第13話 杖か魔導書か
運営からの手紙を読んでイベントの告知に嬉しくなるが、プレイヤー同士の戦闘が含まれるのは尻込みしてしまう。ただ、回復魔法の出番でもあった。
見送っても後で後悔するのがオチ。迷うのもそこそこに手紙の最後に用意された参加申請ボタンを押した。開催日は明日。急すぎて緊張してくる。
次は忘れないように装備画面を開いて魔導書を選ぶ。腰に下げていた杖と代わって、ハードカバーの分厚い本が現れた。
杖との違いを試す前に、人の目が気になるので道を外れて森の中に入る。誰も自分のことなど見てないのは分かっているが性分だ。
キュル助を横に伴いモンスターを探す。とりあえず戦闘を任せ、回復魔法を使って確かめよう。
「……?」
木の陰に見えた何かに足を止める。姿はカサの部分が赤いキノコで、手足が生えて人の腰ほどの大きさだった。奇妙にも可愛くも見えるデザインだ。
ターゲットでコマキノコと名前が表示される。敵対を示す赤色でモンスターなのが分かった。
「行け、キュル助」
「キュル!」
キュル助の攻撃にコマキノコはのっそりとした動きで反応する。口などは見当たらず鳴き声はなかった。
「トリガー、詠唱」
準備をするが再びキュル助の攻撃が当たる。鈍い相手だが腕を構えた次の瞬間、右手が素早く伸びた。
「キュルゥ、キュ!」
さらに左手が続いてのワンツーパンチ。キュル助の体力が一気に減った。
「トリガー、ヒール!」
慌てて回復魔法を発動させるが、なぜか不発に終わる。
「キュル助、カモフラージュ!」
理由が分からず焦りながらも急いで透明化。コマキノコと距離を取った。
「一体……」
何が、とキュル助を見ても首を傾けてのん気な顔をされるだけ。しかし、落ち着いてみると魔導書の影響としか考えられなかった。
魔導書には靄のようなエフェクトがかかっている。何かの仕掛けが働いたのは間違いない。
「トリガー、ヒール」
回復魔法が不発のまま終わるとは思えず再度発動させたところ、キュル助の体力が回復する。
「一度目は失敗で二度目に……?」
効果は認識したものの、なんの意味があるのかさっぱりだ。杖のほうが素直で明らかに使いやすかった。
せっかく買った魔導書は無駄になるが、杖に装備を変えようとジェスチャーをするために上げた手が半透明でハッとする。回復魔法を発動したのに透明化が解除されていない? 魔導書を介せばこんなことが起こるのか。
おそらく魔法のストックが行われるのだろう。詠唱を省けるなら他にも有用性はある気がする。詠唱は確か魔法を発動するまでに制限時間があった。戦闘前に準備しておけば急な攻撃にも焦らず対応が可能だ。
杖か魔導書か、どちらを使っていくかが決まる。透明化を存分に発揮できる魔導書で今以上に回復を頑張っていこう。
まずはコマキノコへのリベンジだ。
「トリガー、詠唱」
――シュンッ!
「トリガー、ヒール」
魔導書が靄に包まれたのを確認する。武器を使いこなした気分になり自信が出てきた。
「行け、キュル助」
「キュル!」
戦闘が始まったのを見守る。攻撃を受けたところへ冷静に回復し、次に備えて詠唱と回復魔法を唱えた。
やってることはほとんど同じなのに杖よりも安定する。回復量も現状は差異がなく自分に合っていた。
≪キュル助のレベルが上昇しました≫
≪コマキノコの胞子を入手しました≫
≪コマキノコの肉厚を入手しました≫
コマキノコを倒すとアイテムドロップの他にキュル助のレベルが上がる。
【キュル助】
『レベル』 2
『体 力』41/41
『精神力』37/37
ペットの画面を開くと体力、精神力が共に伸びていた。休まずにカモフラージュを使える回数が増えてより役立ってくれるようになった。
レベル上げを続けるのもいいがクエストは途切れたし、別のことを試すのもいいかもしれない。マップを開きポータルを利用して一瞬で王都の噴水広場に戻った。
喧噪を感じるぐらいには人が増え始めている。移動でプレイヤー同士がぶつかることはないが、馬だとすれ違う時に慌てそうなので町の中を歩く。マップを開いて調合ギルドを探し、目的地に設定した。




