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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第一章『妖精おじさんがあらわれた。ただし、その姿は見えない』

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第42話 小部屋と石棺

 地下道に爆発音が響くにもかかわらず、下忍ゾンビはバラバラに襲ってくる。一人で来たときには運やタイミングが悪かったのかもしれない。


 コヨミさん任せで調子よく進んでいると下へ続く短い階段が現れた。


「上下にも広がるのですか。地下道というよりダンジョンじみてきたでござるな」


 確かに、平面に比べていくらか複雑さが増す。地図を開くと歩いてきた道筋は記憶されているが、途中に分かれ道もあった。正しい順路を周れているかなど心配事は多い。


「むむ、この小部屋は……?」


「……怪しいですね」


 一歩入ってすぐに立ち止まる。中央に大きな石柱が床から天井へ続く小部屋。それだけなら特別気にしないが左右の壁が問題だ。長方形の穴が上下に二つ作られ、そこに石棺が置かれていた。


「ふたが付いた石棺一つに、ふたがない石棺が三つでござるか」


 合計四つの石棺に違いがあるのも意味深だった。


「罠の可能性があるのでしょうか」


 といっても、近づいたところで襲われるぐらいしか思いつけない。最も悪い想定は全ての石棺にモンスターが配置されていること。


「試しに雫石を投げ入れても?」


「もちろんです!」


「もし囲まれたら逃げる方向でお願いします」


「競争でござるな」


 いえ、逃げ遅れないように助けていただけるとありがたいです。


 雫石を手に深呼吸する。コヨミさんに任せた方が上手くいくはずだが、自分にも仕事をと提案した。


 回復のサポートはモンスターと戦うよりも遥かに楽だ。野球の才能を信じて腕を回す。四十肩には早いけれど、そもそもがゲーム。システムのアシストも期待して振りかぶった。


 目標は大きく、蓋が付いた石棺だ。現実なら無難に蓋がない石棺を選ぶが、微妙にずれていて隙間に投げ入れろと言われている気がした。


 失敗してもアイテムがなくなるだけ。軽く考えるのが一番と力を抜いて、放物線を描く軌道で雫石を投げた。


「おー、おお! 入ったでござるよ!」


 これは自分に投擲スキルの適正があると主張しても、自意識過剰のそしりは受けないだろう。思わずガッツポーズで喜ぶ。


「オオオォォ……!」


 そして、小部屋内に不気味な声が響いて硬直する。通路に引いて逃げる準備をするが、状況の確認にいくら待っても変化は訪れなかった。


「見てみるでござるか」


 このまま戻って別の順路を探すのは単なる問題の先送り。何が起こったかを調べるのは大事だ。


 恐る恐る小部屋に入って壁際を進む。雫石が入った石棺は上の段に置かれて見ずらかった。


「下段の石棺にいるのは下忍ゾンビでござるな」


「ターゲットができませんね」


 驚いたがモンスター扱いになっていない? 石棺にはぴったりなオブジェクトだが心臓に悪かった。


「失礼を」


 コヨミさんが何を思ったか短剣を手にし、石棺の中に振り下ろす。



――シュー……。



 オブジェクトと化した下忍ゾンビに刺さると同時に嫌な音が聞こてきた。


「瞬歩!」


「ちょ!」


 待ってくださいと言葉を続ける余裕がないほど焦りながら、急いで石棺を離れる。



――ボゴオン!



「っ……!」


 後ろから風圧を受けて転がってしまう。慌てて手をついて起き上がろうとし、キュル助と目が合って首を傾げられた。


「大丈夫でござるか?」


 しれっとした顔でコヨミさんが手を差し伸べてくれる。他に危険はないらしく、ため息をついて立ち上がる。


「攻撃を加えると爆発する、というのも妙な仕掛けでござるね」


 真面目に考察を始められても困る。まだ心臓が忙しかった。


 コヨミさんを横に確認すると先ほどの石棺は空っぽだ。倒した扱いになったのか?


「拙者のほうで爆符を入手したので採取系のオブジェクトでしょうか」


 鉱石に専用の道具を使うように、攻撃が条件になる採取が存在してもおかしくはない。


「上の段も見るでござるよ」


「この蓋は……」


 石棺を塞ぐ蓋は重そうだが、二人で押すと意外と簡単に動いて奥の隙間へ落ちた。


「ここも空ですね」


 中を覗くと下段と同じで目ぼしいものはなかった。


「雫石で中にいた何かを倒したとも考えられます。ナカノ殿にアイテムの入手はあったでござるか?」


「ありませんでした」


「ふむ、では残り二つの石棺も調査しましょう!」


 中央の石柱を周って逆側の壁を調べる。


「上下の石棺にいるのは下忍ゾンビでござるか?」


 ターゲットができず、ただのオブジェクトに見える。蓋がない石棺は同タイプの作りだった。


「コヨミさん」


「はい?」


 また何か行動を起こしそうだったので声をかける。


「安心してください。次は雫石を使うでござるよ」


「……」


 安心には遠いが、短剣よりはマシか。試行錯誤への理解はできるため、どうぞと手でジェスチャーを示す。爆発の前兆を見極め、後ろへ下がるのを忘れずに推移を見守ろう。


「ではでは」


 コヨミさんは石棺のすぐそばで雫石を持ち、下段の方へ軽い動作で投げ入れた。


「……どうですか?」


「綺麗さっぱりでござる」


 爆発は起こらなかったが、いつでも逃げられるよう及び腰で近づく。


「……空っぽですね」


 石棺には、入っていたはずの下忍ゾンビがいなくなっている。


「ほい、っと」


 考えをまとめる前に、コヨミさんがまた雫石を残った上段の石棺に投げた。この行動力を見習うには咄嗟の退避手段が必要だ。


「爆符を入手したでござる。攻撃ではなく雫石であれば爆発しないのかもしれませんよ」


 通常の下忍ゾンビにも法則が当てはまるなら狙う価値はある。とにかく、ここでは雫石が攻略の要になっていた。

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