第21話 VS大物
――ズガァン!
イワナマズによる地割れ攻撃が紅さんの元に伸びてダメージを与える。範囲が広く避けるのは難しく見えた。
体力は半分と少しあるので焦らずにタイミングを待つ。マナポーションにはクールタイムと呼ばれる再使用に必要な時間が設定されている。出来る限り効率よく精神力を扱いたかった。
散々回復魔法を使ってきたんだ。そろそろ初心者の脱却を目指したい。
紅さんは大剣を構えながら次に備えている。そして、イワナマズが長いひげをしならせる攻撃をしたところで回復を行う。
「トリガー、ヒール」
体力は最大値まで戻った。大丈夫、自分の仕事はやれている。
「トリガー、パワーヒット!」
他のプレイヤーがスキルを発動させてダメージを与えた。イワナマズはのっそり回転しターゲットを変える。
「トリガー、詠唱」
今は透明にならなくてもいい。詠唱後にそのまま回復魔法をストックした。
――ズガァン!
地割れがスキルを使ったプレイヤーを襲う。半分強になった体力だがすぐ最大値に戻った。何かのスキル、ではなくヒールポーションを使ったのか?
「トリガー、チャージストライク!」
また別のプレイヤーがスキルを発動する。同時にイワナマズがターゲットする相手が変わって察した。きっと、ダメージを分散させることでポーション類のクールタイムを稼いでいるのだ。
事前に打ち合わせたのか阿吽の呼吸か。回復魔法をかけていただけの自分とは違い、最終戦に残っているのはゲームに慣れた人たちのはずだった。
ヒールポーションとの兼ね合いを考えるとタイミングは厄介になるが、指示を出すよう頼むのも他人任せな気がした。
今さらながら照明具を着けて存在をアピールする。基本的に狙われるプレイヤーを見ておけば間違いない。
みんな通常攻撃を加えつつ、ダメージを受ければ待機で時計回りの順にスキルを発動する。ターゲットが上手く代わる代わるになって感心した。
「ん?」
ヒールポーションを使わないプレイヤーに回復魔法をかけている最中、イワナマズと目が合った。その場での回転で終わらずにのっそりと前へ進んで確信する。明らかに自分が狙われていた。
「キュル助、カモフラージュ!」
「キュル!」
邪魔にならないよう透明化でしのぐが、イワナマズは右に左に頭部を動かす。
「トリガー、ダブルスラスト!」
スキルを使ったプレイヤーにすら見向きもせず、ターゲットの順番がおかしくなって方々に攻撃を散らした。
「フレイムブレイド」
その時、紅さんの大剣に炎が宿る。一度見た魔法だ。威力が上がるのか攻撃を数度繰り返すとイワナマズが狙いを定める。
「トリガー、パワーヒット!」
紅さんが防御に徹するも今度は中々ターゲットが外れない。回復魔法でサポートを行うけれど狙われる心配は常にあり、気は抜けなかった。
「離れろ! 何かくる!」
誰かの声と同時にイワナマズの短い胴体が持ち上がって地面へ落ちる。
――ガゴォン!
全方位へ地割れが起きるどころか所々に岩が生えて三人のプレイヤーが宙を舞った。無事に済んだのは離れていた自分一人。他は体力の大半を持っていかれ、短時間で全員を回復するのは難しかった。
連続で範囲攻撃はこないがヒールポーションのクールタイムも間に合っていないようで、かなり厳しい状況だ。マナポーションを飲むがいつまで耐えられるか。
「おお、やってんじゃん!」
分の悪さに攻撃の手が弱まるところへ、刀を持つ新たなプレイヤーが飛び込んできた。角刈りの髪型はファンタジーから程遠くて親近感を覚えた。
「どら! トリガー、速斬り!」
気合が入った声で刀を叩き込む。援軍は頼もしいが初めにいた人たちとは違って遠慮なくスキルを使用する。
周りがその勢いについていくか迷うなか、紅さんへのターゲットが角刈りさんへ移った。
「うお! いってえ!」
一撃で体力が半分以下に減り慌てたようにヒールポーションを使う。それでも攻撃の手は緩めずに全力だ。
すでに効率を考える余裕はない。気が付けばイワナマズの体力は半分を切っているが、まだまだ不安だらけ。できれば限られたプレイヤーに集中したかった。
「サンキュな!」
しかしというかやはりというか、見殺しにするのは気が引ける。回復魔法をかけて頑張ってもらおう。
「くるぞ!」
またイワナマズの胴体が持ち上がって緊張感が広がった。
「え? なになに?」
みんなが一斉に離れるも後に来た角刈りさんはひたすらに攻撃を続ける。
――ガゴォン!
「ぐはあああ!」
そして、全方位の地割れで見事に宙を舞った。体力の低さが影響したのか体力が全て吹き飛んで色味が失れる。叫び声があまりにも似合っていて笑いそうになってしまった。




