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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第一章『妖精おじさんがあらわれた。ただし、その姿は見えない』
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第9話 奇妙なペンギン

 目が覚める。枕元の時計は朝の七時を示していた。六時に目覚ましをかけていた頃を思えばゆっくりした起床だ。夜も十二時過ぎには寝て健康的な生活だった。


 寝起きに敷いた布団を押し入れに仕舞うのも、めんどくさがらずに済ませる。顔を洗った後は過去に不摂生した分を取り戻すためラジオ体操だ。さすがにランニングをしようとまではならないのだが。


 朝食は焼いたパンにバターをつけて、サラダに加えゆで卵と多少の手間をかける。コーヒーはお腹がもったりするのも構わずに牛乳を入れた。以前はブラックで眠気覚ましをとしか考えていなかったのに。


 その後は歯を磨いて髭を剃る。寝間着から着替えて洗濯、掃除と手早く終えた。そして、準備万端に始めるのがDAOなのは世間様に見つかると怒られそうだ。


 昨日は透明化がバレて恥ずかしくなりそのままやめてしまった。スキルの挙動確認は忘れず行おう。


 ゲームに入ると荒野に出た。夜ほどではないにしろプレイヤーの姿が散見される。今日は平日。社会人でも有休をとって遊んでいたりするのだろうか。


「さてと」


 独り言に呟くのもすっかりクセになっている。早速、ペットのキュル助を呼び出した。


「キュルル!」


 元気な鳴き声がおはようと聞こえて嬉しくなるのは重症かもしれない。


 まずは人を驚かすのを避けるため静かな岩場の袋小路に行く。思いがけずに出会った透明化の手段。使いこなして役立てたい。


「キュル助、カモフラージュ」


「キュル!」


 初めにスキルの効果時間を調べる。一度の発動でずっと透明になってくれると助かるのだが都合よくはいかないはず。


 自分の身体を見ながらのんびり待っていると透明化が解除された。かかった時間は五分。長いのか短いのか判断は難しいけれど、回復魔法をかけるには十分だ。


 次は時間以外で解除される要因を探る。


「キュル助、カモフラージュ」


「キュル!」


 再び透明になって杖を振り回してみた。宙を殴るだけだとスキルの効果は継続されるが、近くにいたスケルトンへ攻撃を仕掛けるとやはり解除されてしまった。


「トリガー、詠唱」


 詠唱で解除されるのは分かっている。最後は回復魔法の発動でも同様なのかどうか。



――シュンッ!



「キュル助、カモフラージュ」


「キュルル?」


 詠唱完了の合図後に透明になろうとしたが、キュル助が首を傾げる。まさかの命令無視かとショックを受ける前にペットの画面を開く。



【キュル助】

『レベル』 1

『体 力』31/31

『精神力』 2/22

『スキル』カモフラージュ



 もしやと思った通りに精神力が減っていた。スキルや魔法を発動するときに消費する数値だ。


 プレイヤーの場合は使えば使うほど熟練度が上昇して値も伸びるが、ペットの場合はおそらくレベルと共に上がるのだろう。


 カモフラージュは二回続けて使用したため、消費精神力は10になる。座っていると自然に回復するがペットの場合は……。


「これか?」


 休息のコマンドを見つけてメニューから選んでみる。


「キュキュル……」


 キュル助が伏せをして、あくびをするように口を開けた。


 ペットの画面をジッと眺めていると精神力の値が回復する。ペースはゆっくり。精神力用の回復薬を探すのも今後の課題だ。


 ゲームを始めて何もせずに待つ時間が長くなる。それでも退屈は感じなかった。


 横でくつろぐキュル助を見ていると本当にペットを飼った気持ちになってくる。ぬいぐるみだったりのグッズが販売されたら、まんまと買ってしまいそうだ。


 精神力の回復を見届けて行動に移る。


「トリガー、詠唱」


 音声コマンドを多用するが、ジェスチャーでの操作などを頻度で使い分けてもいいかもしれない。



――シュンッ!



「キュル助、カモフラージュ」


「キュルル!」


 透明になって対象をキュル助に回復魔法を発動させる。


「トリガー、ヒール」


 どうだ、と確認するまでもなく透明化は解除されていた。中々上手くいかないものだ。使い道としては回復後にすかさず透明になって逃げるのが一番か。


 気を取り直し王都を目指すことにする。ようやくと言ってぐらいに寄り道をした気がした。


 キュル助のレベル上げを目的にモンスターと戦わせながら荒野を進み始めたときに、大きなペンギンに乗ったプレイヤーが近くを通り過ぎる。いや、ペンギンと表現するにはモフモフの毛が生えていて奇妙な姿だが。


 普通に歩くよりも遥かに早い。ポータル以外にも、ああいう移動を補助する要素もあるのか。頭のメモ帳に書き込んでおこう。

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