第135話 こそこそ作戦
《大扉の残りゲージが八割を切りました!》
橋の上に五つの破城槌が並ぶなか、一つ目がぎりぎり稼働中だ。滑り出しは順調と言える。
《自陣城にも破城槌が並んでいきます》
《大扉のゲージは九割から進み始めた段階です!》
《了解した。青陣営の大扉より自陣営のゲージが減った際は攻守のバランスを見直す》
妨害次第では多少の優位も簡単に引っくり返る。油断は禁物だった。
『そろそろ自分たちも動きましょう』
『おっしゃ、やるか!』
『周りは敵だらけ。楽しくなるねー』
『スキルのクールタイム程度は間隔を空けます』
さすがに不意打ちであっても立て続ければ警戒度が高まる。増援の駆けつけは命取りだ。
『なので遠慮なく使ってください』
『わかった』
『では、拙者が狼煙を上げるでござる!』
『お願いします』
今のところ、物置き部屋前の廊下を通るプレイヤーはいなかった。まだ自分たちを探しているのなら、天守閣とその周辺が主なのだろう。
地図を開き現在地を覚えておく。同じ場所で戦うのは避けて城内を広く使いたい。
『爆発タルを破壊しました! みなさま方、大慌てでござるよ』
騒ぎの起こる様子が目に浮かぶ。コヨミさんの位置を調べると、長屋の一階と二階を上手く利用して逃げるのが分かった。
『追手の数が多い場合は言ってください。別の物置き部屋へ移動します』
『了解です!』
防衛の邪魔が目的と理解したまま、忍者一人をいつまで相手にするか。未知数な部分も手探りで挑戦だ。
『ふむ、先回りの余地を残しましたが誰もいません。追ってくるのは七人なのでいけそうかと』
『透明化を解除します』
『よし、バフっとくか!』
『フレイムブレイド』
魔導書に回復魔法をストックする。姿が見えているだけで急に緊張が高まった。
『アイテムは温存でいいかなー』
どうせやられるなら、と反射的に相手が使うのには注意だ。アイアンクラッドタートルは事前にかけずタイミングを見極めよう。
念のため木箱の陰に隠れて待つ。中へ入るには少々加工が必要か。ここに居続けるのであれば役立っても、すぐの移動を考えると単なる障害物で十分だった。
『前を通り過ぎるでござるよ!』
報告を受けて紅さんを先頭にレモンさんとカンペさんが位置に着く。武器を構えるとコヨミさんが廊下を横切った。
『フレイムマイト』
『ソニックブレイド!』
『ソニックブレイド!』
後ろを二人の青装備のプレイヤーが通ったところで三人がスキルを発動する。
「うお!」
「なんでいんだよ!」
「え、紅か?!」
相手が驚くのも待たずに追撃が行われた。完璧な不意打ちで反撃なしに四人を倒す。
『逃げるのは終わりでござる!』
戻ってきたコヨミさんも加わると人数差が生まれる。ついて来れなかったのかヒーラーはおらず、一方的に戦えた。
おそらく、それぞれが別パーティーの寄せ集めで連携が拙い。回復魔法を飛ばすのも一度で全員を倒せた。
『いっちょあがり!』
『透明化をかけます』
『よろしく!』
増援が来ないのを確認し透明になる。そして、人が集まる前に長屋を離れて外に出た。
『次は別の門へ向かいましょう』
『了解でござる!』
なぜこんな場所に、と思ってもらえれば作戦は成功だ。紅さんをまったくの無視はできないはず。仮に指示されても興味本位に探すプレイヤーは現れる。
石垣に囲まれた道で度々すれ違いつつ門を目指した。途中でまた長屋に入り小窓から外を眺めると、橋の手前にちらほら赤装備が見える。
『回り込みの警戒をしてんのか』
『敵の行き来はなさそう?』
防衛も本格的な城攻めと同時進行では余計な人員を割きにくいのかもしれない。つまり、城内での妨害は効果的になり得た。
『門の上ではふたパーティが待機中でござる』
『不意打ちでどれだけ減らせるかだな!』
『拙者が透明化を解除したうえで、爆発タルを設置します』
門扉に守られた状態で警戒心が薄まっていると予想できた。まさか紅さんが来るとは思いもしないだろう。
『範囲増幅剤も使う』
『出し惜しみなしね!』
あまり温存しすぎても、逆に倒されてしまえば全てが失われる。適度に消費するべきだ。一方で自分はいくつものアイテムを預かっているため、命を大事にしたい。
『隙を見てやるでござるよ』
『頼んだコヨミっち!』
近くの物陰に身を潜めて準備を行う。普通だと戦うのが難しい数の差も怖くなかった。
『視線に気をつけて……設置完了です。起爆します!』
――ドオオオン!
「おわっ!」
「敵襲か!?」
「門前に敵影なし!」
『フレイムマイト』
爆風に紛れて紅さんのスキルが複数人を巻き込む。範囲増幅剤は攻撃対象が一人の場合、奥行横幅を三倍ほどに膨らませた。
『ソニックブレイド!』
『ソニックブレイド!』
レモンさんとカンペさんが遅らせて発動させたスキルは、ターゲットを変えてさらにダメージを広げる。連携が光る流れだ。
「ちょ、回復が間に合わんって!」
「範囲を使え!」
「余裕ねー!」
『ディープリーピアース』
コヨミさんのダメ押しが刺さる。アイテムを使うにも短いながら時間はかかった。絶え間ない攻撃を受けては対応に追われる。回復の出番は再び一度で乗り切って、あっという間に制圧だ。
『気持ちいいぐらいの勝利!』
『やっぱり、不意打ちは数の差を覆せるね』
初手の爆発タルも大きく効果を発揮した。
『次は三つめの門でござるか?』
『天守閣への道中で戦います。神出鬼没なやり方が続くとパーティでの透明化を疑われるので、一度鉢合わせを装いましょう』
『正面衝突上等!』
単純に隠れて行動するとはっきり伝われば、隅々まで手間をかけて探してくれる。ある程度のリスクは必要だった。




