第144話 最後に笑うのは
《城門に集まった復帰組が出発します!》
《本隊は六階を目指しながら上がってきた階段に蓋をする。数の有利を見極めて押し引きの判断を頼む》
天守閣は思っていたより順調に攻略が進む。
《赤本陣城内、半分の行程を敵が消化中です!》
《了解した。防衛についても各個撃破と分断を徹底してほしい》
一方で相手の勢いも相当なのが報告で分かる。両陣営共に攻め重視の結果だろうか。
『そろそろ、おれたちも暴れる時間か!?』
『拙者はいつでも動けるでござるよ!』
コヨミさんには六階で待ってもらっている。度々の不意打ちによって警戒度が高まり、すでに最上階の七階にも青陣営のプレイヤーたちが集まり始めていた。
さすがに透明化も接触の危険性が生まれて気軽に使えない。しかし、配置的には問題なかった。
『では本隊の動きに合わせて準備します。コヨミさんが六階で騒ぎを起こし、タイミングを見て紅さん、レモンさん、カンペさんも続いてください』
『了解。ギルドにも伝える』
最後の階段は倒されるのを覚悟で妨害に挑むが、自分は別行動だ。多勢相手にヒーラーは活躍しにくい。戻ってくる速度を考え、パーティーリーダーとして復活場所になるのが一番だった。
『先に城の外へ向かいます』
『お気をつけて!』
『足を滑らせないでね!』
プレイヤーだらけの階段は通れないので、まずは庭園に出る。端で爆発タルを二つ並べ、上に追加で重ねれば立派な足場だ。衝撃に注意しながら上がると壁を難なく越えられた。
次は下へ下へと屋根を飛び移るのだが。あまりの高さに不安が膨らむ。
「クカー!」
そこへ、キング起動後に待避させたクロ蔵が飛んできて頭の上にとまった。もっと身体が大きいと掴まっての滑空も可能だったかもしれない。
ただ、孤独にやるよりは勇気が出た。息を吐いて深呼吸、斜めの瓦を慎重に歩く。屋根の端にある突き出した三角形の部分を利用し、なんとか階下への道筋にする。
ゲームなら忍者の真似事もできると自信を持って。コヨミさんという最高のお手本がいつも近くにいるのだ。
「ニンニン……」
本人の口癖ではなく、カンペさんもなり切る際に使っていたステレオタイプなイメージで恐怖を誤魔化す。
「クアッカッカ!」
クロ蔵に笑われている気はするが、応援と受け取って踏ん張る。瓦に角度があっても谷に曲がったところは安定した。
「ニンニン……ニンニン……」
「クックック……クァー!」
聞かれたら二度見される独り言を武器に天守閣の逆攻略だ。
◇
『うへー、もう一番上まで来ちゃうよ!』
ギルド、ジーニアスの三人組は六階と七階の間でため息をつく。
『忍者も見つからなかったなー』
『各階層ごとに潜んでたら探すのは骨だ』
『……私たち役に立ってる?』
『イベントが終われば分かる』
『ちょっとー、ギルドの輝かしい経歴に加えて新しいメンバーを勧誘したいんだけど!』
『諦めるかー』
『諦めない!』
行動方針を決める何度目かの話し合いも長々と続くが、効果的な作戦は出てこなかった。
《天守閣内の復帰に気をつけて! 階段に敵がいるからね!》
《攻めてるほうは快進撃だ! キングもすぐに倒すぞ!》
『復帰組との挟み撃ちは上手くいかずか』
『こうなったら赤城内の本隊に合流して活躍を……』
『埋もれるだけだ』
『じゃあ、どうすんのさー。敵の真っただ中に命がけで突っ込む?』
『階段の攻防は生き残って壁になるのが最重要だ。六階で耐えてる今のうちに、七階を見回りする』
『大変だとか言ってたくせに』
『結局、不意打ちの爆発タルでいいようにやられてる。対処できないと負けだ』
『もう探してる人たちがいるでしょ』
『階段が狭くなったことで、そっちに行ける数を増やせるんだよ』
『かくれんぼの鬼だなー』
『ばっちり見つけてヒーローになるっきゃないか!』
ようやくといった様子で三人は七階に上がる。そこでは防衛の事前準備に三パーティー規模が待機済みだった。
『封鎖で捕まらなかったし何人いるんだろ』
『発見数がゼロなのを考えるとそう多くないはずだ。キングの起動タイミングも怪しかった。数人の可能性は高い』
キングの話題で自然に広間へ着くと、周囲に軽く目を向ける程度で庭園へ下りた。
『ごちゃごちゃ気味だけど隠れられる?』
『物陰で動かなければな』
『おれが見張っとくかー』
『トールは生存力あるしね!』
『だったら広間の入り口で……?』
ジーニアスのリーダー、ナオが会話の途中で見た先を二人が追う。
『端っこに爆発タル積んでるじゃん。味方のやつ?』
『味方が置く理由がない。あの段差なら壁を越えて屋根に行けるか』
『隠れ場所だ!』
『どっちみち、広間に居れば侵入は防げる』
『それもそっか。でも爆発タルを使って空を飛べるんでしょ? 実は外から入り放題とかさ』
『片づけずに置いたままなのは変わった利用方法あるのかもなー』
『報告はしておくか』
《防衛は爆発タルに注意! 忍者がいる!》
『あちゃー、やっぱり潜んでたよね』
『今は余計なチャットも邪魔だな』
『私たちは捜索続行?』
『六階がどれだけ持つか次第だ』
《七階で敵の襲撃! 大剣一人と盾持ちが二人!》
『戻るぞ!』
『うひゃー!』
『仕掛けてきたかー』
《範囲化の不意打ちを合わせられて待機組が全滅です》
《固まらず距離を取ってください!》
『あの数を倒しちゃうんだ』
『狭い階段での密集を狙われたか。遭遇しても慎重に対応するぞ』
ジーニアスの三人は急いで報告現場に戻って立ち止まる。
『どする?』
襲撃者がどこへ向かったかの知らせはない。
『警戒すべきは流れに乗ってここが突破されることだ』
《六階まずいっす! 敵の勢いが増した!》
《一気に下がらないで!》
『絶対に示し合わせてる!』
『まずいな。勢いを止めるには……』
《後ろにも敵!》
《そいつ紅だ!》
『さっき報告があった人たちかー』
『うわ、大物だったんだ!』
『隠れず勝負をかけにいったな。紅の討伐で士気を上げるしかないぞ』
『やるよー!』
三人は階段を飛び下りて走る。全体チャットでは紅の動向が途切れずに流れた。引いた角で爆発タルが待ち受け、すかさず忍者が追加の爆発タルを放り込む。
『忍者とも当然連携するよね。もしパーティならあと一人いる?』
『いても戦力差はそう変わらんが爆発タルで時間を稼がれると、スキルのクールタイムが戻って厄介だ』
『距離の取り方が上手いのかな。トールはしっかりタゲ取ってよ!』
『先回りできたらなー』
『庭園のおかげで歪な形になっていて難しい。対策にこっちも爆発タルを置いて行く。連中の移動先にあれば味方が起爆してくれるだろ』
『ナイスアイデア! ていうかさ、初めからやっとけばよくなかった?』
『忍者が入り放題なんだ。壊されるか場所を覚えて利用される』
『それもそっか』
長引くと防衛体制を敷く時間が奪われる。三人は所構わずに爆発タルを置きながら報告を待った。
《どっち逃げた?!》
《そこ右!》
《無理に追わなくてもいい! 体力が減った人は七階に行って!》
《六階各所に爆発タルの設置を始めた。紅の進行方向に見えた場合は使ってほしい》
《あれか!》
――ドオオオン!
『かかった!』
『近いな』
三人が音を頼りに向かうと、忍者を含む赤装備の四人が正面を走ってくる。体力ゲージは半分を切る状態だった。
『トール!』
『やるぞ!』
盾のスキルが発動すると足が止まり、反撃は通常攻撃にとどまる。危惧したスキルがクールタイム中なのは明らかで、後ろから十人以上の援軍がやってきた。
挟み撃ちの形で数の差も大きい。形勢の逆転は起こらず順当に紅を含む四人が倒れていった。
《紅撃破完了!》
《ギルド、ジーニアスが爆発タルを置いて仕留めました!》
『余計な主張はやめろ』
『いやいや、せっかの手柄だし……?』
喜ぶのも一瞬。赤陣営の集団が向かって来るのをジーニアスのヒーラー、ルミミが諦め顔で確認して呟いた。
『あ、これ無理なやつだ』




