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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第一章『妖精おじさんがあらわれた。ただし、その姿は見えない』

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第44話 タコタコ

 何段あったのだという階段を下り切ると真っすぐに伸びる通路が現れた。


 通路の先まで偵察に行っているのかコヨミさんの姿はない。地下二階と同様に通路は安全な作りになっているのだろうか。


「っ……?」


 このまま進むか迷っていると後ろから肩を叩かれる。驚いて振り向くがそこには誰もいなかった。


「キュルル?」


 まさか、ここにきて急なホラー要素が? 意識すると放棄された忍びの地下道の名称も、ゾンビより幽霊と縁がありそうだ。


 若干の怖さを誤魔化すため足元のキュル助を見ると、視線の先が自分ではなく通路の方にずれている。何が見えているんだと通路へ向き直したところ、コヨミさんが手に持ったピエロの仮面で顔を隠していた。


「……」


「むむ、驚きが足りませんね」


 心拍数は高くなったがピクリと身体が動くにとどまる。聞かれて恥ずかしくなる声が出なくてよかった。


「やはり、ピエロの仮面ではパンチに欠けたでござるな」


「……それも装備品ですか?」


「そうなのですよ。忍者と言えば仮面を用いることに定評がありますからね」


 ピエロだと少し趣が変わりますが、とコヨミさんは続ける。人を驚かせたりとゲームを楽しんでいるのはよく分かった。一緒にいて退屈と思われないよう、もっと驚くべきだったかもしれない。


「通路の向こうはどうでした?」


「拙者はずっとここにいましたよ」


「……」


 どこにも見当たらなかったはずだが。またホラーな展開かと焦る前に、コヨミさんに笑われた。


「ふっふっふ、拙者がいたのは天井でござる」


 指で示された天井を見上げる。跳躍のスキルで高く飛んでも平らな岩で掴める場所はなく、通路の幅も両手を伸ばして届く距離ではない。つっかえ棒の真似は不可能だった。


「天井と二つの壁を頼りに、隅っこに張り付いて身体を支えることもできるのですよ」


「なるほど……」


 まるで忍者だなと素直に思ってしまった。


 なぜそんな真似を、と尋ねる前に驚かすためかと納得する。階段の上で待っていたらどうするつもりだったのか。


「そして、ナカノ殿が来たのを見計らい静かに着地。肩を叩きました」


「あぁ……」


 肩もホラーではなくコヨミさんだったらしい。


「気配を消す静寂のスキルは足音も軽減させますので。振り向く間に回り込むのは簡単でござった」


 まったく気配を感じられなかった。視界にさえ入らなければ透明化のように扱えそうだ。身軽さは必須だけれど。


「ではでは、地下三階の攻略と行きましょう!」


「キュル!」


 意気揚々と手を挙げるコヨミさんにキュル助が反応した。自分だけ大人しくするのも感じが悪くなる。控えめに手を挙げ応じておいた。


 早速、通路を先導してもらいながら進む。階段よりも長く途中に分かれ道すらない一本道が続く。


「何かが待ち受けている雰囲気でござるな」


 言わんとすることは理解できた。ただただ、松明が等間隔に並ぶ通路だ。何かあると思わせる作りだった。


 モンスターも現れず快適に歩いていける。いつの間にかループに迷い込んだのかと疑い始めた頃に、開けた空間に出た。


「広い部屋でござるか」


 青い松明が取り付けられた大きな円柱が六本並んでいる。灯りはそれだけで全体像は窺えないものの、広いというのはひと目で分かった。


「拙者、断言しますがボスが出てくるでしょうね」


「自分もそう思います」


 クエストで行った坑道も巨大なモンスターと戦ったのは広い場所だった。お約束の流れなのだと認識する。


「上を見てください」


「あれは……」


 コヨミさんに言われて天井からぶら下がる影に気づく。目を凝らすと縄で足を縛られた下忍ゾンビが逆さ向きに吊るされていた。


 一体どころではなくかなりの数だ。合間に縛られたカラスもいて、人によっては苦手に感じるホラー具合だった。


 動きは見られずターゲットも不可能なオブジェクトだが怪しさしかなかった。


「ふーむ、部屋の中央か奥に行くと始まるのでしょうなぁ」


 ある意味、分かりやすいパターンか。


「トリガー、詠唱」



――シュンッ!



「トリガー、ヒール」


 ここで挑む前に事前の準備をするべきだ。魔導書に回復魔法をストックしてコヨミさんに頷いた。


「やるでござるよ!」


 少し距離を取ってついて行く。円柱の間を一つ越え、二つ目を越えると変化が訪れる。炎が灯る効果音がいくつも聞こえて部屋が明るくなった。


 壁にも設置されていた松明に青い炎が揺らめき円形の広間を浮かび上がらせる。正面には小さな石の祭壇があり、周囲にビーカーやフラスコに似た器具が置かれた木製テーブルが並ぶ。古めかしい釜まであって不穏な様子だった。


 そこにいるのは一体の下忍ゾンビに見えるが妙な被り物をしている。頭部に複数の触手が絡まった出で立ちで中々の気持ち悪さを覚えた。


 カエルなどのデフォルメに比べて大人向けな印象を持つ。メインクエスト外のエリアだからこその調整なのだろう。


 ゲームも商売。様々な客層に向けてのアピールは必要か。そこそこの耐性がある自分には楽めるコンテンツだった。


 ターゲットすると下忍オクトパスという名称が表示される。忍者は変わり種にしやすいモンスターのようだ。

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