102【ラズラン領】
第三章 スタートダッシュの二本目です~
明日から一本ずつに戻ります~
いつもお読みいただきありがとうございます!
このページでゆっくりしていってください~♪
もう、夕方になっていたけど、ラズラン伯爵領の領主館に連れて行ってもらう。
「まっちゃん大丈夫?」
「へいき」
初めてのポリゴン町から出た遠出なのに、疲れを訴えずに俺にくっついて来てくれている。
「ここです」
馬で五分ほどですぐに着いた。でも歩いたり走ったりしたらもっとかかるもんね。
ラズラン領主館は、横に広い二階建ての石と土の建物だった。
「お帰りなさいませお嬢様、その子供たちは?」
出迎えた侍従がアウラさんに声を掛ける。
侍従の言い方に少し眉を寄せて、
「この方には王族並みの礼節を取るようにと言いたいが、説明は後だ。バーデスの部屋に行くぞ」
二階のとある部屋に入る。
マツは俺に手を引かれたまま、大人しく付いて来てくれている。
天蓋の付いたベッドでは、男性と女性が側について声を掛けている。お一人は伯爵でもう一人は奥様だろう。
「父上、母上、どうですか?」
「先ほどからもう、朦朧としていて・・・」
「父上、少し場所を変わってもらっていいですか?」
「その子は?」
「この子がシュバイツ殿下ですよ」
「え?ハーフエルフみたいだが大丈夫か?」
俺の見た目はもう有名なんだな。
「では失礼します」
変身を解き、ベッドに近づきながら浄化魔法を自分に掛ける、マツにも。
なんせ外から入ってきたからな。
「おお、なんと・・・」
「翅が・・」
ラズラン一家は、西アジアっぽい雰囲気の人間族の一家だ。健康的な褐色の肌が、姉御っぽいアウラさんをかっこよくしていた。ハンサムレディってやつだな。
その弟さんなのに、青白い顔で、苦しげに眉を寄せて、呼吸も浅くなっている。
鑑定:〈状態異常:脳腫瘍〉
これはまた、大変な病気だ。耳が急に悪くなったのもきっとこれだよね。
俺はアイテムボックスからエリクサーを出して、まずは飲んでもらう。
聖属性魔法を発動させながら頭を抱えて、もう一つの手で小瓶を口に持っていく。
耳が聞こえないって言ってたな、念話をしてみようかな。
「アウラさん、この方がバーデスさんですね?」
「そうだ」
“バーデスさん、分かりますか?”
良し、少し頷いた。
“ポーション飲めそうですか?”
その合図で少し口を開けてくれたので、ちょっとずつ流し込む。喉が動いて、うっすらと体が光る。
すこし、呼吸が安定して来たかも。
俺が抱えた頭の下に、キュアちゃんがラメを振りまきながら潜り込んでいく。
“しゅばいちゅ、こっちのほうなの”
後頭部?
“あたまの、まんなからへん”
“ばしょがわかるんだ、うーんなるほど。影を感じるかもしれないよ。すごいなぁ、えらいぞ”
“えへへへ”
昔テレビの特番でよくやってたな、難しいところの脳腫瘍とか癌とかを取り除くの。
エリクサーだけでも改善していくけど、念のために回復魔法を高い濃度で出す。
我ながら結構眩しい。
「シュバイツ殿下、翅がさらに輝いて」
「なんて美しい。天使だわ」
二人の女性のつぶやきが聞こえるけど、今はバーデスさんに集中だ。
もしもこれでハロルドのもっと天使っぽい羽根を出したらひどいことになるだろうな。
治療の手ごたえを感じて魔法の発動を止めると、光がおさまっていく。
俺はキュアちゃんがずれるのを感じて、ゆっくりバーデスさんの頭を枕に戻す。
黒い瞳がゆっくり開いて俺を見つめてくる。目に力が出てきた、うん、元気になりそうだね。
「ああ、なんて美しい緑色の瞳なんだ。ありがとうございますシュバイツ殿下」
バーデスさんが起き上がる。
「無理はなさらない方が。俺の声はちゃんと聞こえますか?」
「ええ、あの元日の教会でかすかに聞いた美しい歌を思い出しました。
それに頭の中の悪霊が立ち去ったようで、こんなに清々しい気持ちになったのはいつぶりでしょうか」
「もしかして、耳が聞こえなくなる前から、悪霊とか頭痛とかに悩まされましたか?」
俺の知識は過去のテレビや小説、ネットからの受け売りだけどね。
「はい」
「それは、お辛かったでしょう。でももう、改善したはずです」
袖を引っ張られて振り向くと、マツが心配そうに俺を見ている。
それに笑顔で頭を撫でる。
「おうじ?」
「大丈夫だよ」
もう一度鑑定をかけると、脳腫瘍の状態異常は消えていた。すこし栄養失調があるもしれない。脳腫瘍は、食べ物を受け付けなくなることもあるって言ってたもんね。
「少し、栄養が足りてないようです、消化の良いものから食べていけば、体力も戻られるでしょう」
「それにしても、シュバイツ殿下のお姿を見られるなんて、災いが転じてとはこのことでしょうか」
ラズラン伯爵が言う。
だから俺は黄色い超特急じゃないぜ。
「それより、殿下はポリゴン町から来られたのだろう?」
アウラさんが話題を変えてくれた。
「はい、ギルドで一泊しようかと」
「なら、ここに泊まってくれ。夕食もこれからだったんだろう?」
「殿下、私からもぜひ、夕飯も用意させよう」
「いいんですか?連れもいるんですけど」
「見たところさっきから大人しいからな。ちゃんとした子なんだろう」
「可愛いわね」
マツのことを言われてうれしくて、思わず笑顔を彼女に向ける。
「ええ、いい子なんですよ」
「侍従長、上客間へこの方達を案内してくれ」
始めにアウラさんに声を掛けた方が侍従長だったんだね。
子供二人には勿体ない広い客間に案内された。
「一時間ほどでお呼びします」
「わかりました」
「まっちゃん、眠くない?これからご飯食べられる?」
「だいじょぶ、まちゅは、はろるどのうえで、ずっとねてたから」
「そっか、そうだったな」
客間をちょっと探検すると、シャワーが付いていた。
「まっちゃん、シャワーあるよ、かりる?」
「うん!」
って返事をしながら俺の前で脱ぎだす。
「こらこら、脱ぐのはこっちで」
手を繋いで連れていく。
「えっと、赤いぽっちか、どうしようかな」
赤いぽっちのカランは火属性の魔法が使える人しかお湯を出せないんだ。
“おれがてつだってやろう”
“あたしも”
赤色くんと青色ちゃんがタッグで手伝ってくれるみたい。
「じゃあ、頼んじゃおう。まっちゃん、精霊ちゃんが手伝ってくれるらしいから、お湯が出るよ。石鹸はこれ」と言って、いつもの手順の面倒なやつじゃなくて、泡で出てくる全身用を出す。
泡を出すところを見せると
「うにゃ!たのしい!」
「でも遊んでたらご飯食べにいけないからな」
「うん」
脱衣所で着替え其の一を出す。
「タオルがこれで、(かぼちゃ)パンツとシャツこれな」
「うん」
と言いながら、かまわず脱いじゃってシャワーへ行く猫むすめ。
あ、首から掛けてた身分証と種族変更の魔道具がぶら下がった紐も外しちゃったな、猫耳と尻尾が復活した!でも猫人族だからってシャワーが嫌ってわけじゃないんだな。うん、日本人の先入観だな。
その間に俺は、マツの余所行きの服をディナー用に揃える。着る順番が分かるようにソファに並べておく。着替え其の二だ。
もし、貴族にもどれなくても、こういう機会に貴族のご飯にちょっとずつ慣れた方が良いよな。教養ってやつだ。ポリゴン町を出る前に、伯爵令嬢のナティエさんに、アイラちゃんと一緒にカトラリーの使い方も練習していたみたいだしね。
マツの髪型は黄色とブラウンのメッシュのおかっぱ。それに会うリボンも出しちゃうぜ。
俺の貴族っぽくて地味目な服も選んでおく。
まあ、きれいめシャツってのと長ズボンでいいか。冬だから、あとはジャケットかな。
「おうじぃ」
マツが頭を拭きながらシャワーから出てきた。
猫耳と尻尾どうしようかな、まあ、このお屋敷では連れ去られるなんて無いだろうし、可愛いからこのままでいいか。相談したいこともあるしな。
「お、ちゃんと下着きれた?」
「うん」
「じゃあ、俺もダッシュで洗ってくる。黄色ちゃん達お願い!」
“りょうかい!”
黄色ちゃんが赤色君との連携でマツの髪を乾かしてくれるようだ。
傍から見たら六才と四才のお部屋。男の子と女の子。しかし俺の中身は十九歳だ。うん、マツは可愛いけど俺はそういう趣味は無いぞ・・・で何を誰に言い訳してるんだ俺は。ただのお世話だ。あいつは可愛いトラ猫ちゃんだよ。
なんて、変なことを考えながら、マツと同じシャンプーで全身洗って出てくる。
「おーブラウスとスカートも着れたじゃん」
「えへへ」
俺は脱衣所でボクサーパンツだけ履いてきたから他の服を着る。
着てる間に、精霊ちゃん達が頭をブローしてくれる。毎回便利で助かってますよ。両手が空くんだもん。
ブラシでマツの髪を梳かして、ハーフアップにしてシリコンゴムで結んで蝶々になってるリボンは付けるだけ。それにこれぐらいなら俺でもできる。クリスみたいに編み込みは無理だけどね。
「ボレロも着ておこうな、廊下寒いからな」
レースの付いたお嬢様靴下と真っ赤なエナメルの靴。完璧じゃん。
「うん。おうじもジャケットきるの?」
「そう」
「リボンは?かみにリボンはしないの?」
「俺?」
すでにシリコンゴムで括ってはいる。
「うん。まちゅがしてあげる」
「じゃあ元旦に使った金色のやつを、これはリボンだから蝶々結びにするんだけど」
「わ、きれー。ちょうちょむすびできる」
「マツがこっちにする?」
「ううん。これはおうじよう」
「だしかに、俺が真っ赤なリボンはちょっとな」
「きゃきゃっ、それもぜったい、かわいくなちゃう・・・とできた」
「お、早い、うまいじゃん」
「うん、いつもアイラのあたまでやるんだ」
「そうなんだ。さて着替え終わったところで、記録しちゃおうかな」
スマホを出して、マツだけをパシャリ。
「なんかポーズ付けて」
マツの可愛さに、俺も調子に乗ってきちゃったかも。
「ポーズ?」
「うーんとね、こういうの」
ポーズの見本をスマホから見せる。
「こう?」
「良いぞ良いぞ。
次は、手を伸ばしてグーにして手首を曲げてみよう」
「こう?」
「うん、かわいいよー」
やっぱり猫耳には猫パンチポーズだぜ。
スカートから飛び出ている虎縞の尻尾もまた、たまらんです。
カメラマンシュンスケ頑張ってます。
「えへへー」
ほんと、猫耳に真っ赤な大きいリボンは最強だな。
そしてツーショットもパシャリ。
うん、可愛いカップル写真だ。
もう一枚、あ、精霊ちゃんも入ってきた!
コンコンコン
「シュバイツ殿下、食堂へご案内します」
「はい、わかりました。
では行きましょうか、マチューラ嬢」
といってエスコートを。
「ふわわーおねがいします」
キラキラしたお目目で手を繋いできた。
やっと無理のないエスコートができるぜ。
うーん幼児しか無理か、俺の相手はまだ。
とはいえ、ちびっ子同士なので腕は組まず、ただ手を繋いでいる。
いいじゃないか可愛いんだから。
ガチャリ
「案内お願いします」
「・・・ではこちらへ」
あれ?おれの服の選択は間違えただろうか。
侍従長さんの沈黙が少し怖い。
お星さま★お願いします♪
ブックマークして頂くと励みになります!
それからそれから、感想とかって もらえると嬉しいです。