109【公国との国境で】
今日の二本目です。
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「エスカーザさん本当にごめん」
「泣かないでください殿下」
「いやいや、だって、俺がムーシュをやっつけた後にすぐに向かえば、一晩も苦しまずに済んだのに」
エスカーザの話を一通り聞いた俺は、ユグドラシルとマツの二人に慰められて引っ込んだはずの涙がまた溢れていた。
「ぐじっ。いやまあ、そりゃ泣いている場合じゃないな。しょうがない」
泣き虫は親譲りだしぃ。
シャツの腹のほうを引っ張り上げて顔を拭こうとすると、
「こら、おうじ」
マツにハンカチで拭かれた。
「・・・鼻かんでいい?」
「くすくす、いいよ。シャツでかむつもりだった?」
「急にかみたくなった」
「ハロルド、俺の中に一旦入ろうか」
『うん』
「まって、ゼッケンが」
『ありがとう、マツ』
『じゃあ、私は一度あちらに帰るね』
「うん、ありがとうユグドラシル」
「ありがとうございました。
消えた、本当にあちらの世界樹さんなんですね」
俺と一緒だとみんな見えちゃうみたい。
「そう、綺麗な人でしょう?」
「そうですね。これからいいことありそうです」
エスカーザの目の光がしっかりしていることに安心する。
「ところで、話はがらりと変わるんですけど、殿下の服の下に着られている革鎧って」
さっきシャツをめくったときに見えたのね。
「あ、これ?モササの鱗を表面に貼ってもらってるんだよ」
「なるほど海竜の、ただならぬ気配がしておりましたから」
「へえ、さすがわかるんだね。こんど彼女を紹介するよ」
「ぜひ」
うん。駿ちゃんたら、大人っぽいせりふを言えたぜ。内容は全然違うけどさ。
「じゃ、とりあえずスブルグ辺境伯領の冒険者ギルドで、ポイコローザ公国の疫病の情報収取だな」
スマホの時間は昼の一時、もし疫病が発生しているなら一刻も早く何とかしに行かなければならない。
「あ、エスカーザさん身分証は・・・無事ですねでは」
おれは空中に扉を出し、スブルグ辺境伯領の冒険者ギルドの入り口の扉に直接繋げる。
「あら、お帰りなさいませ」
俺の部屋を世話してくれた職員が都合よくカウンターにいた。
「ただいま、あのポイコローザ公国の何か緊急を要する情報は入ってますか?」
「その件も併せて、ご説明するとのことで、ギルドマスターの部屋にご案内します」
「よろしくお願いします」
大体どこのギルドでも三階にあるギルドマスターの部屋に案内される。
「大丈夫?エスカーザさん、レストランで待っててくれてもいいんだけど」
「いえ、自分が一番分かっておりますので」
「えしゅかーざしゃん、ゆっくりでいいからね」
「ありがとうマツさん」
コンコンコン
「失礼します。シュバイツ殿下が戻られたのでお連れしました」
「入ってくれ」
ガチャリ。
「突然すみません、ギルド長」
「いえ、良くお越しくださいました。お待ちしておりました。私が今このスブルグ辺境伯領都の冒険者ギルドマスターをやっておりますシューリンガンと言います」
「シュバイツです。・・・本名ですか?」
「はい?」
「前後に長いスペルがあってその省略とか?・・・失礼しました。シューリンガン殿ですね」
先に鑑定すればよかった。何の冗談かと慌てたよ。うん、カタカナの世界だったらありだよね。ギルド長にも家名はあるけど割愛で。元Aランク冒険者ですね。四十五歳の人間族と。
ドミニクと同じ位の年だけどかなりおっちゃんだ。いや、ドミニクはなんか少し若返ったからもともとこんな感じ?
「呼びにくければギルマスで」
「そうします。
さて、お一人紹介させてください。
この方は、ポイコローザ公国のエスカーザ フォン リザルド殿。公爵家の嫡男さんでいらっしゃいます」
「ああ、あなたが」
「よろしくお願いします」
二人の握手が終わったところで話し出す。
基本、一番身分の高い俺が話すのが先らしい。
「このギルドではポイコローザ公国の件でどのような情報が入ってきてますか?」
「はい、昨日殿下が保護していただいた地竜たちは、野良の魔物ではなくて、公国で飼育及び保護されている者たちとの連絡が魔道具でありました。合わせて、ポイコローザ公国との国境付近にそこのエスカーザ氏の魔法によって大量に転移して来たということも聞いております」
「その、転移に至った原因は」
「公国に悪魔が現れたことによる、対処と避難と言うことでした」
「なるほど、エスカーザさん合ってますよね」
「はい」
「そのうえで、ガスマニアの国境つまりこのスブルグ辺境伯領と公国の間の封鎖の通達がありましたので、現在封鎖中となっています」
「封鎖が完了するまでに出入りしたものは?」
「国境の門の中の設備で足止めいたしております」
「わかりました。良かったです」
すごいな、冒険者ギルドというか、こういう対応って、現代の日本みたいだぜ。
魔法による通信は古くからあって、使いこなれているってことだな。
「では俺から報告を。例の女悪魔、ムーシュっていうのですが、あれは俺が捕えて無力化し、現在大地の女神の預かりになっております。
ですから、ムーシュ単体の脅威は無くなったと考えて大丈夫です」
「なんと、シュバイツ殿下、ありがとうございます」
「それから、地竜達が亡くなった土地は浄化をして公園化を完了しています。いつかあそこに慰霊碑でも建てていただけると、さらに地竜達が浮かばれるかもしれませんね。時々会いに行ってやってください。これはエスカーザさんたちの仕事かもしれませんが、国が違いますからねえ、話し合いは必要かもしれませんね。ガスマニアの皇太子に連絡なら俺が出来ますけど」
「殿下、ありがとうございます」
エスカーザさんは少し目尻に涙が浮かんでいるけれど、爽やかな笑顔で俺の右手を両手で持ち額に手の甲を当てる。
俺が初めて見たリザードマンって、改めて言うけど、イケメンなんだよ。うん。
「国際的なやり取りなら、こちらでもやりますよ」
ギルドマスターが手配してくれるみたいだな。
「地竜達はポイコローザ公国の様子が確認できてからお返しします。いまは俺のアナザーワールドという魔法で出来た空間で穏やかに過ごしていますよ。肉食の子達にもちゃんと食事を出しております」
「わかりました」
「それから、ギルドマスター」
「はい、シュバイツ殿下」
「ラズラン領との橋はまだ復旧していませんが、トルネキ王国側が通れるようになってるだけ、ここの孤立感は減ってますよね」
「はい、一応物資が入ってきました」
「じゃあ、公国の門の人を見てきて、公国内のムシューが現れた場所付近の滅菌除菌と、それから橋の応援・・・ぶつぶつ」
指折りながら段取りを整理する。
「殿下が直接行って下さるので?」
「はい、俺は身軽ですしね、こういうのはスピードも大事ですから」
「そうですね、ではよろしくお願いします」
立ち上がって移動を始める。
ガチャ
「あ、殿下お部屋にお昼を持っていきますよ」
「本当ですか?エスカーザさんの分もお願いできますか?」
「畏まりました」
「お代は」
「お部屋は昼食付ですよ」
そんなギルドあったっけ・・・まあいいか。
俺は職員さんに借りている部屋のカギを受け取って最上階に上がる。
「えしゅかーざ、おててあらいに行こう」
「はい、マツさん」
手洗いを誘いながらトイレの場所とかを案内するマツ。
ええ子や。
“みんな、ポイコローザ公国の国境と中に行ける?”
“こっきょうは、いけるんだけど”
“こうこくのなかは、ちょっとにがて”
“どうして?”
“あっちは、ようせいが、はばをきかせているんだぜ”
“おおう、この世界は精霊と妖精の仲がよろしくない?”
“悪くないけど、良くもないんだよ”
ありがとハロルド
精霊界も複雑なんだな。
“あたしが、なんとかいってくる”
緑色ちゃん!
“といっても、しょくぶつに、もぐりこんでおくしかできないから”
“おねがいします!”
“いってきます”
精霊ちゃん達と会話している間に、スイートルームのダイニングエリアに遅い昼食が運ばれてきた。
「おいしそ」
「そうだな、まつ、これ食べたら一時間ぐらいお昼寝しようか」
「いいの?おうじ、マツをおいて、でかけたりしない?」
「しないよ、俺も少し休むよ」
「わかった」
「その間に、エスカーザさんはアナザーワールドへ。皆さん、あなたを心配しているようなんです。とくに飛竜の子がと、お世話している精霊が言ってます」
「わかりました。そうさせてもらいます」
「それから、貴方もまだ療養が必要なので、そこにも家がありますので、ちょっとみんなとお休み下さい。あなたぐらいの男性の人型精霊がいますので、何かあればそのものに伝えれば俺に分かるようになってますから」
「はい・・・何から何までありがとうございます」
「それじゃあ、いただきます」
「いただきまーす!」
「いただきます?」
「あ、食べる時にする挨拶と言うか風習なんです。俺たちの食事って、植物や動物の命があったものをいただいているでしょう?感謝して食べるということです。他人に押し付ける風習ではないですけどね」
「すばらしいことですね」
「でしょう?だから、どこでも行っている事なんです。そのせいか俺の周りの人、今ではマツとかも習慣になっちゃっていますね」
「そう、まえはばらばらにいきなりたべてた」
マツの言葉に目を細めながら食事を始めるエスカーザさん。
「私たちもそうですね。酒を飲むときの音頭しかないですね」
スフィンクスの報告によると、彼は地竜達みんなに慕われていて、すごく懐の深いリザードマンだそうだ。公国の公爵家に生まれたのに、高位の生まれと言うことに胡坐をかかずに、地竜のために留学して、常にみんなのことを考えているとか。
うん、リスペクトするべき人だな。これからも親交を続けることが出来たらいいな。
やっと愛用のデスクトップが復活~。
やっぱり昔ながらのでっかいボタンのキーボードが好き♪
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