第17話 イベント専用エリア
回復魔法をジェスチャーで発動させる。受けたプレイヤーは戦闘中にもかかわらず周囲を不思議そうに見ていた。
魔導書を使い透明になっての回復魔法にはすっかり慣れる。そろそろ何か食べておきたいが、熟練度は191と目標にギリギリ届いてなかった。
迷った末に一度ゲームをやめることにする。買うだけ買った魔法書はお預け。根を詰め過ぎてもしんどくなる。楽しさ第一に休憩を挟むのは大事だ。
ゲーム機を置いて寝転ぶ。他の人もイベントに向けて準備をしているのだろうか。本番では参加者のサポートを陰ながら頑張りたい。
緊張のせいか食欲は控えめだ。ごろごろしつつ身体が求めるメニューを探す。
「カレー……ハンバーグ……ラーメン……」
重めの料理名を呟いても、やはりピンとこない。
「お茶漬け……うどん……いや、ざるそばだ」
食べたいものが見つかったところで立ち上がる。やることはお湯を沸かして乾麺のそばを茹でるだけ。後は市販のめんつゆとワサビにネギを用意すれば立派な食事だった。
今日は付け合わせもなしであっさり済ませる。つけたテレビをただただ眺め、頃合いを見てゲームに臨む。
商人の馬車を助けた森の中にいたので王都へ戻り、回復魔法ギルド近くにある庭園風の場所でベンチに座った。悪あがきはしないで静かに開始を待とう。
ゲーム内でも夜を迎えようとする空を見上げていると何かが飛んでくる。木の枝にとまったのはフクロウだ。
ターゲットはできず雰囲気を出すための存在なのが分かった。細かい作り込みを目にすると嬉しくなる。そして、メニューにカメラアイコンがあるのを思い出し選んでみた。
「おお……」
レトロな小型のカメラが目の前に現れる。手に取ってファインダーを覗くと懐かしい気持ちになった。
フクロウを被写体に一枚撮影する。写真はカメラの上にウィンドウが出て表示され、現実よりも綺麗な出来で感嘆の声が漏れた。
これはまた楽しい機能で何枚も写真を撮る。家に飾ってもプロが撮った作品だと思われそうだ。
今いる場所は通り道でしかなくプレイヤーが度々走っていく姿を見かける。奥のタルを撮りたくなってカメラを向けるとピースをして去っていく人がいて勝手に気まずくなった。
≪間もなくイベントが開始されます≫
カメラで遊んでいるとシステムメッセージが出てくる。もうそんな時間か。
イベントの内容自体はふんわりしたものだった。とにかく、自分は回復魔法をかけることに注力するのみ。
≪五分後にイベント専用エリアに転送されます≫
ベンチに座ったまま待つ。アイテム欄を確認しマナポーションの潤沢さに満足しているとまたシステムメッセージが流れた。
≪三十秒後にイベント専用エリアに転送されます≫
≪二十秒後にイベント専用エリアに転送されます≫
≪十秒後にイベント専用エリアに転送されます≫
一桁のカウントダウンが始まったのでベンチを立つ。カメラはしばらくお預けだ。
≪イベント専用エリアに転送します≫
ポータルを利用したときと同様の浮遊感が身体を通り抜け、森の中に移動する。
≪モンスターとプレイヤーを倒してポイントを入手しましょう
各所にある古代の遺物を使用するとイベントを有利に進めることができます
なかには強大なモンスターが生息しており、倒すと多くのポイント入手が可能です
しかし、プレイヤー同士が力を合わせなければ討伐は難しいでしょう≫
イベントについての説明がなされる。プレイヤーが敵対するだけではなく、協力することで得られるポイントもあるらしい。
≪制限時間は三十分です≫
≪プレイヤーの皆さま頑張ってください≫
制限時間三十分のカウントダウンがメニュー内で始まった。
「トリガー、詠唱」
――シュンッ!
「トリガー、ヒール」
魔導書へ回復魔法のストック後に森の中を静かに歩く。まずはプレイヤーを発見して備えたい。
先に見つかると厄介な事態になり得る。暗さは夜でも許容範囲のため照明具は使わず、木の陰に隠れながら慎重さを心がけて行動だ。
マップは円形で半分以上が森。他には岩場や湖に滝っぽいシンボルがあった。
自分にとっては森の中に留まるのがベストだが、他のプレイヤーの心理までは読めない。強大なモンスターとやらを探して倒そうとする人へサポートを行うのもありか。
――キィィィン!
その時、耳障りな音が聞こえてきた。つい身を屈めて周りを見る。
≪古代の遺物により全プレイヤーの位置がマップに表示されました≫
システムメッセージに慌ててマップを開く。赤い点が至る所に浮かび少し気持ち悪いが、助けになる目印だった。
「キュル助、カモフラージュ」
「キュル!」
近くにも赤い点がある。念のため透明になっておこう。




