第29話 フレンドの礼儀作法
「いけいけー!」
皆が声を上げながら走っていく。お祭り感もイベントを思い出す盛り上がりだ。
「トリガー、パワースラッシュ!」
「トリガー、チャージストライク!」
「トリガー、パワーヒット!」
スキルを各々が自由に発動させる。ドクトカゲ・アビスの体力は一気に二割ほども削れた。序盤のクエストなりに強さは抑えられているらしい。
「ぐはっ!」
「やっべ!」
しかし、相手の攻撃は前方への範囲で数人が巻き込まれる。
「トリガー、ヒール!」
「あざす!」
自分以外にも回復魔法を使うプレイヤーたちがいたようで、犠牲者は出なかった。
「命奪撃!」
コヨミさんは短剣を手に半透明で攻撃を仕掛けている。上手く動き回ってダメージを受けないのはさすがだ。ゲームが上手い人は安心できた。
パーティを組んだ際に出てきたバーには赤色と青色のゲージがあり、体力と精神力なのが直感的に分かる。回復を行う側としては管理しやすくて大助かりだった。
適当に回復を振りまいて動向を見守る。
「ギシャアアア!」
ドクトカゲ・アビスの体力が半分に減ると紫色の煙が周囲に噴出した。離れた場所にいる自分にも届きそうで慌てて後ろへ退避する。
「やっぱり毒かよー!」
「ポーション切れてんだけど!」
全方位への毒攻撃とはいやらしい。回復魔法の出番にコヨミさんを追うが、上空に飛んで着地したところだった。
体力のゲージは満タンで状態異常を受けている様子もない。あの攻撃を直前で避けるのは、さすが忍者と称賛したくなった。
「トリガー、詠唱」
――シュンッ!
「トリガー、キュアポイズン」
回復役よりは攻撃役の方が圧倒的に数は多い。毒を癒すだけで精神力が持っていかれた。
マナポーションを飲んで通常の回復も挟む。忙しい操作の中にも周りを見る余裕は十分にあった。
「ありがとうございます! ぐえっ!」
振り向いてお辞儀した後ろで再び攻撃を受ける姿を笑って流す。たまには透明にならず同じ空気感を味わうのも楽しかった。
「フシュウウウ……」
紫色の煙以降は変わり種の行動がなく、ドクトカゲ・アビスの体力は順当に減ってゼロになった。これもコヨミさんを含め、他のプレイヤーがいてくれたおかげ。キュル助だけだと厳しい戦いだったはずだ。
「やったでござるな! ナカノ殿の頑張りで無事に倒せましたよ!」
「コヨミさんへのサポートはなくても平気でしたね」
「忍者の面目躍如でござる!」
まさしくその通りで脱帽だ。
広場には鎧を着たNPCが現れて話しかけるとイベントが進む。すでに盗賊団はおらず王都にある騎士団の建物へ戻るように言われた。
プレイヤーたちがポータルを使ってか、徐々にいなくなっていく。最後に残ったのは自分とコヨミさんだった。
「きりがいいので、拙者はそろそろ落ちるでござるよ」
「分かりました。今日は誘っていただいてありがとうございます。一緒に遊べてよかったです」
「こちらこそ! よい時間を過ごせました!」
≪フレンド申請が届きました≫
二度目のフレンド通知は戸惑わずに承諾する。もちろん緊張や高揚に似た気持ちは湧くのだが。
「また機会があれば、ご一緒しましょう!」
「はい、よろしくお願いします」
コヨミさんの姿が消えてパーティが解散になった。人と接した疲れは多少あるけれど、満足感の方が遥かに大きかった。
今後は透明になる手段を積極的に探していこう。それぐらいはフレンド間での礼儀と思うことにした。
ただ、気にかけていたのが伝わるのは逆効果。有用なスキルを見つけても、恩着せがましさ皆無の自然な会話で知らせたい。まずは会話が上達する本の購入を検討だ。
◇
「ふー……」
ゲーム機を外して天井を見上げる。仕事が休みだったこともあって、ゆっくりゲームに熱中できた。今日はたくさん楽しめて気分よく伸びをする。
ペットのスキルで透明になれるのには驚いたけど、まさか使ってる人がイベントで一番だったなんて。ランキング表ではプレイヤー名じゃなくてニックネームだったから、軽はずみに聞いてしまったのは反省しないと。
「誘い方も、ちょっと強引だったかな……」
あの時は透明化を見て思わず前のめりに。久しぶりのオンラインゲームで距離感を間違えた。でも、物腰が柔らかい人で助けられたな。
道行く人に回復をするのは辻ヒールって言うんだっけ。透明で気づかれずに行うのは筋金入りだ。
私のロールプレイは初挑戦で手探りだった。違う自分を出してみたなかで、情緒の表現を振り返ると少し恥ずかしくなる。
DAOで誰かと関わりを持ったのも初めて。フレンドの申請をしたのは私からだし、次もパーティに誘うのが自然なはず。ロールプレイをしながらだと、また強引な誘い方になりそうだけど。




