニッコリ笑う。
シュバイツも悪くないけどさ、駿介も大事。
「お父様って・・・」
事情をわかってくれていそうだな。
「ええそうです」
「お母様も?はぐれたと聞いていましたが」
「そうそう」
「ええ!父には会えたんですけど、母はまだ。でも元気にしていることはお互い分かっているので、俺は大丈夫です。心配してくださってありがとうございます」
「まあ、お父様に?シュンスケちゃん、本当に良かったですね」
「ありがとうございます」
俺のことを自分の子のように幸せを願ってくれる、この世界にはそういう優しい人たちがいっぱいいて嬉しいな。
握手を求めて手を出すと、おばちゃん達はそれぞれ暖かく両手で順番に握手を返してくれる。
「これからも、こっちの勝手だけど、貴方を応援するわ」
「私たちはあなたを推すのが生きがいなのよ」
「ふふふ、ありがとうございます」
芸能人みたいだな。俺が推しの対象なんてさ。
「貴方は地元にファンがいるのですか?」
晩御飯中のレストランエリアで、座長のメターさんが言う
「ファンと言うか・・・俺は別に芸能活動をしているわけではないですよ。プロの皆さんの前でこういうのは言いにくいですけど、学費を稼いだり、頼まれての慈善行為とかそういうかんじで、教会のミサでチェンバロを引いたり歌を歌ってまして」
「あたしはおにいちゃんの、いちばんさいしょのファンだよー」
「たしかに俺がチェンバロを初めて弾いた時に聴いてくれたもんな」
隣に座るマツをぎゅっとする。
「きゃーくすくす」
舞台の客席で俺のことを知っていた人はあのおばちゃんとそのお友達ぐらいで助かった。
なんとか、本当の身分を内緒にしてもらうようにお願いできたしね。座長は種族柄少し察してるようだけど、聞かれたら答えるで。
夜、俺達は舞台の撤収作業をしていた。明日の昼も公演するんだけど、壊れたユニコーンを片付けたり、客席じゃなかった大聖堂の長椅子を清掃したりした。
「この壊れ方はひどいな」
金狼族のアヌビリさんがユニコーンだったものの破片を寄せている。
確かに始めは角が取れただけだったのに、今やバラバラになっている。
「アヌビリさん、このマジックバッグに入れますよ」
この世界はビニール袋と言うかゴミ袋がないから、大きな布の袋に入れるんだけど、このユニコーンの頭は大きすぎだ。
「お、悪いな」
俺はマジックバックに見せかけた袋を通してサブのアイテムボックスに、残骸を入れる。
「なんとか、新たな頭を作ってもらわなくては」
「そうですね。どこに頼むのですか?」
「工業の国に」
「こういうの作ってくれる工房があるのよ」
箒を持ったタランティーナさんが教えてくれる。箒がお似合い。
「へえ、興味深いです、いつか行きたいと、友人と約束してるんですよね」
「シュンスケと一緒のうちはお前に頼ることになるが、その後は違う演目だな」
シュー
ユニコーンの残骸をどけた辺りから風が出ている。
“おうじ、このしたに、ちかのくうかんがあるの”
まじか
“すこし、やみとすこしべつのしゅるいの、かぜがふいているわ。ちかよらないほうが、いいわね”
紫色ちゃんからのご報告。
「皆さん、このユニコーンを置いていた場所には近寄らない方が良いです」
「どうしたの?」
「闇魔法の気配が」
闇魔法には、ものを朽ち果てさせる特性がある。上手に使えば発酵食品を手早く作ったり、畑のたい肥作りに役立ったりするのだが。
「それで、あんなに壊れたのかもしれないのね」
「そうだな」
魔法に詳しいタレンティーナさんと、メタ―さんが話す
創造神ゼポロ様の台座の横に扉が一つあって、余り使われていない控室がある。今回はそこにユニコーンの頭を置いて、舞台にスライドする予定だったのだ。
「ここは、信者さんも通らないところだと思いますけど、念のために封鎖した方が良いですね」
「わかった、おいら司祭様を呼んでくる」
ビャオさんが身軽な動きで駆けていく。
控室の扉に鍵をかけさらに鎖で厳重に絞められたのち、俺達は司祭の部屋の応接に案内された。
「シュンスケ様、教会というのはどんなところに建てられているか分かりますか?」
「へ?人が集まる街の便利なところですか?」
俺の言葉に皆が頷く。
「確かにそういうところも多いですが、別のお役目もあるのです。詳しく言うと、礼拝には来てもらえなくなりますからこれ以上は言えないのですがね」
そうだな、日本じゃ関西地方の神社とか寺院は災いを封印するために建てられたものがあるって言うよな。そして、戦の跡地とか、この世へ未練のある思念が多いところは、寂しくて多くの人を呼び街を作ることがあるとか聞く。SNSの受け売りだけどな。俺は東京育ちだから、空襲後の施設は見たことあるけど、関西じゃ歴史があるから、また違うんだろうな。
「なるほど。この教会の下・・・」
「いけません!それは考えてはいけませんよ!シュンスケ様」
尋ねておいてなんだよ。
「子供が好きなのかな・・・」
「そういや、子供が居なくなってる問題があるよな」
アヌビリさんも気になりますよね。
「シュンスケ、気をつけなさいよ」
「マツも、お兄ちゃんの手をちゃんとつなぐのよ」
カランさんも注意してくれる。
「あい」
ロムドム劇団のみんなが俺達を気に掛けてくれる。ありがたいよね。
念のためにみんなを鑑定しておく。状態異常とかはないよね。学園の教授によると俺の鑑定能力はかなり精巧らしくて、普通は人の鑑定は冒険者ギルドの魔道具でしかできないそうだ。ドミニクと教授に、鑑定するのはいいけど、どこまで鑑定できるかは言わない方がいいと言われていた。でも回復魔法をするのに必要だから目こぼしをしてもらっているってわけだね。
まあ、言わないよ。個人情報を広げちゃうわけだからね。
“紫色ちゃん、他の子も、気をつけながらこの下探れない?”
“そうね、もういちどみてくるわ”
“みてくるー”
夜、俺は二段ベッドの狭い下段のベッドにマツとくっついて眠る。
彼女も遅くまで頑張ってくれてたからお疲れだ。
ベッドでマツを抱えながら、白色くんの視界を見ていた。
“ここは・・・”
“だんじょんかしてるね”
“でも、あたしたちしかとおれないわ”
“ネズミの巣穴がダンジョン化したって感じか?”
土のトンネルがジグザグに続いているみたいだ。
この狭さでは子供は入れないか。
“わーねずみのまものが!”
“きゃーむかでー”
“よし、みんな帰ってきて!”
“りょうかーい”
ベッドの隣に備え付けの二人すわりのソファとテーブルがある。
そのテーブルにみんなが疲れ切ってだれていた。
「おつかれ」
俺は浄化と回復の魔法をみんなにかけながら、水の女神のポットからドールハウス用のコップに水を入れてやる。
大きなコップに入れてからストローで分けるのがうまくいくコツだ。
そしてクッキーを小さく砕いてお皿へ
“でもな、あのさきになにかありそうなんだ”
赤色くんの直感に
“そうね、たくさんのそんざいを、かんじるの”
紫色くんの感覚。
俺があのダンジョンに参加するにはちょっと準備がいるよな。
俺は考えながら再びマツの眠るベッドに入る。
「おうじ」
「うん?」
「むちゃしちゃだめだよ」
「わかってるよ」
猫が寝ていると思ったら狸だった・・・。
次の日の朝、俺は精霊ちゃんたちにブドウの葉っぱを渡す。数枚ずつ、出来るだけ小さいものを。
“おうじ、わたしはおおきなはっぱとつるがほしいわ”
“わたしも、はっぱがさんまいぐらい、ついているのがほしい”
「え?邪魔じゃないならいいけどね」
といって、それぞれ三十センチぐらいの蔓ごと紫色ちゃんと緑色ちゃんに渡す。
“もんだいないわ”
“だいじょうぶよ”
そういったとたん二人に渡したぶどうの蔓が消える。
「君たちアイテムボックス持ってるのね」
“ふふん、おなじみどりいろと、きょうゆうしているの”
“ようりょうは、すくないのよ”
さすがです。
昼の公演を終えたロムドム劇団は、明日チェックアウトしてこのカウバンドの街を発つそうだ。
昨日、打合せの時は子供の俺達と団員への風当たりが強かった子供探し中の親たちも、軟化していた。
「うちの子を思い出すわ」
「君達も、攫われないように気をつけなくちゃいけないぞ」
「はい」
「ありがと、おばちゃんたち」
「団長さん、しっかり見てあげるのよ」
「もちろんです」
なんて、話をしていたのに!
“おうじ、やばいのがいる”
“これはなんとかしなくちゃいかないかも”
「おにいちゃん、どうしたの」
「ああ、顔が真っ青だ」
「だいじょうぶです。ちょっと俺、行かなければいけないところができて、明日のチェックアウトまでには間に合うと思うのですが。そこにはマツを連れていけなくて」
楽屋に借りていた音楽室で片づけをしているところだった。
「でも、そうすると君が一人で行くんでしょう?いま、この街はとても物騒なのよ」
タランティーナさんが言う。
「俺は大丈夫ですほら」
といって金色のドッグタグを見せる。
「Aランクだと?」
アヌビリさんがうなるようにつぶやく。
「だから、俺は大丈夫なんですけど」
「なら、おれが見ておくぜ。おれもAランクだからな」
「そうですね、私もそこそこ腕に自信はありますよ」
「皆さんありがとうございます」
「シュンスケ殿。この音楽室にいてもらいましょう。夜には孤児院へ。聞けばマツさんは孤児院育ちだとか」
その言葉に猫耳が頷く。
「司祭様」
俺たちの様子を見守ってくれていたこの教会の司祭が話す。
「シュンスケ様も気が付いているでしょう?この教会に併設している孤児院の子供たちは行方不明にはなってないことを」
「はい」
「教会には地上に限ってですが、強力な結界に包まれているのです」
「おにいちゃん、あたし、おるすばんしてる」
「わかった」
「それでね、あのこをおいていってくれないかな」
「そうだね。ハロルド」
『はーい』
「これは、シュンスケの変身じゃないのか?」
ビャオが驚いたように言う。
「ええ、俺のスキルではありますけど」
「ああ、ハロルド様」
「司祭が拝んでるぜ」
「なるほど。わかりました」
座長のメターが俺の右手を取って、手の甲をおでこに着ける。
「マツさんは責任をもって私たちが見ますので、どうか、あなた様も無理をなさらないように」
きゅうに恭しい態度になった彼に少し戸惑う。
やっぱり、俺のことがばれちゃったのかな。
でもまあ、この後明かさないと地下に行けないしな。
“みんな、出てきて!”
“はーい” “きょうはおおいよ~” “ふたくみはいるしね”
「わあ、たくさーん」
「私には黄色い子しか見えないけど」
「ええ、全色揃ってますよ」
「マツにはぜんぶ見えるんだね」
「うん!ちょっとまえまでは、きいろちゃんしかみえなかったんらけど」
「じゃあ、マツ、これを持って」
といって葡萄の蔓をアイテムボックスから出して渡す。
携帯の時計は十七時。
“あっちの緑色ちゃんも葡萄の蔓を出して”
と、手元の緑色ちゃんに言う、
“だしてるわ”
変身を解除しながらみんなに頭を下げる。
「どうかよろしくお願いします」
「シュ、シュンスケ、いやシュバイツ殿下。頭を上げてください」
メターさんが慌てたように言う。
「え?あれ?シュンスケ?」
「なになに?どうなってるの」
「人形?」
「ちっせ」
団員の驚きの声を聴きながら十センチ未満ぐらいまで小さくなる
「行ってきます」
みんなお口が開いてるぜ。
「おうじ、きをつけて」
マツの声を背に、皆で葡萄の葉に飛び込む。
お星さま★お願いします♪
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