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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第三章後半『攻城戦イベント』

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第144話 最後に笑うのは

《城門に集まった復帰組が出発します!》


《本隊は六階を目指しながら上がってきた階段に蓋をする。数の有利を見極めて押し引きの判断を頼む》



 天守閣は思っていたより順調に攻略が進む。



《赤本陣城内、半分の行程を敵が消化中です!》


《了解した。防衛についても各個撃破と分断を徹底してほしい》



 一方で相手の勢いも相当なのが報告で分かる。両陣営共に攻め重視の結果だろうか。


『そろそろ、おれたちも暴れる時間か!?』


『拙者はいつでも動けるでござるよ!』


 コヨミさんには六階で待ってもらっている。度々の不意打ちによって警戒度が高まり、すでに最上階の七階にも青陣営のプレイヤーたちが集まり始めていた。


 さすがに透明化も接触の危険性が生まれて気軽に使えない。しかし、配置的には問題なかった。


『では本隊の動きに合わせて準備します。コヨミさんが六階で騒ぎを起こし、タイミングを見て紅さん、レモンさん、カンペさんも続いてください』


『了解。ギルドにも伝える』


 最後の階段は倒されるのを覚悟で妨害に挑むが、自分は別行動だ。多勢相手にヒーラーは活躍しにくい。戻ってくる速度を考え、パーティーリーダーとして復活場所になるのが一番だった。


『先に城の外へ向かいます』


『お気をつけて!』


『足を滑らせないでね!』


 プレイヤーだらけの階段は通れないので、まずは庭園に出る。端で爆発タルを二つ並べ、上に追加で重ねれば立派な足場だ。衝撃に注意しながら上がると壁を難なく越えられた。


 次は下へ下へと屋根を飛び移るのだが。あまりの高さに不安が膨らむ。


「クカー!」


 そこへ、キング起動後に待避させたクロ蔵が飛んできて頭の上にとまった。もっと身体が大きいと掴まっての滑空も可能だったかもしれない。


 ただ、孤独にやるよりは勇気が出た。息を吐いて深呼吸、斜めの瓦を慎重に歩く。屋根の端にある突き出した三角形の部分を利用し、なんとか階下への道筋にする。


 ゲームなら忍者の真似事もできると自信を持って。コヨミさんという最高のお手本がいつも近くにいるのだ。


「ニンニン……」


 本人の口癖ではなく、カンペさんもなり切る際に使っていたステレオタイプなイメージで恐怖を誤魔化す。


「クアッカッカ!」


 クロ蔵に笑われている気はするが、応援と受け取って踏ん張る。瓦に角度があっても谷に曲がったところは安定した。


「ニンニン……ニンニン……」


「クックック……クァー!」


 聞かれたら二度見される独り言を武器に天守閣の逆攻略だ。




 ◇




『うへー、もう一番上まで来ちゃうよ!』


 ギルド、ジーニアスの三人組は六階と七階の間でため息をつく。


『忍者も見つからなかったなー』


『各階層ごとに潜んでたら探すのは骨だ』


『……私たち役に立ってる?』


『イベントが終われば分かる』


『ちょっとー、ギルドの輝かしい経歴に加えて新しいメンバーを勧誘したいんだけど!』


『諦めるかー』


『諦めない!』


 行動方針を決める何度目かの話し合いも長々と続くが、効果的な作戦は出てこなかった。



《天守閣内の復帰に気をつけて! 階段に敵がいるからね!》


《攻めてるほうは快進撃だ! キングもすぐに倒すぞ!》



『復帰組との挟み撃ちは上手くいかずか』


『こうなったら赤城内の本隊に合流して活躍を……』


『埋もれるだけだ』


『じゃあ、どうすんのさー。敵の真っただ中に命がけで突っ込む?』


『階段の攻防は生き残って壁になるのが最重要だ。六階で耐えてる今のうちに、七階を見回りする』


『大変だとか言ってたくせに』


『結局、不意打ちの爆発タルでいいようにやられてる。対処できないと負けだ』


『もう探してる人たちがいるでしょ』


『階段が狭くなったことで、そっちに行ける数を増やせるんだよ』


『かくれんぼの鬼だなー』


『ばっちり見つけてヒーローになるっきゃないか!』


 ようやくといった様子で三人は七階に上がる。そこでは防衛の事前準備に三パーティー規模が待機済みだった。


『封鎖で捕まらなかったし何人いるんだろ』


『発見数がゼロなのを考えるとそう多くないはずだ。キングの起動タイミングも怪しかった。数人の可能性は高い』


 キングの話題で自然に広間へ着くと、周囲に軽く目を向ける程度で庭園へ下りた。


『ごちゃごちゃ気味だけど隠れられる?』


『物陰で動かなければな』


『おれが見張っとくかー』


『トールは生存力あるしね!』


『だったら広間の入り口で……?』


 ジーニアスのリーダー、ナオが会話の途中で見た先を二人が追う。


『端っこに爆発タル積んでるじゃん。味方のやつ?』


『味方が置く理由がない。あの段差なら壁を越えて屋根に行けるか』


『隠れ場所だ!』


『どっちみち、広間に居れば侵入は防げる』


『それもそっか。でも爆発タルを使って空を飛べるんでしょ? 実は外から入り放題とかさ』


『片づけずに置いたままなのは変わった利用方法あるのかもなー』


『報告はしておくか』



《防衛は爆発タルに注意! 忍者がいる!》



『あちゃー、やっぱり潜んでたよね』


『今は余計なチャットも邪魔だな』


『私たちは捜索続行?』


『六階がどれだけ持つか次第だ』



《七階で敵の襲撃! 大剣一人と盾持ちが二人!》



『戻るぞ!』


『うひゃー!』


『仕掛けてきたかー』



《範囲化の不意打ちを合わせられて待機組が全滅です》


《固まらず距離を取ってください!》



『あの数を倒しちゃうんだ』


『狭い階段での密集を狙われたか。遭遇しても慎重に対応するぞ』


 ジーニアスの三人は急いで報告現場に戻って立ち止まる。


『どする?』


 襲撃者がどこへ向かったかの知らせはない。


『警戒すべきは流れに乗ってここが突破されることだ』



《六階まずいっす! 敵の勢いが増した!》


《一気に下がらないで!》



『絶対に示し合わせてる!』


『まずいな。勢いを止めるには……』



《後ろにも敵!》


《そいつ紅だ!》



『さっき報告があった人たちかー』


『うわ、大物だったんだ!』


『隠れず勝負をかけにいったな。紅の討伐で士気を上げるしかないぞ』


『やるよー!』


 三人は階段を飛び下りて走る。全体チャットでは紅の動向が途切れずに流れた。引いた角で爆発タルが待ち受け、すかさず忍者が追加の爆発タルを放り込む。


『忍者とも当然連携するよね。もしパーティならあと一人いる?』


『いても戦力差はそう変わらんが爆発タルで時間を稼がれると、スキルのクールタイムが戻って厄介だ』


『距離の取り方が上手いのかな。トールはしっかりタゲ取ってよ!』


『先回りできたらなー』


『庭園のおかげで歪な形になっていて難しい。対策にこっちも爆発タルを置いて行く。連中の移動先にあれば味方が起爆してくれるだろ』


『ナイスアイデア! ていうかさ、初めからやっとけばよくなかった?』


『忍者が入り放題なんだ。壊されるか場所を覚えて利用される』


『それもそっか』


 長引くと防衛体制を敷く時間が奪われる。三人は所構わずに爆発タルを置きながら報告を待った。



《どっち逃げた?!》


《そこ右!》


《無理に追わなくてもいい! 体力が減った人は七階に行って!》


《六階各所に爆発タルの設置を始めた。紅の進行方向に見えた場合は使ってほしい》


《あれか!》



――ドオオオン!



『かかった!』


『近いな』


 三人が音を頼りに向かうと、忍者を含む赤装備の四人が正面を走ってくる。体力ゲージは半分を切る状態だった。


『トール!』


『やるぞ!』


 盾のスキルが発動すると足が止まり、反撃は通常攻撃にとどまる。危惧したスキルがクールタイム中なのは明らかで、後ろから十人以上の援軍がやってきた。


 挟み撃ちの形で数の差も大きい。形勢の逆転は起こらず順当に紅を含む四人が倒れていった。



《紅撃破完了!》


《ギルド、ジーニアスが爆発タルを置いて仕留めました!》



『余計な主張はやめろ』


『いやいや、せっかの手柄だし……?』


 喜ぶのも一瞬。赤陣営の集団が向かって来るのをジーニアスのヒーラー、ルミミが諦め顔で確認して呟いた。


『あ、これ無理なやつだ』

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