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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第三章後半『攻城戦イベント』
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第146話 キング・オブ・ブルー

「横から来てる!」


「赤本隊が下りてきたぞ!」


「戻れ! 数が足りない!」


 天守閣の一階があっという間に赤く染まった。敵陣中心地なのも相まって壮観な光景だ。透明化は物陰で解除して本体に合流する。



《これより本隊は再度七階へ侵攻する》


《キングをボコボコにするぞ!》


《まず、キングには三パーティで戦いつつ様子を見ることにした》


《全員で囲むのはなし?》


《本隊壊滅時には天守閣の攻略をやり直さなければならない。そのため、階段の守りを大部分が対応する》



 いかに戦線を維持するかがキング討伐への鍵だった。何度も天守閣に挑むと時間のロスが増えてしまう。


『わたしたちは始めから生存優先でキングと戦い続けろって』


『サブマスが期待してる!』


『主に紅ちゃんをね』


 キングとの戦闘を経験したパーティも、倒されると次のチャレンジは復帰後になる。常に戦えれば経験値を直接積み重ねられた。


 行動の共有は全体チャットで行えるが、伝えるだけだともどかしさが残るはず。イベントの中でも限られた遊び部分を任されたからには、結果で応えるしかなかった。


『タゲ取りは極力任せて、お嬢とコヨミっちが狙われたら回復だ!』


『即死級の攻撃が怖いし、ナカのんと協力で精神力に余裕を持たせるよ』


 パーティ数を絞るのは範囲攻撃対策に有効だ。アイアンクラッドタートルで防ぐにも予兆の見極めが重要で範囲化できるかは隙次第。さすがに全ての回復魔法を範囲化させると大事な場面でアイテムの在庫が切れる恐れがある。長期戦は確実で使いどころを慎重に考えたい。


「お前まだ装備のアップグレードやってねーのかよ」


「初期の雑魚っぽさがカッコいい」


「ステータスを気にしろ」


 周りが味方だらけで安心しながら階段を上がるため、各々が気ままに会話を繰り広げて賑やかしい。別動隊もいいが本隊と一緒にいると、イベントならではのお祭り感を楽しめた。



《七階に上がったところで敵を迎え撃つ。キングと戦う者には直接指示を出すので、待っていてほしい》


《指名制キタコレ!》


《やるぜー、最後の仕上げだ!》



 自分たちは一足先に広間へ向かって階段を下りる。庭園に出るとイカ型のモンスター、キング・オブ・ブルーが遠くで待ち構えていた。


『やっと本番だな!』


『取り巻きがいないし落ち着いてやれるね』


 青陣営のプレイヤーに邪魔されることなく集中できるのは理想的な状況だ。当たり前だが冷静にダメージを与えていけば、いつかは倒せる。キングだからと気負いすぎず、かといって楽観視もやめて挑もう。


「へい一番乗り! じゃなかったか」


「よろしくお願いしまーす」


「あれ、もしかして紅……?」


 二組のパーティが遅れてやってくると紅さんを見て反応する。出会っただけで珍しがられる人を他には知らないが、イベントでの活躍と巨大ギルドを率いる部分が大きいのだろうか。


 指示を出し続けるシュヴァルツさんも、今後はより声をかけられそうだ。自分も出会ったらお疲れさまと、ありがとうございましたぐらいは言いたい。


「わたしたちはなるべく生き残る」


「命を大事に作戦? まー、全体を誰かが見とくのはありだよな」


「んじゃ任せます!」


 人によっては不満が出る提案も、紅さんの存在が納得感を与えた。こういう時はパーティリーダー役に相応しいと、一歩下がる。


「おし! まずは俺たちが先陣を切ってタゲを奪う!」


「お願いします」


「ラストダンスの始まりだ!」


 パーティが一組ずつ庭園を進み、自分たちは最後にキングの元へ向かう。


『とりあえず、攻撃スキルは控えめにでござるな』


『でもダメージ稼がないと倒せなくね?』


『そこはシュヴァちゃんも様子を見る、って話してたし。臨機応変にかな』



――ゴーン、ゴーン!



 早速、鐘の音が鳴ってキングとの戦闘が始まった。


「攻撃は背中ね!」


「タンクは動き回らず位置を固定しとくぞ。回復は頼んだ」


「別パのタンクは盾スキルだけでヘイト稼いどくよ。危ないときは攻撃スキルの連発でスイッチするから」


「おっけ。こっちは盾スキルと通常攻撃にとどめるか」


 声かけと手慣れた連携で滑り出しはスムーズに運ぶ。シュヴァルツさんが選んだパーティのようだが、一体何人のプレイヤーを把握しているのか。自分には無理な芸当だ。


 攻撃を引き受けるタンク役の体力に注目し、他のヒーラーと息を合わせて回復を行う。この人数ならさほど難しくはなかった。


「武器の直剣が大剣に変わった!」


「これがギミックの一つだっけ」


「範囲とダメージに攻撃頻度でリズムが狂わされるな。パーティが多いと厄介系か」


 皆が動じずに対処する。しかし、キングの体力ゲージが減る速度は遅い。どこかでプレイヤーを増やす必要性を感じた。


「おっと、墨を吐いた?」


「ダメージはなし!」


「足元に落ちたのはちょっと滑るかも!」


 頭上に向けて飛ばされた墨が周囲に広くばら撒かれた。身体にかかっても異変はない。アイアンクラッドタートルは温存で見守っていると、キングが地面へ潜るように姿を消した。


「注意!」


 次に姿を現したのは後衛の弓使い近くで、不意打ちに攻撃を受けてしまう。


「ターゲットが変わるのかよ!」


「これヒーラーにいったらきついぞ!」


『かんちゃん! 二人でナカのんとこね!』


『おう!』



《キングがランダムにターゲットを変える恐れあり! ヒーラーを守る要員が余計にいる!》


《了解した。追加で一組送り、攻撃頻度の低下具合によってはさらにパーティを増加させる》



 キングの体力はまだ九割にも届いていない。その時点で起こる新たな行動に気が引き締まった。

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