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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第一章『妖精おじさんがあらわれた。ただし、その姿は見えない』

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第43話 回復魔法の使い方

「また小部屋でござる」


 地下二階部分の通路を進むがモンスターとは出会わず、再び小部屋が現れる。構造は通ってきたところと同じで、設置された石棺も数は四つ。蓋が付いた石棺の位置が違う以外は既視感に溢れていた。


「ナカノ殿は通路で待機をお願いします」


 なぜ、と聞かずに聞き分けよく小部屋の前でストップする。驚かされるのに慣れたわけではないが、気のままに行動してもらうのが一番だ。


 自分はともかく、コヨミさんを傍から見ている分には生き生きと映った。多少のハプニングはアトラクション感覚で楽しもう。


 何をするのか待っていると雫石を投げるでもなく、石柱を周って小部屋を走り出す。


「キイィアァァ……!」


 そして、急に耳を塞ぎたくなる甲高い音が響いた。



――ガコ……ゴコオン!



 さらに、ずれていた石棺の蓋が綺麗に閉まったかと思うと、すぐに吹き飛んで地面に落ちる。同時に黒い煙が発生するという異常事態のオンパレードだ。


 最後には初めから蓋がなかった三つの石棺から下忍ゾンビが這い出てきた。


「やはり罠の要素があったでござるな」


 通路に戻ってきたコヨミさんが興味深そうに言う。念のためか、確認に試したようだが三体の下忍ゾンビを相手にするのは難しい。


「拙者にいい考えがあります!」


 まさか置いて行かれるのかと怪しむが、手にしたのは雫石だった。


「これを……」


 小部屋と通路の境目に二つ設置する。その間にも下忍ゾンビが近づいて焦るが、回復効果を含んだ薄い霧の手前で右往左往しだした。雫石があれば大丈夫だと分かっていても居心地は悪い。


「ほっ! ふっ!」


 コヨミさんは落ち着いた様子でちくちくと短剣で攻撃を加える。前に後ろにステップを踏みつつも、時折攻撃は受けていた。


「トリガー、詠唱」



――シュンッ!



「トリガー、ヒール」


 体力が減る間隔が短いので、今回は魔導書を持たずに回復する。雫石の効果は微々たるもの。サポートに精を出し数の暴力に対抗する途中でふと、ある考えが浮かんできた。


 下忍ゾンビは雫石をなぜ避けるのか。アイテムそのものより効果を嫌がっているのは明らかだ。つまり、手段に関係なく回復を与えればいいはずだった。


 プレイヤーとペットに限って使用してきた回復魔法だが、モンスターを相手に使うなとは言われていない。コヨミさんに影響されたのか、いいひらめきが湧いて出た。


 早速、体力が減った下忍ゾンビをターゲットする。


「トリガー、詠唱」



――シュンッ!



 行動へ移す前に相談しない理由が少し分かった。ちょっとした悪戯心を覚えるのだろう。


「トリガー、ヒール」


 回復魔法は投擲のように狙わなくても対象へ自動的に発動する。モンスターにも同様らしく下忍ゾンビは回避行動を取らずに体力がゼロになった。



≪爆符を入手しました≫



 予想通り爆発も起こらない。


「おお! もしや回復魔法を敵に使ったので?」


「上手くいったみたいです」


「ナイスなアイデアでござる!」


 拍手を受けて得意気になるのを押さえ、次に続ける。


「トリガー、詠唱」


 再び準備をして体力が最大の下忍ゾンビへ回復魔法を発動させると、半分以上もゲージが減った。中々のダメージ量に驚きだ。


「ゾンビ相手には特効レベルでござるな」


 精神力との都合もあるため乱発するのは控えたい。まずはコヨミさんとキュル助のサポートを優先で余裕が生まれたときに攻撃へ回ろう。


 仕事が増えるのは嬉しい反面、忙しさが増す懸念もあった。手間が減ってラッキーぐらいに思ってもらえたら成功と、自分の中でハードルを下げておこう。


 二体目の下忍ゾンビを回復魔法で仕留め、三体目はコヨミさんが半分ほど体力を削ったところに回復魔法を放つ。爆発を避ける方法にはとても向いていた。


「罠にかかっても対応はできそうですね」


「複数の下忍ゾンビが現れた際には頼みました!」


 地下に来てどこまで進めるか不安に感じたが、雫石と合わせて回復魔法を便利に使えるとなれば気力が出てきた。こういう場所になら宝箱の一つや二つ、用意されていても不思議ではない。いや、その方が自然だと期待を膨らませる。


 この後も静かな通路と同じ構造の小部屋が続き、行き止まりに下へ伸びる階段を見つけた。


「ほほう、地下三階への階段ですか」


「広いですね」


 あるかもしれないと構えていた地下三階部分も、いざ挑むとなると緊張する。階段はかなり長いことが窺えた。


「拙者が偵察と行きましょう!」


 コヨミさんが先に階段を駆け下りて行く。キュル助がいるとはいえ、ここで残されると心細いのだが。


 偵察と言えど折り返しで戻って来てもらうのは面倒をかけ過ぎだ。たとえ危険が待っていようとも攻略を諦めるつもりはなかった。


 すでに背中すら見えないが後を追って、気持ちゆっくりの速度で階段を下りる。真似て走るのは怪我の元。一歩目で転げ落ちるのは確実だった。


 青い松明の設置数が僅かなため照明具込みでも吸いこまれそうに感じた。こんな場所、普通に下りるのも慎重になる。手すりを取り付けてほしいと思うのは、さすがにおじさんを拗らせすぎか。


 逆に若者を気取るのも痛々しいので年相応、より少し下の振る舞いを目指して階段を急いだ。

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