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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第三章前半『おじメダル配布作戦』

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第83話 清掃ボランティア

 ぼんやり音が止まったスマホを眺めていると七時から一分が経過した。若干眠気が残るものの、起床を意識すると空腹を感じる。素直な身体になったものだ。


 昨日はイベントのお疲れさま会もそこそこに、コヨミさんが早めに起きなければならない事情もあって解散は早かった。そして、一人での乾杯も少しだけに留めた。今日は予定に入れた清掃ボランティアの日である。


 億劫さなど皆無でやる気は十分どころか、用事に対し充実感すら覚えた。朝食を簡単に済ませて時間を確認しつつ雑事を片付ける。余裕を持って動きやすい格好に着替えたら出発だ。


 時刻は午前九時前。普段だと出勤や通学が一段落ついて物静かな空気が流れるけれど、土曜日なのでどこか活気が見られた。世間について行くために曜日感覚は忘れず過ごしたい。


 清掃は河川敷を中心に行われる。町の様子を横目に向かっていると、行き交う車とは別の喧噪が聞こえてきた。進むごとに近くなり、まさに河川敷が発生地点だった。


 ボランティアながら人が多い。不思議と懐かしい緑色のジャージ集団がいて、年の頃は高校生ぐらい。おそらく課外授業か何かだ。


 あそこに混ざるのは場違いだが一般参加の大人もいた。さすがに絡まれはしないと思うものの、学生たちとは離れて清掃に勤しもう。


「おはようございます。チラシを見て来ました」


「はい、おはようございます!」


 荷物が置かれた受付へ行くと念のため持ってきたチラシも不必要に、話がスムーズに進む。支給品の軍手とゴミ袋を受け取り終了時間などの説明を聞いて清掃開始だ。


 人が少ない方向へ視線を下にして歩く。ペットボトルや包装フィルムをいくつか拾うが、比較的綺麗に保てている気はした。普段からの清掃活動による賜物か。とはいえ破損した発泡スチールやレジ袋は目に付くので継続の大切さが分かる。


 ゴミはポイ捨ての他、風や雨の影響も受けるはず。誰がこんなことを、と憤慨する前に自分も気をつけたい。


 今日は快適な晴れ間で随分と過ごしやすい。ゴミを拾って町を綺麗にしている実感が湧くし、一層と清掃に精が出た。


「これは……?」


 覚えのある箱を見つけて手に取る。アニメキャラが描かれたパッケージに、ディープ・アンティーク・オンラインのタイトルが大きく踊っていた。もちろん中は空っぽで軽い。


 まさかDAOにここで出会うとは。家でのゴミが何かの過程で流れ着いたのだろう。楽しんでいる一人のプレイヤーとして気づけてよかった。ゲーム自体に注目されてけしからんと思われたら悲しくなる。


「何それ、ゲーム?」


「え?」


 急に横で声が聞こえて驚く。そこにいたのはジャージを着た女子学生で、明るい容姿を前にギャルの文字が頭に浮かんだ。髪が染まっているぐらいで偏見も甚だしく、ギャルという言葉が死語に当たるか心配になった。口にするのは控えよう。


「ディープ、アン……?」


「ディープ・アンティーク・オンラインです」


「オンラインはインターネットでやるやつだ。タイトルをすぐに言えるんだし、おじさんはやったことあるの?」


「そう、ですね。現在進行形で遊んでます」


 おじさんと正面から言われるのに慣れていなかったので、飲み込む際に一瞬喉に詰まる。節目の三十歳をすでに超えていて当然なのだが。今後は年相応に呼ばれる気構えを持ち笑顔で応じたい。


「ふふ、ふふふっ……!」


 そして、なぜか女子学生が袖で口元を押さえ笑いをこらえる。自分に面白がられる要素があったとは考えられず、ただただ困る。


「いや女子高生に敬語って! 普通タメ語でしょ!」


「あぁ……」


 なるほどと納得するが、すっかり敬語が身体に染みついていた。弊害が笑われる程度なら無理に変えなくてもいいか。


「これって面白いの?」


「個人的に初めて熱中したゲームです」


「あたしはゲームとか遊んだことがほとんどなくてさー。武器とかで戦うやつだよね。お洒落できるのかなー」


「触手を頭にかぶれたり幅は広いですね」


「何それ、笑うんだけど!」


 手を叩いてのリアクションなどがエネルギッシュで若さが眩しいけれど、その感想はおじさんに寄りすぎか。按配が難しい立場だ。


「リアルなスカートみたいなの穿ければめちゃ楽しそう!」


「確か用意されていたはずですよ」


 基本的にはファンタジーが軸でも、懐の深さを併せ持つのがDAO。和装以外にジーンズもゲーム内では見かけた。スカートはローブ系のシルエットが似ているせいか、人気どころに感じる。


「へー! いいじゃんそれ!」


 興味を持ったのか女子学生が再び手を叩く。意図せず一種の布教になってしまっただろうか。ゲーム機本体の値段を考えると少し軽率だったかもしれない。


「ひめー! あっちに大物が落ちてるよー!」


「ガチで!? じゃーありがとね、おじさん!」


 何に対したありがとうかは謎だが友達に呼ばれて走っていく。やはり自分は若くないのだと認めたくなる勢いだった。一方で見知らぬ相手に話しかけるのは度胸や愛嬌があってこそ。


 DAOの空箱をゴミ袋に入れて伸びをする。なんだか元気をもらえたやり取りで、清掃以外にも頑張ろうと思えた。


 積極的に関わるのはまた違うけれど、単に怖がって学生と距離を置いたことには反省だ。堂々とおじさんの気概を心に生きていこう。

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― 新着の感想 ―
ギャルっぽいけど清掃ボランティアに参加していて、義務感なく掃除しているのが一番のファンタジーまである笑
[良い点] 面白くて読み止まらぬ! [一言] 野生のギャルが現れた!?
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