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115【旅芸人と共に】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 夕方、俺は再びマツと手を繋いで、冒険者ギルドの一階に行った。

 普通の冒険者への依頼の掲示板も人探しの写真で埋め尽くされていたので、仕方なくカウンターで聞く。


 「俺たちは、王都に行く旅をしているのですが、そこまでの荷運びかなんかの依頼はありませんか?」

 依頼でもいいから、ギルドで紹介された冒険者とパーティ組めないかな。

 

 「少々お待ちください・・・あ、これはどうでしょう。普通の冒険者への依頼ではありませんけど、シュバイツ様なら・・・」

 そう言って出された書類には

 〈期間限定求人:旅芸人の臨時メンバー求む〉

 

 「旅芸人?」

 「ええ、集団の吟遊詩人みたいなものですね」

 「ほうほう」

 「王都で合流するまでの替わりの奏者を探されていて」

 「俺達みたいな子供が混じっていても良いと?」

 「ええ。メンバーが見つかるまで滞在されていて、今ならちょうどレストランのところにいます。紹介しましょうか。」

 「ぜひ」

 「では。

 ちょっと、この子を案内するから、受付変わってくれない?」


 ギルドの職員が直接俺を連れて行ってくれるようだ。


 「みんな、演奏者が見つかったわ」

 「え?めっちゃ可愛いじゃーん」

 「あら、さっきの」


 そこには五人の男女で、さっきの宿舎の隣のお姉さんもいた。

 「初めまして、私たちは旅芸人一座のロムドム劇団。

 座長のメター、えっと君もエルフかな?」

 「まあ一応、父はそうです」

 「ハーフってことか、妹ちゃんは猫人族?まあ、いろいろ事情があるんだろう」

 座長のメターさんはエルフとインパラのハーフだ。角は無いけどね。不思議な雰囲気のきれいな男性だ?アッシュゴールドの長い髪に髪に濃い青い瞳。


 「あたしはタレンティ-ナ。ガスマニアの学園出身の魔法使いよ。ここでは舞台の特殊な演出とかを担当しながら女優をしているの。ダンスもするわよ」

 お隣のお部屋のお姉さんはまさかの俺の先輩だった!普通の人間族みたいだが結構多芸だ。

 「俺は今二年生に在籍しているんですよ」

 「あら、後輩ちゃんなんだ。よろしくね」

 「はい」


 「俺はアヌビリ、力仕事担当だ」

 アヌビリさんは、さっきこのギルドに連れてきてくれた兵士と同じ、金狼族の人で、男なら誰でも憧れそうな、長身に均整の取れたムキムキではなくマッチョな体形。ワイルドな男前だ。看板俳優かもしれない。

 「ふわわ、かっこいい」

 うん、マツは素直だな。

 アヌビリさんは少し肩眉を上げて、

 「お嬢ちゃんありがとうよ」

 女の子は男前には弱いよね、年齢に関係なくさ。


 「僕はカラン、リカオン族の女子さ」

 僕っ()ではない。鑑定では三十八歳なので、まあ可愛らしいおばちゃんだな。リカオンは耳が丸い狼の仲間で、犬のように愛くるしい特徴がある。劇では女優かな、どんなポジションだろう。


 「最後のおいらはビャオ、リスザル族。お笑いとか道化の担当さ」

 そうか、種族によっては大人でも小さいと。ビャオさんは俺よりは背が高いけど、百四十センチぐらい?俺が十歳に変身するときぐらいの体格だ。尻尾が長くてくるんとしている。その尻尾で造花を掴んでマツに差し出している。


 種族も特徴もバラバラな五人組の旅芸人。雰囲気もそうだし、楽しそうである。


 「俺はシュンスケって言います。この子は妹のマツ。えっと楽器や歌が出来るのは俺の方で、マツは・・・」

 「大丈夫!こんなに可愛ければ、それだけで大丈夫ですよ!リズムに合わせて鈴やマラカスを振るぐらい出来るでしょ?」

 メターさんはすごく乗り気だ。座長の勢いについ、こっくりと頷く猫むすめ。

 「そうね、メターは衣装づくりも上手だから、演目に合わせた衣装が用意できるのよ」

 「なるほど」


 「今は主に〈ヴェール ドゥ シュバイツ〉っていう演目をやってるんだよ」

 座長のメターさんがとんでもないセリフを言う。


 「・・・もしかして湖の?」

 「そっか、貴方学園生だものね。そう、去年学園祭で見たって言う友達に内容を教えてもらってね。この五人で出来るように内容を少し変えてやっているのよ」


 まさかその劇の主役が俺だったとは絶対に言わないぜ。


 結局、あの時セイラード殿下が言ってた〈ヴェール ドゥ シュバイツ劇団〉じゃん。


 「明日、お昼にこの冒険者ギルドの訓練場を貸し切ってお稽古するから、それまでに追加の配役を言うよ」

 「わかりました、で、音楽の方は・・・」

 「あなた教会へは行くかしら?」

 先輩魔女のタレンティ-ナさんが聞く。

 「はあ、まあちょいちょい」

 「今回の演目に必要な音楽は神様たちの曲よ。特に大地と水と風の女神さまの曲」

 「おにいちゃんの、とくいなきょくだよね」

 「ちょ、まっちゃん」


 「ところで、楽器はどうされているのですか?」

 「ああ、私は竪琴だな」

 座長が言う。やっぱりエルフはそれが似合うよなあ。俺は弾けないけど。

 「あたしは歌うの専門よ」

 先輩はボーカル、と。

 「俺は横笛だ」

 金狼兄貴はフルート的な・・・

 「僕とビャオはパーカッションだ」


 「で、シュンスケはどんな楽器を使っているのだ?」

 「持ち運んでいるものとしておれは、ギターっていうこれを」

 とウエストポーチから愛用のミニギターを出す。

 「他にはソプラノリコーダー」

 って、ぴらりっと吹いてみる。懐かしいでしょ?

 うん、アルトリコーダーはもうちょい手が大きくないと無理なんだよな。

 「へえ、俺の横笛より音が高いんだな」


 「シュンスケほかに、鍵盤のやついけるか?」

 「今は教会の大聖堂を借りる公演が多いんだよ」

 「・・・チェンバロは大丈夫です」

 「色々出来るんだな、若いのにすごいや。よっしゃ頼んだよ」

 ビャオさんが背中を叩いてきた。尻尾で。

 「はい」 


 大丈夫か?これ、俺って首絞めてない?


 「じゃあ、俺たちはこれからお前さんたちを組み込んだ演目の打ち合わせをするから、また、明日朝ここでミーティングな」

 メターさんの言葉で一旦お開き。

 「わかりました。しばらく宜しくお願いします」

 「じゃあ、お隣だし、あたしがお部屋まで送るわ。子供は危ないからねえ」

 「そうみたいですね。よろしくお願いします」

 

 「ねえ、おにいちゃんは、なにになるんだろう」

 「なんだろうね。おれはマツが何になるのか楽しみ」

 「ふふふ、そりゃあ二人の可愛さをMAXに引き出せる配役があるわ」


 冒険者ギルド内はすっかり夜の酒場になっていて、俺達が歩くこと自体危険かもしれない。マツの手をしっかり握って歩く。


 「じゃあ、おやすみ。良い夢を」

 「はい、タレンティ-ナさん」

 「おやすみなちゃい」


 次の朝、おれはタレンティ-ナさんと、同室のカランさんと一緒に朝ごはんを貰いに、冒険者ギルドのレストランエリアに行く。

 子供だけで物騒なら、一人でも大人が多い方がありがたい。

 マツを守るのは出来るだろうけど、目立つしね。


 「よう、ちゃんと起きて来たな」

 「おはようございます」

 「おはようございますアヌビリしゃん」

 「お、ちゃんと名前を憶えてるじゃないか」

 

 一気に五人も増えた知り合いの名前を、昨夜スマホのメモに書き出して、今朝はマツと復習したのだ。


 「さて、昨日も言ってた〈ヴェール ドゥ シュバイツ〉の演目に登場するのは、小さい精霊と、精霊王、その後のハイエルフのブランネージュ様、太陽と創造の神ゼポロ神、大地の女神と水の女神、そして、ユニコーンだ」

 「鹿は?」

 「ユニコーンだけだ」


 「精霊王とハイエルフのブランネージュ様は僭越ながら私が演じさせていただいている」

 まあ、このメンツの中ではそれしかないでしょう。

 「ゼポロ神はアヌビリが」

 うんうん、

 「大地の女神と水の女神と風の女神をタレンティ-ナが演じている」

 うんうん、ぴったりとは言えないけど大丈夫。三役か大変そう。


 「そして、今まで、小さい妖精を僕、カランがやってて」

 「ユニコーンを大道具として、おいらが手作業で操っているのだ」


 「でも、君たちの可愛さには太刀打ちできないから」

 「ちいさい精霊を、まっちゃんがやって」

 おお!

 「もう一人精霊王が変身した小さい妖精をシュンスケがやるってことに決定だ」

 がくー、またそれか!

 自分から翅は出さねえぞ!


 「おにいちゃん、あたしがせいれいちゃん?」

 「うん、似合いそう!」

 「わーい」

 “たのしみー”

 “なにいろのせいれいかなー”

 お、みんなも気になるよなー


 「桃色の精霊とか似合いそう」

 “ぎゃはは、それってなにぞくせいだよ”

 「可愛い属性」

 “それいい!”

 「きゃはは」


 マツと俺の間で精霊が笑い転げている。

 「くすくす。いいわね、可愛い属性の桃色の精霊」

 タランティーナさんから高評価。採用なるか。


 「さっそく、衣装のための採寸をしましょうかね、まっちゃん」

 「あい!」

 「多少サイズ調整できるはずだから、その洋服の上から僕が計っちゃうね」

 「はーい」

 カランさんにあちらこちら計られていくマツ。

 「あたしは、シュンスケ君を計ろうかな」

 「え?わかりました」

 今度はタランティーナさんが俺を計り出す。

 「シュンスケ君って子供のくせに足が長いわね」

 「え?本当ですか。嬉しいな」


 ≪なんだあそこ≫

 ≪私たちは子供達を探して必死だというのに≫

 離れた席から嫌な感じのセリフが聞こえる。

 

 すみません、俺も自分達を守るためにやってるんですよ。


 「じゃ、これで衣装作って来るよ~」

 「はーい」

 タランティーナさんは縫製のために宿舎に向かっていった。

 “白色くん、ついていって”

 “おっけー”


 「じゃあ、この町では今夜の公演だから、教会で少し稽古をしようか」

 「はい!」

 「わーたのしみー」

 

 カウバンドの街も冒険者ギルドのすぐそばに教会はあった。

 そしてここの教会にもある音楽室に来た。普段はミサの音楽を練習するための部屋なんだけど、レンタルスタジオみたいに、お布施という名の料金を払うと借りれるらしい。

 それに、さっきのレストランエリアにいた、子供を探し中の親の目から逃れられてよかった。


 「ごめんね、気が付かなくって」

 「いいえ、ありがとうございます」

 かすかに、元気な子供達の声がする。ここにも孤児院があるんだね。

 孤児院の守りは強いのかな。攫われていなくてよかったよ。

 「じゃあ、とりあえずチェンバロを弾いてもらえるかな?」

 「はい」

 「おうじ、きらきらしないでひくんだよ」コソッ

 おっと、そうだな。

 「さんきゅ、まっちゃん」コソッ


 「じゃあ、とりあえず水の女神さまのお歌から行きましょうか」

 「はい」

 「楽譜は‥」

 「大丈夫ですよ・・・って一応貸ります」

 うん、弾きなれていないようにしないとね。少し探すふりをして楽譜を借りる。

 探さなくてもどの教会も置いている場所は同じだし、神々の歌の楽譜は、教会の音楽室だから置いてあるんだよね。


 久しぶりに楽譜を見ながらチェンバロに向かう。

 タランティーナさんが歌い始める。

 人魚姫のヴィーチャとはまた違ったテイストだな。

 オペラ歌手のような深みのある声。

 これなら、と俺は二音上をなぞって歌う。まだボーイソプラノですからね。


 「ひええ」

 「うん、おいらも」

 この曲のどこにパーカッションを入れるのか、楽しみなのになかなか始まらないなあって思ううちに一曲終わってしまった。


 「こら、あんたたち。打楽器!」

 「だって」

 「なんかトリハダが」

 ぱちぱちぱち

 「すごいねーふたりとも、はじめていっしょにうったったのにぴったり」

 俺の歌を何度も聞いてるマツの拍手

 「たしかに、気持ちよく歌えたわ」


 「とにかく、打楽器を合わせてもう一度!」

 「はーい」

 

 この合奏の打楽器パーカッションは小ぶりなのに重低音の大太鼓、小太鼓、三種類の音程の鐘、そして鈴、トライアングルのような音色のものなどを、曲や劇中の効果音に入れる。

 学芸会の演劇には打楽器がなかったから、さすがプロは違うぜ。打楽器を入れると神秘感が増すんだ。


 ただ、弾きながら演劇をするわけではなくて、録音と再生の魔道具があって、ある程度は録音しておいて、再生しながら使うらしい。五人しかいないもんな。それでも歌いながら演じるのはオペレッタと言うかミュージカルみたい?

 しばらく、色々な曲の練習をしていた。途中から鈴を持ってマツも参加。


 バアン

「出来たー!可愛い服―」

 マジで桃色ちゃんだ!

「じゃあ、着てこようか」

「うん、おにいちゃんも」

「ああ」

「あら、ここは女同士で着るのよ」

「少し神経質と思われるかもしれないですが、俺の目の届くところで。皆さんを疑ってるわけではないですよ?と言うわけで、マツ、これで着替えて」

 と言って、ボタンの付いたバスタオルを渡す。

「はーい」

「あら、便利なものがあるのね」

「でしょ!」


「着たー」

猫耳の桃色のカボチャパンツの付いたスカートの桃色の精霊ちゃん。これに

「翅はこれ」

「わーい!」

おうじとおそろい~コソッ。これっ。

くるりと回って大喜び。


「ぶふぉっ」

水を飲みかけていたビャオが吹く。

「可愛すぎか」

「ですよねー」


そうして、マツの初舞台の夜を迎える。

俺?学芸会でデビュー果たしたじゃん。


お星さま★お願いします♪

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