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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第一章『妖精おじさんがあらわれた。ただし、その姿は見えない』

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第39話 爆発しがちなモンスター

「改めて、こんばんはでござる!」


「こんばんは」


 ポータルを使って始まりの村で合流し、対面で再度の挨拶する。


「本日はご案内のほど、よろしくお願い致します」


 投擲についてなど話したい事柄はあるが、移動を先にタイミングを見て切り出すことにした。


「まずは荒野に向かおうと思います」


「了解しました!」


 村を出て馬に乗ったコヨミさんの横で、自分もアイテムの鈴を使って呼び出す。


「おお、時々見かけるライドの……」


「ペンリルです」


 乗った後に少し自慢げになったかと反省するが、それも過剰な気遣い。むしろ見せびらかすぐらいが円滑なコミュニケーションをとれそうだ。


「姿形にはペンギンらしさがありますね。名前から推測すれば、毛並みはファンタジー系の作品に度々登場するフェンリルがモデルでしょうか」


 へぇ、と相槌をつきたくなる情報をコヨミさんが教えてくれる。


「愛嬌があってお似合いですが、私には惜しいですね。忍者の服を着てくれていたら完璧でした」


 さすがに忍者服を着込むのは毛が邪魔で不向きに見えた。


「フェッ! フェッ!」


 森の中を先導して走る。ペンリルや馬がいれば楽に通り抜けが可能で、あっという間に荒野へ入った。


「次はこっちです」


 地図を確認しなくても方向は一直線のため迷わずに進むことができる。


「そういえば、荒野は王都に行く通り道としか考えていませんでしたね」


「自分も同じでしたが新しいエリアへと思い立ち、沼地へたどり着きました」


 音声チャットに誘われた影響か多少離れていても、お互い話す内容はしっかり聞き取れた。


「ゲームを遊ぶうえで探索は楽しみの一つ、気持ちはよく分かります。それとも何か目的があって新たなエリアへ?」


 コヨミさんの会話につなげやすい返答が非常に助かる。


「実は王都の投擲ギルドを訪れたとき、効果が気になると同時に紹介したいものを見つけたんです」


「ほうほう?」


「煙玉というレシピが売られていました」


「ほう! 煙玉でござるか?!」


 食いつきの良さが前のめりな反応で分かった。投擲スキルはコヨミさんもノーチェックだったようだ。


「その素材に火薬を使うのですが、マーケットには売ってる数が少なく値段も高く設定されています。個数を作成するなら自分で見つける必要があると考え、新しいエリアで探していました」


「そういう訳でござったか」


「説明によると爆発の習性を持つモンスターが落とすみたいです」


「煙玉には惹かれるものがあります。拙者も気にしておくでござるね」


 伝えておきたかった情報を話し終えた頃に、高くそびえる岩壁の前に到着する。


「ここからは徒歩になります」


 ペンリルを下りて岩壁にできた横穴へ入る。この先は一人でも無事に抜けられた場所だ。コヨミさんがいれば楽に進めるだろう。


「おお、これはまた趣のある洞窟ですね」


「雫の洞窟ではフレイムシェルとスライムが出てきます。後者は特に問題がなくて……」


 と歩きながら言いかけたところで大きな貝が進行方向に現れた。


「あれがフレイムシェルでござるな」


 初見であっても上手く対応すると思うが、黙っておくのもなんなので続ける。


「攻撃が当たると地面を跳ねて転がり、貝が上下に開くと前方に炎が噴射されます」


「了解でござる。ここは拙者が成敗させていただきましょう」


 キュル助を傍らに待機させて回復魔法をストック。コヨミさんが走っていくのを見送る。


「とあっ!」


 掛け声と共に短剣が振るわれた。フレイムシェルは予定調和に転がって貝を上下に開く。



――ブオオオォ!



 炎が襲いくるが前には誰もいない。すでにコヨミさんはスキルで高く飛んでいた。さらに体勢を変えると天井に着地し、ただ自由落下するだけでなく天井を蹴ることで速度を増す。そして、フレイムシェルの上に突撃した。


 開いていた貝が炎の噴射そのままに勢いで閉じられる。すると、黒い煙が隙間から周囲に漏れだした。


「これは……?」


 コヨミさんが何かに気づいて距離を取る。次の瞬間……。



――ボゴン!



 軽い爆発音が響きフレイムシェルの殻が粉々になって飛び散った。下忍ゾンビに比べて控えめだが、やはり驚いてしまう。


「ふむ、思いがけずに倒してしまったでござるな」


 単純な弱点というより、工夫次第で倒せる手段も用意されているらしい。ゲーム的なお約束の理解があるかどうかで察知できるかに差は出るが、観察が大事なことに変わりはなかった。


 フレイムシェルで言えば貝が開いて炎が出てくるのだから、それが閉じると炎が止まるのは道理だ。行き場を失くした炎が爆発を生じさせるのも想像力が豊かなら気づける範囲、と得意気に語れるのは結果を知っているからこそか。


 とはいえ困ったときには一度立ち止まって考えよう。コヨミさんのおかげで新たな発見があった。


 フレイムシェルを倒せれば先を進むのに障害はない。複数体がまとめて現れてもキュル助を向かわせて対処できた。


「飛ぶでござるよ!」


「トリガー、プットイン」


 合図があれば飼育管に引っ込めて爆発をやり過ごす。下忍ゾンビを相手にする際の練習にもなっていた。

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