99【乾いた国からの便り】
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それは年末が近づいたある日。
ガスマニア帝国の帝都の海のお屋敷にこの国の第二皇子のボルドー殿下がやってきた。
「シュンスケ殿は、トルネキ王国のアントニオ殿下を覚えているだろうか」
トルネキ王国は大陸の南東の端にあって、大陸とは地続きだが、緯度的にはセイレンヌアイランド共和国と同じ赤道近くの南国である。
セイレンヌアイランドはサンゴ礁の島だが、トルネキ王国はイメージ的にはアフリカのサバンナに近いと思っている。地理で学習した限りは。
「はい、セイレンヌアイランド共和国でお会いしました」
「アントニオ殿下の御父上、つまりトルネキ国王陛下がシュンスケ殿を呼んでいらっしゃるのだ。急いでいるわけではないらしいが、何やら助けてほしいと」
「そうなんですね。ボルドー殿下はあちらに一年ほど留学されていたとか。どういうところなのでしょうか。」
「あちらのさらに東の果てにはね、ユグドラシル様とは別の世界樹があるんだよ」
なんと!世界樹ってあっちこっちにあるんだ。
“しってるよ!”
“がおけれな さま、っていうんだよ”
そうなんだ。異世界も広いなあ。
「一度持ちかえって、父や学園と相談して、スケジュールを組めるか聞いてみます」
「ああ、ガスマニア帝国やロードランダ王国とは違い、人間をあまり好いてくれぬ地域だ。特に内陸の方は獣人がとても多い。それに気候も過酷だ。暑くて乾燥していてね」
「なんとなく、学園で習いました」
「しかし、空間魔法の得意なシュンスケ殿なら、一度行けば、その後は遠く感じないんだろう?」
「はい」
その夜、俺はクリスとともに、ロードランダ王国に帰り、父さんやプランツさんと相談した。
「なるほどなあ、あっちの世界樹か」
「父さんはお会いしたことがありますか?」
「ああ、ちょっとだけ。あちらには妖精王がいるんだよ、俺は精霊王だったけどな」
妖精と精霊の違いが分からん。
「精霊はね、多少いたずらもするけど悪意はないでしょ?」
「うん、みんな無邪気で可愛いよね」
「だけど妖精は癖があるからねぇ」
うえ、めんどうくさそう。
「面倒くさいよけっこう」
あ、顔に出てましたか。
「まあ、ドワーフとか、エルフも妖精が人間族と交わって生まれたと言われているんだけどね、ここの人たちは」
「へえ」
「私は、精霊だったのがゼポロ様に外側をハイエルフに変えられたから、エルフのみんなとは根が違うんだけどね」
「ほうほう。父さんはやっぱりすごいね」
自分の父親のすごさにあらためて目の前の美しいエルフを見つめている。
この人も、神様ではないけど近しいところに存在しているのではないの?
って自分の父をそう思うってどうなの?
俺を見つめる明るい空色の瞳が一度閉じられて、また開く
「そうだな、可愛い子には旅をさせよって言うし」
よくご存じで
「学園に通いながら旅をするかい?」
「そうですね、最低限出なくてはいけない授業とか、調節しながらでもいいか。最悪休学してもいいですしね」
すでに、日本の大学も現在休学中だし。
こっちは、二年飛び級入学してるんだしね。
「殿下、もちろん僕も付いていけますよね」
クリスがキラキラして言うけど、
「それはちょっと考えさせて」
「えー」
「そうですね、殿下に助けを求めているということは、もしかして情勢が不安定なのかもしれないですね。そうなると、いまシュバイツ殿下より身軽で強い護衛ならいいですが、残念ながらクリスは逆に足手まといになるかもしれませんな」
「!」
プランツさんのセリフに、ガーンって音が張り付いた表情で固まるクリス。
「まあ、しょっちゅう帰って来るんだし」
「でも」
「その間に、クリスもすることやしたいことがあるんでしょ?」
「そうですけど」
そうなのだ、クリスも学業の傍ら、リーニング領の勉強もしなければならない。
お祖父さんは若いけどね、領地経営なんて一人でしなくても良いしね。
それにドワーフの血もひくクラフト好きなクリスも大人になればやりたいことが色々あるはずだ。
その夜俺は一人で世界樹の大浴場の露天風呂に来ていた。
そこに呼べそうな固有精霊たちを呼ぶ。
ムー、ハロルド、クインビー、そしてユグドラシル。
すっぽんぽんでユグドラシルに会うのはどうかとも思ったけど、俺の羞恥心のために、湯舟に半身浴中に来てもらった。そしたら、ユグドラシルもお湯の中から現れて、一緒に浸かってるのだ。白磁の美女と混浴♪
『王子、申し訳ないが、私があの地にはトルネキ王国の王都ぐらいまでしか行けぬ。成層圏の高さなら何とか超えられるが』
ムーが透けたまま近くで浮きながら言う。
『わたしにも少し遠すぎるのよね』
ユグドラシルも目をつぶりながら言う。
『トルネキ王国の冒険者ギルドぐらいまでは意識できるんだけど、そのもっと東の内陸はあの子のテリトリーだから入れないんだよね』
テリトリー分けされているんだ。
『私はお花がないといけないです、せめて蜜蜂が巣を作れる程度の花がなければ』
クインビーは葡萄の蔓のところで器用に足を組んで座っている。結構な乾燥地帯なのかな。
『ぼくは、王子の中にいるから大丈夫!いざとなったら王子を連れて、突撃したり逃げたりできるよ!手綱もあるしね』
ハロルドは心強いな。
『私も、ハロルドの手綱のようなものが欲しいわ』
ユグドラシル?に手綱?
「うーんアクセサリーでもいい?」
前にドミニク夫妻にあげた、タッセルをもう少し小さくしてピアスにしたものを一組、濡れた手を拭いて、アイテムボックスから出す。
『あら素敵。くれるの?』
うん。彼女の耳にピアス穴なんて見当たらないけど大丈夫かな?
『今付けちゃおうかしら』
「どうぞ」
鏡も出して持つ。
すると、嬉しそうにつけてくれる。
ちなみにまだお風呂の中です。
『どう?』
「よかった、にあうよ」
『ほんと、ユグドラシルの衣装にも合いますわよ』
『ありがとクインビー』
そうか、精霊達の出入りに制限があるかもしれない地域なんだな。
油断せずにすこし気を引き締めていった方が良いよね。
それでも、俺自身のあたらしい転機の予感にわくわくしているのも止められない。
異世界に来ただけでも世界旅行よりすごい展開だけど、そこから旅に出るのもまた、異世界にきた醍醐味だよな~
素敵な出会いや美味しい体験を俺もしたい!
まあ、学園を卒業してからとは思ってたけどね。
足は二本だけど色々な草鞋を履くのもいいし、順番に履き替えていくのも時間があるのならやっていきたいけどさ。
お星さま★お願いします♪
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