第20話 イベント最終戦
「うーん……」
二度目のイベントエリアを駆け抜けてベンチに戻ってきたが、結果は一度目と同じくエリア内で最もポイントを得ていた。
さすがに何かの間違いではと疑いたくなる。次は最終戦。設定ミスなら待機時間に修正したほうがいいと思うが、簡単にはいかないのだろう。
自重してもいいが紅さんに言われたことを優先するため行動の方針自体は変わる。ランキング表にはプレイヤー名そのままで五番目に載っていた。まずは回復そっちのけで探さなければ。
用意されたコンテンツを楽しもうとする姿勢は見習いたい。同じように声をかけられたプレイヤーがいるのだとしたら忙しくなる。
マナポーションには十分な数があるので補充しなくても大丈夫だ。他に準備すべき事柄はないし、大人しく待とう。
それにしても、予定外に長い時間をイベントに割いている。社会人は少々疲れるかもと思ったが、今日か明日あたりが週末だった気もした。
曜日の感覚がなくなりがちなのは要注意だ。まともな人間の振りぐらいは最低限やっておきたい。
緊張は薄れるどころか高まっている。一人だったら気楽にやらかせるが誰かに認識されると嬉しい反面、勝手に責任感を覚えてしまう。困った性格で首を振りたくなった。
自分の不甲斐なさを滔々と考える不健全なスイッチが入りそうになった頃合いに、システムメッセージがカウントダウンを告げる。
イベントも最後。夜食で祝杯をあげられるように頑張ろう。
≪イベント専用エリアに転送します≫
転送後に森の中にいるのを確認して地図を開く。制限時間中に強大なモンスターと出会うには、おおよその場所を推測する必要がある。
最も怪しいのは滝の近辺だ。一番目立つシンボルでこれ見よがしだった。
「トリガー、詠唱」
――シュンッ!
「トリガー、ヒール」
念のため回復魔法をストックする。
「キュル助、カモフラージュ」
「キュル!」
透明化で周りを気にせず走っていく。一体、討伐にどれだけ手間取るのか。そもそも人数が足りなければ返り討ちの可能性もあった。
途中で剣同士がぶつかる音やスキルを発動させる声などが聞こえるけれど、今回は素通りする。きっと強者同士。存分に二人の時間を楽しんでほしい。
最後だからか、そこかしこで慌ただしくする声が聞こえてくる。どれぐらいの人数がエリア内にいるのだろうか。さすがに全員が協力するなら、どんなモンスターも簡単に倒せそうだが。
森を抜けた後は岩場に出て川の横へ行き、さかのぼって滝を目指す。もし当てが外れたら迷子になるまで走り回るしか打つ手なしだ。出会えなかったら紅さんには後日、菓子折りを持って謝罪に向かおう。料理のスキルがあるしゲーム内にも何かあるはず。
しかし、心配をよそに進行方向にいくつかの灯りが見えてくる。滝の下にある小さな湖の近くに照明具を着けた六人のプレイヤーが集まっていた。
この数は多いのか少ないのか。回復魔法をかけるために体力を管理するとなると、自分の能力を過信してもギリギリだ。
ただ、その中に紅さんの姿が見当たらなかった。おそらく場所は合っている。エリアの端に飛ばされて向かってる最中なのはあり得た。
みんなが視線を上にするのが気になり追うと、滝の天辺に大きな岩が鎮座している。その側には灯りが見えて誰かがいるのが分かった。
遠くて状況がつかみにくい。カメラにズーム機能があったのを思い出し、試しに使ってみた。
拡大で見ると大きな岩にはお札が何枚も張られている。傍らにいたのは紅さんで大剣を構えた姿が映えており、ついシャッターを切ってしまった。
そして、振るわれた大剣が岩を砕く。
――ゴコォン!
ここまで荒々しい音が聞こえてきた。岩の破片が滝に巻き込まれて湖に落ちていくと同時に地響きが起きる。数秒間続いた後に一瞬の静寂が訪れ、湖がしぶきを上げた。
「うお……!」
「すげっ!」
近くにいたプレイヤーたちが驚きの声を上げたのは、巨大な何かが飛び出てきたからだ。
複数の照明具で浮かび上がった姿は、どでんとした寸胴体型の巨大ナマズだ。短い手足が生えていて背中にはごつごつした岩が連なる。可愛げはあるが、まるで倒せる気がしなかった。
周りのプレイヤーも囲みはするが手を出すのに戸惑っている。ターゲットをして表示された名前はイワナマズ。魚のイワナとナマズが掛け合わされたのではなく、見た目のまま岩がくっついたナマズか。
「サークルスラッシュ」
不意にイワナマズの頭に大剣が叩き込まれる。声の主はいつの間にか滝の天辺から下りてきていた紅さんだ。
それが合図となって他のプレイヤーも攻撃を加え始めた。




