第142話 青の三人衆
『うわー、あっという間に抜かれちゃったじゃん……!』
『まったく、どいつもこいつも気合が足りん』
『空飛んでたって目撃あるしなー』
青陣営に属するギルド、ジーニアスの面々が天守閣前の階段に座り込む。周りのプレイヤーたちも復帰に走るか考えている最中だった。
『で、これからどうすんの?』
『防衛でいいだろ』
『いぶし銀に言われた?』
『変わらず自由に判断しろとさ』
『信頼されてるね!』
『メンバーが少ないんだ。一々指示するほどの戦力かって話に尽きる』
『うっ! 痛い現状……!』
『前のイベントで活躍したのになー』
『さすがに三人のままっておかしいよ!』
『変なやつがくるよりマシだ』
『……自分が変な自覚を持ってくれる?』
三人は天守閣に戻り、二階に上がったところで待機する。
《防衛の立て直しは天守閣階段にて行いましょう!》
《おれたちが一瞬で赤の城を攻め落とす! それまで持ちこたえてくれよ!》
『やっぱりここを死守かー』
『途中で向こうの増援とか止めに行こうよ』
『三人じゃきつい』
『ならイベント始まったときに誰か誘えばよかったじゃん! 仲良くなったらギルドに入ってくれたかもしれないのに!』
『お前が看板を作ってアピールしたのが逆効果だったな』
『頑張りが足りなかったんだって!』
『必死過ぎると引かれるぞ』
待機中もパーティ内での言い合いが続いて時間が過ぎる。徐々に他のプレイヤーたちも集まって、階段を塞ぐ規模に膨れ上がった。
《赤陣営の先頭が天守閣前に現れたぞ!》
《二階の階段にもっと人数が欲しい!》
『もう来たかー』
『今の指示はまずいな』
『何が?』
『味方の意識に影響する。実際の数はともかく、こっちの戦力が下回ると思い込んだら弱腰になる。範囲化がある以上は大味な押し引きの応酬だ。負けてると感じた瞬間、簡単にやられてしまう』
『じゃあさ、ナオがみんなを鼓舞すれば?』
『それは俺の仕事じゃない』
『うわ、あんたきっついね!』
「体力ある人は前に並んで!」
「回復は息切れを考えつつ維持ね!」
「落ち着いて対処するよ!」
声の掛け合いで陣形が作られる。
『おれも前に出る?』
『いや、何か仕掛けてきたときに備えてパーティで固まる。トールは防御スキルを温存だ』
『りょーかい』
『私は普通に回復しとくよ』
『ルミミは余分に精神力を残してくれ。俺は弓で攻撃しつつ用心する』
《天守閣に侵入されました!》
赤い装備の集団が一直線に階段を目指す。途中で孤立した青い装備のプレイヤーたちは飲み込まれ、両陣営が睨み合うと同時に戦闘が始まった。
派手なエフェクトが階段を覆い視界を遮る。ターゲットの対象を選ぶのが困難な状況だった。
『うっわ! 屋内だとわちゃわちゃだ!』
『すり抜けに注意しろ。自爆覚悟で爆発タルを設置されると流れを持っていかれる』
『見つけたら盾で行動阻害やるよー』
「攻撃が届かないラインを見極めて立ち位置決めて!」
「やられなきゃいい!」
「復帰はあたしらのほうが早いからね!」
どちらの陣営も戦況を大きく動かせずにいる。しかし、絶え間なく行われる攻撃は重なる回復の合間に、連続して着弾することがあった。僅かずつながらプレイヤーが倒れていく。
『これ復帰の速度で勝てちゃう?』
『城内の復活ポイントは他に比べて再利用も早いがゼロじゃない。過信は禁物だ』
『でもさ、相手を挟み撃ちにできたら一番いいよね』
『そうだな。一方で避けたいのが立場の入れ替わりか。なんとか階段の狭さで人数を誤魔化して耐えるしか……? 伏せろ!』
『え、なになに?!』
突然、爆発タルが青の集団後方から放り込まれる。気づいた何人かが声を上げ……。
――ドオオオン!
空中で起爆すると被害が広がった。
『ちっ、やられたな。後ろにいたやつを探す』
『あちゃー、忍び込んで隠れてたんだね……!』
《防衛は天守閣三階に下がる! 一気に押し切られるのを防ぐため、本陣の復活ポイントをすぐに使える人たちで時間を稼いでほしい!》
《後ろにまた爆発タル!》
――ドオオオン!
二つ目の爆発タルがプレイヤーたちの足並みを乱す。すでに設置した者の姿はなかった。
『さすがに、隠れた忍者を探すのは骨か』
『後ろで警戒しようよ!』
『いいや、それは他に任せる。先に四階へ上がって次の次を確実に阻止だ』
『あ、私たちが待ち構える感じ?』
『上に行ける階段はひとつだもんなー』
三人は本隊と階段を上がった後に、別行動でそのまま四階へと上がる。
『相手が複数いたら困っちゃうけど……』
『一人でも減らせればいい。忍者以外がいるなら徹底的に探す方向に切り替える』
『くー! 作戦負けしちゃってるよ!』
『守りは後手に回りがちだ。たぶん味方の攻めも裏をかいて上手く運んでるだろう』
『信じるしかないなー』
《防衛の後方に忍者! 曲がり角の爆発タルでやられました!》
『早速やってるじゃん……!』
『警戒されてるなかでか。やり手だな』
『透明化はトップ勢も覚えてないよね?』
『そのはずだ。念のため足音には気をつけろ。せめて、ここで排除する』