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10【身長が足りないだけで、たらいの水も一苦労】

 「シュンスケは挨拶が上手ですね」

「そうですか?」

 かしまし三人娘が着いてきて別の部屋に案内される。

「この部屋は二歳までの赤子の部屋。今はみんな下にいます」

 なるほどなるほど。柵のあるベッドが並んでいる。窓をあけて換気をしているんだな。確かに誰もいない。

 ふわっとミルクの香りがする。

「では、次に行きましょう。

 こちらは女の子の部屋。おむつが取れた女の子はこちらで寝ます」

 と扉の中には入らずちょっと覗く。

「ひょっとして、まっちゃんはこっちに来たところ?」

「そう!おんなのこのへやでは まつがいちばんちいさいの」

「ちいちゃいの」

 ヨネの答えにマツが追う。

 話しながら女の子の部屋は素通り。

「こっちが男の子の部屋です」

 そう言いながらこっちは部屋の中に入る。

 二段ベッドがいくつもあって、ある程度部屋をカーテンで仕切られるようになっている。

 腰窓と、あ、掃き出し窓もあってその向こうはバルコニーか。

「静かにしてくださいね。ひとり、具合悪くて寝ているのです」

「はい分かりました」

「らいせんせい、しと は まだびょうき?」

「ええ。君たちは本の部屋か下に行きなさい」

「「「はーい」」」

 女の子たちはまた本の部屋に入っていった。


 確かに、奥にカーテンで閉ざされた区画が一つある。

 そこから、少し荒い息遣いが聞こえる。

「ううっ」

 それに構わず、ライが別の二段ベッドを指さす。窓の下とベッドの下に引き出しがある。

「君は今日からこの上の段で寝なさい。荷物はこの窓際の物入れに。

 貴重品は?そのポーチですか。それぐらいなら肌身離さず。シャワーの時は私かシスターに預けなさい。手癖の悪い子供もいるからね」

「はい。わかりました」

 手癖が悪いって、しつけが行き届いてないのでは。そんなセリフは絶対言えないけど。


「それより、病気の子って」

「風邪だと思います。子供はよく風邪をひきますから。施療院に行くほどではないでしょう。感染症なら施療院に移動するんですけどね」

 それでも気になってそうっとカーテンの隙間を開ける。

 この子がシト君か。うわ、顔が真っ赤じゃん。

「ライ先生。晩御飯まで、この子を見ててもいいですか?」

「風邪がうつるかもしれませんよ」

 大丈夫。本質はたぶん十七歳だから。大人の免疫あるから。

「でも、こんな状態で一人はかわいそうです」

「そうですね。まだ私は教会の業務もありますし。ほかのシスターは赤ん坊に手を取られてますからね。お願いできますか?」

「はい。あのう、盥と水と、タオルはどこにありますか?」

「盥と水は一階の食堂の横ですよ」

「タオルはこちら」

 といって大きなキャビネットの引き出しから一つ持ってきた。

「一緒に行きましょうか」

「はい」

 一階の食堂の横に洗面やトイレやシャワーなどの水回りが揃っていた。

 五歳の体格じゃ洗面器サイズでも盥の水を上には持っていけないので(絶対こぼす)、食堂でめちゃくちゃ大きいやかんから、普通サイズ(二リットルぐらいかな)のやかんに湯冷ましを入れてもらって、盥に乗せて運ぶ。生水はうっかり飲んではいけないらしい。日本じゃないもんね。そりゃそうだ。

「シュンスケ、頭いいですね。それなら持っていけますね。水を捨てるときはバルコニーに捨てればいいですよ」

「はい!」

「では、お願いします。何かあったらドアの横のひもを引きなさい。職員の部屋のベルが鳴りますから」

「わかりました」


 部屋に入って、ベッドのライ君に近づく。盥に張った水でタオルを濡らして固く絞る。

 タオルを絞るのも大変だな。この手は!

「シト君、初めましてシュンスケです。お顔を拭いていいですか」

「・・・う?・・・う・ん」

 そうっと赤い顔のおでこに手を当てる。

 うわ、あっつ。

「熱い?寒い?」

「今は熱い」

「そっか。じゃあ」

 と言っておでこを拭ってやる。そして顔全体を。

 もう一度絞りなおして、顎の下や首筋を。

「きもち・いい」

「よかった」

 パジャマの襟を寛げて、服が濡れないように、首に冷たいタオルを当てる。絞り直して何度か繰り返す。

 少し呼吸が落ち着いてきた?

「シュン スケ?って いうの?」

 ちょっと声が掠れてるな。

「うん。よろしくね!」

「うん」

「お水飲む?」

「うん」

 ポーチからスポーツドリンクのパックを出す。これも、めっちゃ大量に入っていたんだ。

 パックのほかにペットボトルタイプもあったんだけど、寝転んでたらこれのほうが飲みやすいよね。パキッとふたを開けて、シトが頭を持ち上げるのを片手で補助しながらパックを口元にあてる。

 変な形のパッケージに変な目をしてたけど、一口飲んだら、夢中になって飲んでしまった。

「これなに?あまくておいしい」

「そうでしょ?内緒だよ」

「うん。ありがと」

「まだ飲む?次はお水だけど」

「うん」

 こんどは、やかんに残っていたお水をコップに入れて渡す。

 シトはもうベッドの上で座っていた。

「はい」

「ありがと。うえ、お水おいしくない。さっきの美味しかったな」

 もう一度タオルを絞る。

「シトの着替えはここ?」

 と言ってベッドの下の引き出しを探る。

「うん」

「あった。上のパジャマだけでも変えちゃおうか。その前に、汗を拭こう」

 絞ったタオルでシトの背中を拭く。そして腕とか。お腹にまわると。

「ひゃひゃ。くすぐったい」

 そうして、上半身を拭き終わると、新しいパジャマを着るのを手伝う。

「シュンスケは魔法使いか?あっという間に治った」

「まだ、熱はあるよ。それに俺は魔法はまだ使えないよ。お水を飲んで汗を拭いただけだ。まだ治ってないから。もう少し寝てて。俺はまだここにいるから」

「うん。ありがとう」

 ちゃんとお礼の言えるいい子だな。さっきのかしまし娘の話と違うじゃん。

 シトは今の俺と同じ五歳らしい。

 もう一度横になったシトの上掛けを整えてやる。

 しばらく、シトと少し話をしたら、まどろんで来たのでそのまま静かにして、眠るまで手を繋ぐ。


 シトが穏やかな寝息になったのを確認して(思わず自分も寝落ちそうになったけどセーフだ。)盥の水を、そうっと運んで、バルコニーに出ると雨水が抜ける穴を手すりの下に見つけて水を捨てる。そして空っぽになったところに、脱いだパジャマやタオル、やかんを乗せて1階へ向かった。

 1階にはみんなで使えるような、たくさん蛇口のついている洗面所がある。日本の学校に良くありそうなやつだ。

 その端っこに見覚えのある赤いぽっちのカランが一つあった。やかんにお代わりの湯冷ましをお願いしてる間に、赤いぽっちのカランをつかんでお湯を出す。おお、結構熱湯じゃん。これなら菌を殺せるかも。素人だから適当だし、煮沸より不安だけど。

「おや、シュンスケ。お湯が出せるのですね?」

「ライ先生。はい、これしかまだできませんけど」

「十分ですよ。

 それはシトのパジャマですか?」

  「はい。水を飲んでもらって汗を拭いたんです。こうやって熱湯で脱いだ服を濯いでおくと、みんなに風邪がうつりにくいと思って」

「良く知っていますね」

「母さんに教えてもらったんです。熱っ」

 ドジな所も見せないと。

 飛び出てる袖を摘んでそうっとひっくり返す。ついでにタオルもひっくり返った。

「大丈夫ですか?かなり熱湯になってますよ。火傷注意ですよ」

「はい。そろそろ良いですよね」

「ええ、充分でしょう」

 熱湯を止めて水に切り替える。

 するとライ先生がパジャマを取り出して絞って、側にある大きな籠にいれた、ほかの洗濯物も入ってる。

「これでよし。明日の洗濯に回せば良いでしょう。もうすぐ夕飯ですよ」

「はい」

 もう一度手を洗って、ポーチから自分のハンドタオルを出して拭く。

 本当はハンドソープを使いたいけど無理なので、こっそり携帯用の小さな除菌スプレーを手に吹き付ける。

 本当に、このポーチ(鑑定したら〈魔法袋特大〉になってた。母さんって何者ですか?) 何でも入ってて。母さんありがとう。

 無限大のアイテムボックスのスキルを持っていても、空っぽじゃしょうがない。

 まだまだ、思い出のウエストポーチ、使わせていただきます。


お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪

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