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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第二章『回復代行結社でござる』

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第62話 意味深な洞窟

「大丈夫でござるか?」


「はい、なんとか」


 立ち上がって膝を払う。意図された下り方か怪しいが結果的には正解だった。


「周辺に他のプレイヤーは見当たりません。抜け道に近いエリアでござろうか」


 みんなが一心不乱に橋を渡っていたぐらいだ。安全に下りる手段は地図ですら分かりにくい場所に隠れているらしい。


「まずは他の崖との合流地点を目指すでござる。この先にまた障害があるとも限らないので急ぎましょう」


「了解です」


 安心するのは早い。逆にドツボにはまった可能性もゼロではなかった。行き詰まって壊れた橋を戻るのは勘弁願いたい。


 岩場は見晴らしがいいので木々の中を移動する。ダメージゾーンが追ってくる際はプレイヤーが少ないエリアを選ぶ意識も必要になりそうだ。


 必死に走っているとペンリルのありがたさが身に染みる。ゲーム内でも精神的な疲れは伴うし置いて行かれてばかり。颯爽と警戒に出てみたいけれど、軽快に動く自分を想像するのは難しかった。


 特に問題は起こらず三叉路に到着する。地図ではコヨミさんが崖の中にめり込んでおり、なぜと疑問を浮かべて側に向かうと岩壁に穴が開いているのが分かった。


「奥に祠があるようでござる」


「こんな場所に?」


 入口すぐのところで姿を発見する。洞窟は浅く祠が薄っすら確認でき、照明具をつけて近寄ると長方形の箱が祀られていた。


「中に何かが入っていそうでござるな」


「勝手に漁ると罰当たりな雰囲気がありますね」


 とはいえゲームなので手を合わせるだけで済まさずに箱のふたを開ける。入っていたのは巻物で触れるとシステムメッセージが流れた。



≪安全地帯の巻物を入手しました≫



 いかにもな名称はイベントへの関連が窺える。



【安全地帯の巻物】

『種類』イベント専用アイテム

『説明』近辺に安全地帯を一定時間生み出す巻物

    見た目以上に重量がある



 説明はまさしくで使い方を考えると、ダメージゾーンに入って体力が限界まで減ってしまったときに出番がきそうだ。安全地帯が広がれば落ち着いて回復が行えた。


 コヨミさんにも手渡して見てもらう。


「ほほう、安全地帯の巻物ですか。現段階では余裕もありますが、今後のダメージゾーンにはきっと役立つでござるな。それに、イベント専用アイテムが存在すると知れたのは大きいですよ」


「確かイベント内容には……」


 事前に発表されていたものを思い出すが、アイテムの説明は記憶になかった。


「崖下のような目立たない場所に隠されているのでしょう。アイテムを集められれば優位になりますが、探すのに固執して支援が滞るのは本末転倒でござる。さらに生き残ることを第二目標に据えて、第三目標にアイテム探しをするのがよいかと」


 新たに目標が加わったぐらいの感覚で探すのがいいのだろう。二兎を追う者は、という言葉もあった。無理はしないけれど、少しは頑張るの精神で挑みたい。


「このアイテムはナカノ殿が持っていてください」


 安全地帯の巻物が返ってくる。コヨミさん一人ならアイテムに頼らなくても駆け抜けられるが、リーダーは自分だった。緊急時には惜しまず使うことにする。


「さあ、まだダメージゾーンの範囲内です! 気を引き締めて行きましょう!」


 洞窟を出て三叉路から安全地帯に向けて伸びる崖下の道へ進む。ここで脱落するのは早すぎる。まだまだイベントを楽しむために全力ダッシュだ。


 景色は同じだが徐々に道幅が狭まって木々のない岩場が続いた。依然として他のプレイヤーに出会わず隠れる必要性はなかった。


 そろそろダメージゾーンを抜ける頃かと安堵した矢先、岩壁が前方に見えて焦る。


『洞窟がありますね』


 しかし、心配を打ち消す連絡が入った。走りながら追いつくとコヨミさんが待つ後ろに再び洞窟が現れる。


「今度は長く続いているでござるよ」


「どこかにつながっていてほしいですね」


 ここまで来て逆戻りは考えたくない。照明具の明るさを頼りに進むと地図上では安全地帯に入ったのが分かる。洞窟内は多少の湾曲があるものの一本道。そして、恐れていた行き止まりにぶつかった。


「上をごらんください」


 慌てた様子のないコヨミさんに言われて上を向くと真っすぐに穴が伸びている。人ひとりが通れる程度の幅で、灯りをかざすと梯子が設置されていた。


「地図には教会のシンボルが描かれているでござる」


 教会はそこそこ広いエリアで一部は配信区域になっている。


「地上に出られるといいんですが」


「洞窟の中に梯子ですからね。これで何もなければ運営に苦情を入れましょう」


 おそらく作り手側の意図があるはず。梯子を掴んでどうか外の景色が拝めますようにと祈りながら上がる。下りるときより怖さはマシだが狭い穴の中、それも相当の高さで緊張した。


 慣れるために普段から紐なしバンジーで度胸をつけた方がいいのかもしれない。今回はスキルと同様に耐性が成長段階と諦めて慎重に進む。


 すでに先を行ったコヨミさんの姿はどこへやら。苦情ものな結果だと戻れの声がかかると思うが静かだった。


 希望を感じつつ手足を動かしていると、周囲の壁が規則正しく組み合わさる石のレンガに変わった。


「念のため照明具を消してください」


 上を見ると空間が開いている。指示に従い灯りを消した後に身を乗り出すと建物の裏手で、穴は井戸の形にカモフラージュされていた。まさに抜け道だ。


「教会の建物でござるな。塀と柵に囲まれた場所がいくつも並ぶエリアのようです」


 塀は腰ほどの高さで柵が移動を阻む。先端が尖っていて乗り越えるには身軽さが必要だった。


「さてさて、地上に出て安全地帯に入ったことですし。支援に参るでござるよ!」


「はい、行きましょう」


 柵の隙間から小さな教会が他にも建つのが見える。配信区域に隠れやすい場所があると助かるのだが。


「ナカノ殿!」


 呼ばれて何事かと思ったら、コヨミさんが建物横の棺桶を指差す。所々で青いかがり火が周囲を照らし墓地の雰囲気もあった。


「中に入れば隠れられますね!」


「いやいや……え?」


 ナイスアイデアという表情で突っ込みの勢いが削がれる。タルと同じ要領で利用できるのか、不安しかなかった。

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