108【甘ちゃんの反省会】
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昨日悪魔が食い散らかした地竜たちの血の跡を北へたどっていくと、倒れていた人が居た。
「わ、大変!」
俺は大急ぎでその人に掛け寄る。
タイナロン様みたいなポセイドン族のような鱗が首から耳に掛けて見えているガッチリした男性が、倒れていた。後ろ向きに生えている角が左の頭に一本あって、もともとは二本か、右は根元付近で途中からない。尻尾もあるけど鱗がぼろぼろで、なんか爛れている。細やかな刺繍の入った立派なローブを着ているみたいだが、かなりボロボロになってしまっている。
鱗が一部剥がれたそこや、頬や左の手の甲などの皮膚がすこしじくじくと膨れたできものが化膿しているようにも見える。
右腕が肘から無くなっている。でもそこを布できつく縛っているということは、やっぱり生きたいからだ。本人がしたのか、あの地竜の仲間か、他にこの人の仲間がいたのか・・・。
鑑定しながら近づく。
エスカーザ フォン リザルド
種族:リザードマン 二十四才
ポイコローザ公国 公爵嫡男
状態異常:貧血、災悪痘感染
本当に酷い、女悪魔に気を取られすぎて、ここまで見に来るのが遅くなった。相変わらず甘い自分に腹が立つ。
思わずかみしめる口から鉄の味も感じる。
俺だって血が出るんだ。貧血になるほど出血したらさぞつらいだろう。
そこへこんな、災悪痘なんて大変な病気に感染してしまって、これはもう発病しているのだろう。
「おい、エスカーザさん」
俺は、自分の変身を解き、ただれている表皮に構わず男性の上半身を抱きおこす。
荒いけれど呼吸はできている。熱は高いな。きっと大怪我によるものと、この大変な病原菌と戦っているのだろう。
俺は彼の口からエリクサーを注ぎ込みながら、彼を包み込むように聖属性魔法を発動する。
「エリクサーだよ、エスカーザさん。もう大丈夫だよ」
ゴクリ
よし、飲んだ。
右手と右角は生えたけど、たしかに体中全体を浄化するには難しいものがあるな。
俺は彼の魔力回路を探り当てようとした。
“しゅばいちゅ、こっちのほうがいいよ”
キュアちゃんのアドバイスで頸動脈から心臓を通り血管をイメージするほうがしやすかった。この人の血流に乗せて俺からの魔法を流し込む。これで全身を浄化する事が出来るだろう。
その間に新たな、アナザールームを出す。
さっきのムーシュは独房だったけど、今度は個室の病室だな。風景のある窓も付ける。
用途に合わせた設定が出来るのが便利かも。
仕様は一緒だけど、さっきより天井高く、面積も広く、環境をマシにしておこう。
抱えている頭の瞳が開く。
「エスカーザさん」
「私に触れては・・・いけない、感染・・・」
「俺は大丈夫、大丈夫だから。今は自分の事を。それより先にこれを、美味しいお水ですよ」
かすれた声に、言葉を遮って、今度はコップの水を飲んでもらう。
水の女神にもらったポットから出したユグドラシルのふもとの湧き水だ。謎の効能もあったはずだし。
「ほんとに美味しい、生き返ります」
「痛いところはないですか?」
「痛みはもう感じないが、たしか利き手がああ、ある」
「はい、先ほど治りましたよ。角も」
と、携帯カメラで確認させる。
腕が生えかけるタイミングで緩めた包帯からは、肘から手の甲に掛けて綺麗に鱗が揃っている。モササより少し緑がかった青い鱗だ。
座る事が出来るようになったエスカーザにもう一度鑑定をかけると、感染は無くなって、貧血と栄養失調が残っていた。魔法を使った後なのかな?魔力を使い切ってたんだな。
「とりあえず、この部屋に入ってもらっていいですか?中にシャワーがありますので、遠慮なく使ってくださいね。着替えはえーっと、前にウリサ兄さん用に預かっていた前合わせのシャツと緩い紐のボトムと・・・これなら体形が違ってても大丈夫でしょう。上は、俺の予備のローブ、これはもともと大人サイズでサイズ調節の付与がしてあるから良しと。
シャワーを使ったらそのベッドで横になっていてください」
「はい、あなたは?」
「詳しいことは後で。俺はこの辺りを浄化したらまたお訪ねします」
手を貸して、部屋に誘導する。
エスカーザがいなくなったことで、俺は一帯をもう一度浄化する。
そうしてもっと北へ鑑定をかけながら飛ぶ。
もう、行列の痕跡はないな。突然エスカーザが倒れたところから南にまっすぐ行列が出来ていたのかな。
あの大量の地竜は何処から来たんだろう・・・。
今度は見落としが無いように注意深く見渡して、さっきのバラとぶどうの公園に戻ると、四阿風に変わったテーブルで、今度はユグドラシルと猫耳がお話をしていた。そばではハロルドがバラを食んでいた。
「おうじおかえり」
『お帰り。どうだった?』
「それが・・・」
俺は一通り反省文を口から吐き出して、懺悔をしていた。
泣いてる俺の頭を、同じように涙を流しながらマツが撫でてくれていた。
「だって、しょがない、おうじ」
なでなで
「まっちゃん」
「あのときも、あたしがいたから、おうじはあれよりうごけなかた」
「いやいや、まつのせいじゃないよ」
なでなでなで
「しゅばいちゅおうじは、たくさんの、ちりゅうたちを、たすけたんだよ。えらいよ」
「うんありがと」
『そうだね、仮に、そのリザードマンが死んで、病気が広がっちゃったとしても、別に王子には責任はないよ』
「・・・まあそうなんだけどさ。詰めが甘かったのが情けなくてさ」
今度は反対側からユグドラシルがなでなで。
でも前にもこういう事あったんだよね、バジャー子爵領でさ。反省が生きてないのが情けない。
『まあ、そういう経験を積み重ねて、立派な男になればいいじゃない?』
「そうだね、うん」
「そうだよ、リザドマンはまだ、いきてる」
なでなでなでなで
ふうー
「よし、うじうじ終わり!二人ともありがと。俺にはエリクサーぐらい効き目あるぜ」
『あら、うれしいわ』
「おうじげんきになった。やったー」
「ほんとにありがとうマツ」
チュッ
「ユグドラシルも」
チュッ
思わず二人のほっぺにキスをしちゃう。
「きゃっきゃ」
『あらあら、ふふふ』
「それにしても、冬なのにここら辺は寒さがちょっとマシだな」
そよ風に目を細める白馬に話しかける。
『ああ、それは北の方、王様の国からずっと北東の方かな?そこに地熱を利用した工業の国があるんだよ。地熱や生産で発生した熱が陸上に上がって来るのさ。だから冬に北風が吹くのは他の地域と同じだけど、ここは北風が暖かいのさ』
ハロルドはそちらにも行った事がおありで?
「なるほど、その国はいつかクリスと行きたいねと言ってたんだよね」
『そうね、そういえば城で盛り上がってたわね』
お城で話していたから葡萄の蔓が聞いてくれていたか。
「では、エスカーザさんの様子を見てきます」
「『はーい』」
コンコンコン、ガチャリ。
「エスカーザさん、落ち着きましたか?」
「はい」
そこには、すっかりさっぱりしてるけどまだすこし青白いリザードマンが、ベッドに腰かけていた、
「さっきより顔色はよさそうですね。ちょっと出てきてくれますか?あ、この毛布も羽織ってそうそう、幾分マシとはいえ、冬ですから外は寒いです」
清らかな水を湧き出す噴水の傍にバラが咲き誇り、葡萄がふさふさとなっている四阿に、リザードマンを連れてくる。
「あの、ここは?」
「とりあえずこの椅子にどうぞ」
「えしゅかーざしゃん、どぞ」
「かわいい、あ、ありがとう」
猫耳がリザードマンにミルクティーを入れている。メルヘンだな。
「改めて、自己紹介をしますね。
俺は シュバイツ フォン ロードランダ。
スピリッツゴッドという種族で、こう見えて十九歳です(ここ大事)」きりっ
「え?あ、ロードランダって言うことは、最近公にされた、ブランネージュ国王陛下の・・・」
「息子です」
「これは、たしかにうわさに違わずお美しい」
「ちょ、それ男の俺に言う?」
「ははは、お会い出来て嬉しいです。
私はポイコローザ王国の侯爵嫡男の エスカーザ フォン リザルドと申します。
種族はリザードマンでして、年は二十四才になります」
思わず立ち上がって挨拶しようとするのを何とか座ったまま自己紹介してもらった。
「それで、この素晴らしい公園は何処でしょうか・・・」
「ここは、あなたを保護した場所から一キロ南に下ったところ」
「はい」
「俺が女悪魔ムーシュを捕らえたところです」
ガタン
「む、ムーシュだと・・・
お、思い出した、あの悪魔の女・・・」
突如俺の制止も聞かず立ち上がり、こぶしをぶるぶると握りしめながら、鬼の怒りの形相になり歯ぎしりをする表情のエスカーザを見て少しほっとした。
「えしゅかーざしゃん」
マツが彼をなだめようと、震えるこぶしにそっと小さな手を置く。
「あ、あ、ごめん、こわかったね?すみません」
「いいえ、大丈夫ですよ。逆に安心しました。ムーシュの仲間ではないと分かって」
「もちろんですよ。私達はあの悪魔にひどい目に合わされていたのです」
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