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94【草木で出来たインテリアを求めて】

 「まずはこちらの商品を見せてもらう前に、俺が取り扱ってる商品はどうでしょうか」

 「そういえば、殿下も商業ギルドの会員でしたな」

 「細々とですが店もありますよ」

 先に俺は手持ちの蜂蜜や蜜蝋製品、そして魔獣の角製の赤ちゃんの歯固めを売り込んでみた。

 そっちの商談はすぐにつけられた。値切られる事もなかった。

 特に歯固めが良い感じである。赤ちゃんが多いのかな。

 「それからこれを、いざというときに置いておいてください。アジャー等のギルドにも置いてもらいましたが、この島にも。お代は必要になってからでいいですし、いつでも交渉してください」

 といって有り余っているエリクサーの小瓶を五つ押し付ける。

 「これは、心強いです」

 商業ギルド長が少しびっくりした後ほほえむ。


 「それで、シュバイツ殿下は何をお探しですか?」

 あいさつ代わりの最初の商談が終わると、ギルド長が本題を聞いてくれる。


 「今日ここへ来る途中に栽培されていた、イ草で作られたマットや床材を作っているところはないですか?」

 「ああ、ありますよ、ちょうど隣の店がそれを扱っています。さっそくご案内しましょう」

 携帯や母さんのパソコンなどの知識によると、畳は東南アジアではなく、日本人が(むしろ)等を進化させたもので、イ草だって日本人以外には雑草だ。それを高級な世界に通用する床材にしたのは、土足で生活するのが嫌だった日本人の大事な文化だったのだろうな。


 商業ギルド長に連れられてきた店は〈イ草マット店〉

 「うわあ良い匂い!」

 カルピンさんの一言に尽きる。

 俺は「懐かしい匂い!」こっちのセリフもあるけど。


 「おや、シュバイツ殿下はイ草のマットを使ったことがあるので?」

 「ええ、母と暮らした家では一つだけこの畳を敷き詰めた部屋があって」

 「なるほどなるほど」

 「なかなか興味深い建材だな」

 カルピンさんが楽しそうに畳を手で押している。俺もだけど

 しかもこの畳は手で押すとふわふわだ。こんな畳は初めて。


 「おや、お客さんかい?」

 店の奥から出てきたのは、人魚族が少しミックスされた人間族の女性だった。

 両耳から首のサイドに掛けてキラキラ光る鱗があって、ゴージャスなイヤリングのようにきれいだ。それ以外は二本脚だし、人間族だね。

 それに、この世界でも、ミックスの人は顔立ちも美しいんだよね。この人はエキゾチックな魅力がある。暑い国だから、洋服の面積も狭いしね。それに長寿の人魚族が入ってるから若いのだ。

 「この人は私の妻で、店の店長をしてもらっています。私がギルド長になってしまってからは、商業ギルドの方が忙しいのでね」

 いろいろな店を纏めるのは大変だろうね。


 「ところで、この畳の中身は何でしょうか」

 「木の板や稲の藁ですよ。この島は米も生産していますからね」

 「お米大好きです。俺いっつも米俵で仕入れていますよ」

 今の日本の畳は堅い細かい木を圧縮した板とプラスチックのフォームの組み合わせ。だけど元はマットレスの役割だったから、藁が詰まっていた。要は藁のベッドの進化系だ。

 俺、これをマットレスにしたいぜ!とくに夏の寝床とか!とか思って、他の畳も触ってみる。ちゃんと固いのもあるんだね。日本じゃカビやダニを嫌がって今は藁の畳は嫌がるし無いし。だけど常に使用人がいて換気されていて、そもそも日本よりカラッとしているガスマニアではそんな心配は不要だよね。


 「カルピンさん、俺、こっちの固いのを床にして、柔らかい方を寝室のマットレスに使いたいなあ」

 もちろんポリゴンの家にも俺の部屋がある。まだ家具は無いんだけどね。そっちはリビングと居室は全部フローリングにしているんだけど、日本の家用の間取りソフトで作ったから、完全に土足厳禁のお家だ。


 「そうだな、えーっとサイズ表は」

 この世界の単位は尺貫法がなくて、メートル法一択。だから、一畳は

 「長辺が二メートルで短辺が一メートルのこれか、一メートル四方の正方形ですね」

 俺がサイズ表を指さす。


 一口に畳と言っても色々な組み合わせがあるんだな。畳表も黒っぽいものから緑色そして白っぽいものまで何色もある。

 「畳表と畳の縁はどうしましょう」

 幅広のリボンのような見本を出してくれる。すごく沢山あるよ。うーんでもここは、縁のない琉球畳風でも良い。

 「一メートル四方のを何色か買って組み合わせようかな。八帖の部屋だから、それだと十六枚必要だな」

 それでこれとこれの近しい二色で八枚ずつ買ってチェックに敷いていくのはどうかな。よくあるパターンだけど。それが一番落ち着きそう。


 「よし、じゃあ和室の畳はこれで決定だな。ギルド長さん、納期はどれぐらい要りますか?」

 「次のガスマニア行きの高速魔道フェリーで配送しましょう」

 今こっちに向かってるゴダ達が乗ってるフェリーが帰る時だよね。二週間ぐらいかな。

 「送料は?」

 「それぐらいはサービスしますよ」

 「やたっ」


 「殿下、マットレス用はどうするんだい?」

 「今はまだ必要じゃないから、今度で。いつでも来れるからね。ねクリス」

 「そうですね。シュンスケ様なら一瞬です。」

 

 ギルド長と奥さんに挨拶をして、民芸品店街をぶらぶらする。

 「それにしても、シュバイツ殿下があんなに建材とか好きなんて、本当に残念だよ」

 「残念って・・・」

 「弟子に欲しい」

 「まあ、学園を卒業したら、お願いできますか?」

 「本当?弟子になってくれるの?」

 「ほら、俺も長生きの予定だから、その間何年かはカルピンさんの弟子をやっててもいいでしょ?」

 もともとそういうモノ作りの道に行きたかったんだし!

 「そうだね!待ってるよ!」


 あとは襖とか障子が欲しいんだけど。と思っていると肩をつんつんされる。

 「なあ、あそこでシェルフを見てもいいか」

 カルピンさんの指差す店には、色々な籐で出来たものが置いてあった。

 「いいですよ!俺も見たいです」

 「へえ、面白そうですね」

 クリスもクラフトなものが大好きだ。


 エキゾチックってのはこういうやつだ!ってお店に入る。竹ひごのような素材の、真ん丸なランプシェードってこっちにもあるんだ。これも可愛い。父さんへのお土産にしようかな。

 「あ、衝立!かっこいい。上の方が欄間みたいな木彫りの模様もあって」

 奥の方に色々な衝立がある。

 「ついたて?」

 クリスが問いかける。

 「パーテーションなんだけどね、大きな部屋をちょっと仕切ったり、着替えるのに隠れたりできるんだよ。例えば部屋のドアをがばっと開けて風を通そうとしても少しこういうのをおくと、廊下を通る人から中を隠せたりね」

 「たしかに、部屋が空いていると、その気がなくでも中を覗きたくはなっちゃいますね」

 「なるほどなるほど。殿下は物知りだね」

 「まあね、俺、小さいときは良く母さんを質問攻めにする子供だったんだ」

 「子供ってそういうもんじゃん?」

 カルピンさんは子供いるのかな・・・。


 「アイラは今もよくいろいろなことを聞いてきますよ」

 「そうなの?クリス」

 「そりゃ、小さい子が質問するのは親なんかとコミュニケーションしたいからだよ」

 「そうなんですか?カルピンさん」

 「質問された側がめんどくさくなって適当に答えていると、子供もだんだん聞かなくなるものさ」

 「たしかに、問いかけられても大人も分からなかったら答えられなくて困るでしょうね」

 「なるほどですね。でも、俺は成人間際までよく質問攻めにしていたけど、母さんは答えてくれたからなあ」

 「成人って・・・殿下」

 クリスはあきれてるけど、俺のステータス知ってるでしょ!

 「俺の実年齢は十九歳ですよクリス。アリサねえちゃんよりひとつ上」

 「そういえばそうですね。エルフ同士でも見た目ではわからないから困りますね。あ、エルフじゃなかったっけ」

 「はははは。まあ、殿下のお母様は物知りだってことだね」

 「そうでしょうね、本当は何歳生きてるのか分からないですけど、たぶん父さんより年上?一応風の女神様(あれ)ですから」

 「あの方より年上って、たしかにスゲーな」


 店は組み合わせの利く部材も売っていて、それを買うことにした。衝立にもできてシェルフとしての機能もあって。小さいプランターとか小物をかっこよく置くのもいいよな。ホームセンターにもこういう自由の利く棚が売ってたっけ。


 楽しいな。こういう刺激がモノ作りには大事だよ。


 気が付けばカルピンさんはお店の人に大量に売却済みの札を貼らせていて、会計をしていた。俺はさすがにそんな勇気はなかったけど。

 「ねえ、殿下これを・・・」

 「どっちですか?」

 「リーニングの木材店へ」

 「わかりました。その扉を繋ぎましょう」


 「ご主人この扉から運んで!」

 「この扉はトイレですよ」

 「ちょっとトイレ我慢してくださいねー」

 ガチャリ。

 「うわっ寒い!」

 「扉の向こうは冬だからね」


お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪

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