91【みんなでリゾートへ】
週末、俺は南国に来ている。
真冬にドアをくぐるだけで、真夏のリゾートを体験できるなんて。なんて素敵なんだろう。神様たちありがとう!今回は素敵なものに乗ってきたけどね。
久しぶりなので復習を。ここはガスマニア帝国から高速魔道フェリーで数日行ったところにある、セイレンヌアイランド共和国の中の一番ガスマニア寄りの北側に位置する小国のアジャー島に族長のタイナロン様に賜った小島に来ている。
リーニング伯爵領の訪問から帰ってもしばらくはポリゴン町のナティエさん達が住む家の仕上げをしていた。もちろん学園と往復しながらね。まあ、ドア一枚くぐるだけだから。
棟梁のカルピンさんは、俺達にしたら冬だから寒いんだけど、北国のリーニング伯爵領に比べれば、断然温かい帝都のお屋敷に居座っている。そこから自分の家でもある木材店とポリゴン町の現場を扉一つで往復していたのだ。
棟上げが終わって二週間ぐらいたった時、
「なあ、シュバイツ殿下、この和室八畳ってなんだ?」
「そこは板張りにしておいてください。誂えは俺がやりたくて。そのためにちょっと南国に行こうかと・・・」
そもそも、ナティエさん達の居住スペースは出来ているから、あとは俺も手を出したい!
俺をじっと見るカルピンさんをみて、
「来週末ですけど、行かれますか?」
「行く!」
カルピンさんはナティエさんと同じエルフのお姉さんだけど、建築士や棟梁としてすごい技術があって、木材店の責任者もやっている立派な人なんだけど、すごく好奇心旺盛で・・・つまり外見はもちろん中身も若々しいのだ。
しょうがないので王都で、冬物を並べている洋服屋さんで無理やり女性の夏物を仕入れて(侍女のミアに)から、帝都ギルドの灯台の横でクリスとカルピンとそれにウリサとアリサの五人で集合した。
「扉をくっつけてくれるのじゃないの?」
カルピンさんも空間の専門なはずなんだけどな。
「せっかくだから片道でも海上の旅をしたくない?」
「うん?魔道フェリーはあっちに泊まってるけど」
フェリーには漁師のペスカとマール、そして高い所が苦手なゴダが、人魚姫のヴィーチャの里帰りのお供に乗り込んでいる。
「じゃあ、何で?」
「それはもちろん」
「あ、来られたわよ」
冒険者ギルドと併設している漁港でも人々がざわざわしだした。
沖のほうからゆったりとムーが真っ白な大きいシロナガスクジラに似た姿を現す。
「まあ、あれは、ムー様」
「そ、ムーに乗せてもらおうと思ってね」
俺は今回の航海じゃなくて航空のためにもう一つ用意したものがある。
「おーい。ムー」
『シュンスケ、会えてうれしいよ。今日はちょっと沢山だな』
「だいじょうぶかな?」
『あと二十倍までは余裕だ』
「ならよかった」
振り向くと、カルピンさんの目がキラキラしている。
今回乗っけるのは、みんな初めての(俺の島のお披露目が)南国。
「みんなちょっと待ってて」
「「「はーい」」」
「僕は手伝います!」
『じゃあ僕がクリスを連れてあげよう』
今日はムーを大好きなペガコーンも、空中でホバリングというか浮いている。
ハロルドがクリスを背中に乗せて、ムーへ。
二人でムーの背中にお邪魔する。
今回はその背中に大きなペルシャ風の絨毯を敷かせてもらう。
「ふふふ、空飛ぶ絨毯だな」
おもわず、ランプから出てくる青い魔法使いの映画の曲を鼻歌で歌いそうだぜ。
これで、ムーが乗っけたまま透明になれたら完璧だ。たぶん絨毯が落っこちるから頼まないけどな。
そして、今回は片道数日かかる運航を三時間ほどで終わらす予定なのだけど、三時間って結構長いのだ。その時に居心地が良くなるように、南国の食事の時に使っていたような床座の楽になるカウチクッション(人間をダメにする風なのもある)を幾つかセットする。
「こんなもんだな。では、みなさん良いですかー!」
ウリサ兄さんが頭の上に両手を合わせて丸のポーズを取る。
今回は、俺が重力に干渉して、ハロルドが風魔法で皆をムーの背中に運ぶ。
「素晴らしい。私も風魔法は得意な方だけど、こんなに優しいのは無理だわ」
カルピンさんも風魔法は得意だけど、重力はイメージできなくて、飛ぶのは無理なんだそうだ。
崖や高いところから落っこちたりするときに、落下の速度を上昇気流で緩めるとかはするらしい。エルフの世界では大工の基本スキルだそうだ。安全第一だよね。
「じゃあ、ゆったりしていてくださいね」
みんなは靴を袋に入れてそれぞれ収納し、裸足や靴下状態でペルシャっぽいカーペットに座りカウチクッションに凭れる。
俺とクリスは、今回の旅のためにカルピンさんがリーニング領で取り寄せてくれた、ビッグスライムカウチクッションだ。しかも、暑いと冷たく寒いと暖かくしてくれる優れものだそうだ!
おおおっ
「「「ムー様ー」」」
「「「ハロルド様ー」」」
「「「シュバイツ殿下ー」」」
漁港のギャラリーが凄い。
でもお屋敷海は遠浅の砂浜だから、みんなをムーに乗せるのは高さのある漁港や灯台のほうがやりやすいんだよね。
『では少し旋回するよ』
ムーがゆっくり動き出し、高度と速度を上げていく。
潮吹き穴の前にはハロルドが座っている。この組み合わせもすごいけど、仲良し同士で良き。
意外なのは、ウリサ兄さんがほぼ正座で固まっていることだ。
「兄さん、もうちょっとリラックスしようよ。高いのが怖いわけではないのでしょう?」
「恐れ多いだけだ」
『ははは。ウリサはまじめだからね』
ハロルドがムーに解説を入れている。
『ほっほっほっ、少し時間が掛かるから、もっと力を抜きなさい』
ほら、ムーもこういってくれているんだから。
「そんなこと言われても難しいですよね、ウリサさん。はい、お茶どうぞ」
と、クリスが水筒を渡している。
『雲の中を行くぞ』
『うわーい』
ハロルド、この間自分でも雲の中入ったじゃん。なんて突っ込まないよ。盛り上げるためだよね。
「まあ、素敵」
「雲の中って霧なのね」
「ちょっとがっかり」
カルピンさんは素直だ。
高さはあるけど、少し暖かくなってきた。
ムーが高度を下げて、白波が見えるぐらい海面に近づいていく。
「今回の海は平和だね」
『そうだな、海中の連中もあの後みんな元気になっているぞ。そしてほら前を見てごらんシュンスケ』
「え?あ、あれは!」
海面にキラキラと光のリボンが見えてきた。
海竜の鱗が輝いているのだ。
「おーい、モササー!」
「シュンスケ久しぶり!会えてうれしいわ」
「あれが海竜なのね」
「セバスチャンが一緒に釣りをしたと自慢していたぜ」
「ははは」
すぐに海中に潜りたいけど今はパーサー係なので、我慢です。
って我慢しているのに。
『ぼく、海竜と遊んでくる!』
ってハロルドが飛んで行ってしまった。
「自由なやつだぜ」
海竜とペガコーンが海面付近で遊んでいるってなかなかないよ。
「シュンスケが言わないの!」
アリサに突っ込まれる。
「ははは、そうでした」
しかし、ハロルドとモササ海面で戯れている姿は意外と丁度良い娯楽になっていた。
ハロルドが羽根を仕舞ってユニコーン姿で海竜に乗っかって波乗りみたいになっていた。
『きゃー』
バシャバシャー
白鯨に合わせているので、かなりの高速である。俺なら怖くて無理だ多分。潜っちゃえば高速も平気だけどね。
暖かい初夏のような陽気になって来て、振り向けばみんな上着を脱いでウトウトと眠っている。
皆が眠っちゃったのなら、俺も遊んじゃうぜ!
海パンはしっかり仕込んでいるもんね。
海パン以外を脱ぐことなくそのままアイテムボックスにしまう。着る時は逆はできないけどね。もたもたと着るんだ。
さっきハロルドが座ってた潮吹きの前の方に行く。
『気をつけなさいよ』
「はーい」
ポーンとジャンプして、パシュっとダイブ。
みんなを起こさないように静かに着水。
「うわっ、つめてー」
「もう!シュンスケ!」
モササが横に来て、ハロルドが俺の中に戻る。
「一度やってみたいことがあるんだよね。海底でも歌えるかなと」
『なるほど』
まずは鼻から肺を海水を利用した生理食塩水濃度の液体で満たす。なんかこれが、自然に出来ちゃうんだよね。普通の人間なら確実に死んじゃうやつ。肺水腫ってやつだよね?俺が、人間族ではないからか、ウォーデン神の加護のスキルなのか。
そして、空気の代わりに水の振動で音と言うか声を出す。
海中だからウォーデン神の歌でいいか。
アーティスティックスイミングのプールの中で聞かせる音楽の装置ってあるよね。
発声さえできれば音は伝わると思うんだけど。
~大いなる宙と~
お、行けそう
~海の父よ~
あ、イルカのファミリーが来た
~豊かな恵みを~も~たらす波よ~
~今日も~明日も~輝きながら~~~
ははは、楽しいぜ~
素でやるダイビング。やっぱ海は良い。
進んだ後の珊瑚の嵩が少し増えていく。
そして俺は一足先に自分の島へ海の中を飛んで行く。
みんなを出迎えるために。
一時間半で島に到着した。
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