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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第三章後半『攻城戦イベント』

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132/152

第132話 忍者ですが何か?

『ついに青陣営のキングとご対面でござる』


『タコときてイカだ!』


『それっぽいよね』


 対比には納得感がある。身体そのものは人型でイカらしさがどう影響するかが気になった。


 壊れた和傘などが散らばるのは茶会跡地だろうか。とりあえず、形を残す椅子に皆で座りキングの観察を、といっても動きはないのだが。さらなる情報収集は行っておきたい。


『おっと? 赤い装備の方が入ってきましたよ』


『一人で侵入してきたのかな』


 コヨミさんと同じ忍者タイプのプレイヤーだ。短剣を握り周囲へ視線を配るのもそこそこに、キングへ攻撃を仕掛けた。


『いきなりやり始めたぞ!』


『好戦的だねー』


『おれらも行くか!』


『待ってください。この人数では無謀です』


 ガーディアンと比べて強く設定されているのは明らかだ。無暗に加勢してもすぐにやられてしまう。ただ、戦う様子を見届けられれば参考にはできた。


『勉強させてもらいましょう』


『それ得意分野!』



――ゴーン、ゴーン!



 突然、鐘の音が鳴り始めた。城内全体に響いていそうな大きさだ。


『キングの起動音』


『なるほど』


 すでにミリ単位で体力が減っていることから、何度か攻撃を受けているのが分かる。忍び込んで密かに仕掛ける戦法が許されると、常に監視役が求められた。


 せっかくのイベントを最奥に位置する庭園で待ち続けるのはもったいない。襲撃者を知らせるのは納得のシステムだった。


『今のとこ剣を普通に振ってる感じ?』


『身体の大きさがなー。前方百八十度ぐらいはダメージ域だろあれ』


『後ろに回って攻撃でござるな』


『本隊の数で前後固定は難しい』


『わちゃわちゃになったらかー』


 レモンさんとカンペさんの二人なら上手くターゲットの交換が可能でも、人が増えるとどうなるか不安は大きい。


『拠点だと本隊で楽に轢いてね?』


『ガーディアンじゃなくてキングだし。そんな簡単に攻略は無理だって』


『お仕置きに特大範囲の反撃はあり得るでござる』


 アイアンクラッドタートルで間に合うと安易に考えるのはやめる。本隊の攻撃力は頼もしいが被害も想定された。


 加えて庭園までに全員が生き残れるわけではない。キングを倒し切るのに何度攻め直す必要があるか。


『ここへ到着後に追ってくる相手を本隊の大多数が押しとどめる、のはどうでしょう』


 見たところ入口は一か所。横やりを防ぐ戦力も重要だった。


『数パーティでキングに対応すれば事故は減るはずです。その分、時間がかかっても行動パターンを効率的に把握できると思います』


『それありかも!』


『態勢を整え直したうえで戻ってくるのも大変でござるしね』


『本隊を分けてもいい。第一陣と第二陣が入れ替わりで攻める』


 おそらく階段の封鎖は数が少なくても大丈夫。攻め込むのが厄介とも言えるけれど。初回だけ全員で挑み、脱落したプレイヤーで第二陣を組むなど。色々と手段は取れた。


『お! キングの剣が変わった!』


 忍者との戦いはなおも行われている。ヒットアンドアウェイで攻撃を避けていたが、直剣のデザインが変わるとムチのようにしなって伸びた。


『蛇腹剣でござる!』


 コヨミさんが嬉しそうに反応する。忍者に剣先が届くと足に絡まり引き寄せられた。そして、最後は盾の殴打で吹き飛ぶ。


『遠距離持ちだねー』


『盾の攻撃はダメージ低めか?』


 体力の減りは一割ほど。しかし、スタン効果があるのか動きが止まった。


「いた!」


「数はひとりだ」


「やるぞ!」


 そこへ青陣営のプレイヤーたちがやってくる。忍者は多勢に無勢ですぐ倒されてしまった。


「任務完了!」


「やれやれ、不法侵入者には困ったもんだ」


「中央拠点の援軍に行こーぜ!」


 キングが静かになると周囲を確認せずに全員が立ち去る。鐘の音は大きく警戒を高める要因にはならないようだ。


『武器が切り替わる系だったなー』


『タイミングはランダムっぽいね』


 一人が繰り広げる戦闘で分かることには限界がある。後は本番で見極めながら……。


『次は私が行く』


 紅さんの急な言葉に驚いたものの、いいアイデアに思えた。実際に剣を交えるのはきっと攻略の助けになる。本隊が作られるまでの時間は十分にあった。


『待った、おれが先だ! お嬢はまず観察係な!』


『うんうん、異論なし』


 全員でなら長く戦っていられるが、その光景を青陣営のプレイヤーに見られるのはまずい。パーティ単位の場合は侵入経路に疑念を抱かせた。倒される前提でキングに挑む以上、再びタルを使っての門越えが不可欠だ。


『ナカノっち、アイテム頼んだ!』


 前もって受け取り済みのアイテムに加え、さらにいくつかを受け取る。


『いくぞ!』


 カンペさんがスキルの発動で透明化を解除、攻撃を仕掛けた。



――ゴーン、ゴーン!



 鳴り響いた鐘の音も、援軍へ向かうのを遅らせるのに役立つだろう。キングの武器は直剣に戻っており、反撃を受けたカンペさんの体力が二割減った。


『威力としては回復が間に合いますね』


『通常攻撃は怖くない』


『やはり、特殊な動き次第でござるな』


『負けん!』


 お互いが剣と盾のシンプルな攻防だ。


『かんちゃん、耐えて新しいパターン見せてよ!』


『任せろ!』


 カンペさんは地面を転がり、キングの周囲を走り回る。さすがに簡単な振る舞いでは同じパターンが続いた。


『むむ、青陣営の方々がきてしまいましたよ』


『早くね!?』


『さっきの人たちが戻ってきたのかなー』


 階段を下りて庭園に入ってきた集団が向かってくる。少し戦い始めるのが早かったのかもしれない。


『念のため忍者になり切ってよ!』


『タンクがいたらおかしいもんな……!』


 装備は共通なので武器を仕舞えば自然と勘違いが生まれる。誰もタルで門を越えてきたと想像しないはずだ。


「ニンニン! ござる!」


 ただし、カンペさんの上げた声があからさま過ぎて心配になった。

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