第27話 ワールドアイテムの噂
ポータルを使って始まりの村に戻る。すでに懐かしいと感じるほどにゲームへどっぷりだった。
「しまったでござる!」
同じくポータルで移動してきたコヨミさんが急に声を上げる。
「調教のスキル取得を忘れていました。一度王都に戻って……」
「テイムはこの村にある調教屋で覚えられますよ」
「おお、それは助かります! 地図を開いて、ここでござるな」
歩き始めたコヨミさんに足並みを合わせる。戦闘関係なく誰かと一緒に行動するのは新鮮だ。失礼のないよう気を付けたい。
「拙者は不参加でしたが、ナカノ殿はイベントで活躍した方なのでしょうか? キュル助という名を目にしたもので」
イベントへの参加でプレイヤー名をペットの名前で登録したが、透明化をするたびに音声コマンドを使うと周りに知られる場合もあるのか。
ただ、声に出して指示するのは中々に楽しい。一人二人に気づかれるぐらいは前向きに、交流の機会が生まれると思うことにする。最下位になるのが恥ずかしくて使ったニックネームが、今は目立ちすぎるのを防ぐのに役立っていた。
「いえ、すみません。軽率でしたね」
「特に問題はないので聞いてくれて大丈夫です。イベントでは回復にもポイントが設定されていて、透明化で上手く立ち回れました」
「なるほどなるほど、作戦勝ちでござるか」
「普段から隠れて見知らぬプレイヤーを回復していたのが、結果的にいい方向へつながったと思います」
「そのプレイングはよくされるので?」
「こういうゲームに不慣れで自分に何ができるかを考えてみました」
「困ってるプレイヤーを助けるのは素晴らしいことです。実は拙者も人を応援するのが好きなのですよ。気が合うでござるな!」
屈託のない笑顔には無言で頷くしかなかった。社交性二重丸の反応に圧倒されるばかりだ。
調教屋に着いたところで早速テイムを覚えてもらう。
「透明でうろつくカメリオルは攻撃すると逃げるため、普通に捕まえるのは難しくなります」
「ではどういった方法を?」
「この眠り玉を使ってください」
キュル助は一度目のテイムによって成功済みで、アイテムの在庫はまだ残っていた。
「かたじけない。使わせていただくでござる」
他に前準備はなかったはずと考えながら村を出て森に入る。
「眠り玉は調合で作ったのですか?」
「そうですね」
沈黙が続くことへ怖くなる前に、コヨミさんがいい感じの話題を振ってくれた。
「調合は拙者も気になっていまして。生産系のスキルは戦闘系と比べて上がりやすさはどうです?」
「回復魔法との比較になりますが熟練度が低いうちは上げやすいです。マーケットを利用すれば素材を自分で集める必要がなく、作成したアイテムを売って購入分の資金に充てられます」
「それはいいサイクルでござるな。参考にさせていただきます」
いつの間にか森を抜けて荒野に出る。そういえば馬へ乗らずの道中だった。
「自分の場合、カメリオルがどこにいるかは足跡で確認しました」
「この広い荒野だと骨が折れるでござるな」
「二人で探せば早く見つかるかもしれません」
「むむ、そこまでお世話になるのは申し訳ない気がしますが、お願いするでござる!」
断ることなく頼ってくれると気持ちも上向きになった。親切には心苦しくならない気構えも大事、と自分も見習う。
とりあえず二手に分かれて捜索を開始した。初期エリアに近い場所でもまだまだプレイヤーの数は多い。
キュル助がいたのは人通りがない岩場の袋小路だったと思い出し、慎重に見て回る。意外と楽に出会えるのでは、との甘い考えは何度も走り回った後に捨てた。やはり手ごわい相手だ。
ここまで来てテイムできなかったで終わるのは少々バツが悪い。しかし、焦っても地面を眺める以外に方法はなかった。
今さらながら正しい手段が他にありそうだと疑いたくなる。気づけば時間が経って太陽も傾き始めていた。
「ナカノ殿」
そろそろ捜索の打ち切りをいつにするか相談に行こうとしたタイミングで、先にコヨミさんが声をかけてくる。
「拙者の方は収穫なしでござった」
「こちらも残念ながら」
向こうで発見していてくれたらという望みもダメだった。
「少し気になったのでござるが、ナカノ殿はワールドアイテムの噂を聞いたことがありますか?」
「ワールドアイテム……?」
アイテムに世界が付いても意味するところは分からなかった。
「ゲームに一つだけ存在するアイテムです」
そんな特殊なアイテムがオンラインゲームにはあるのか。つい気の抜けた声が出そうになった。
「まさかカメリオルもその枠に?」
「可能性の話でござるな。近辺にイッカクガエルを連れているプレイヤーはいてもカメリオルを連れているプレイヤーはいませんので。これからも大事に育てられるのがいいかと」
言われてみると確かに見かけた覚えはない。キュル助を見ると目が合って首を傾げられた。たまたまとはいえ、いい出会いをしたものだ。




