第128話 リッチな炎
洞窟内は赤い花が光を放つため明るい。所々に燃えてるものがあり迫力を感じた。迷路状に入り組んだ構造も、場所が分かっていれば問題なかった。
『きっちー!』
『スケルトンは多いと横やりが邪魔でござるな』
『復活するのがやらしーかも』
そう時間は経っていないものの、さすがに四人では限界がある。体力ゲージが危険域を行き来していた。
『もうすぐ到着します』
『あとちょっと踏ん張りたいねー』
『増えた相手プレイヤーの皆様方を、少しでも不利な状況に追い込みましょう』
やはり警戒組は他にもいて守りに帰ったようだ。
「ここを真っすぐ進めばガーディアンがいる部屋です」
「気合入れるぞ!」
「ボスは後ろに!」
ヒーラーということで皆が前に出てくれる。回復をすると戦闘状態になるので、まだ応援しかできないのがもどかしい。復活場所の役割を果たすのが最重要だった。
途中、陰に隠れてキュル助を呼び出す。透明化を密かにかけて様子を見守る。
「外の赤いやつらが来てる!」
「もっといるからな!」
「どうだか!」
敵味方入り乱れた言い合いを皮切りに激しい戦闘が始まった。
『お嬢、どうする!』
『目立って死ぬ』
『それ得意分野!』
戦場近くでの復活はアイテムの受け渡しに支障が出る。分かれ道で我慢の待機だ。
『スキル全開!』
『クールタイムが回復するもんね』
『成敗でござる!』
自分も相手の増援を警戒しながら緊張を深呼吸で和らげる。離れて見る限りでは広間になっており、炎が各所で上がっていた。スケルトンの数は三十体に届くほど。辺境の里と同じく実に厄介だった。
『げふ、また一番乗り……!』
そして、横にカンペさんが現れる。
『ナカノっち、アイテム!』
お疲れさまには早く別の言葉を探すところで、預かったものを返す。
『よっしゃ、第二回戦だ!』
『待ってください』
『え?』
気持ちは理解できるけれど、より効果的に戦うなら足並みを揃えた方がいい。
『全員で行けば不意打ちを狙えます。すぐに戻るとは思っていないはずです』
『そうそう、あたしもやられちゃったしさ』
レモンさんも近くに現れてコヨミさん、紅さんと続いた。
『焦らなくとも味方の皆さまが頑張ってくださいます』
『じゃ、のんびりするかー』
『極端だねあんたは』
アイテムを順番に渡していき準備を済ませる。
『透明化を全員にかけます』
『ダメ。解除される瞬間を見られる』
背中から攻撃を受ける側は驚くだけでも、その向こうには味方がいる。
『分かりました』
用心しすぎだと思うが気遣いはありがたい。素直に従おう。
『広間には横穴が複数ありました。構造的に別の道を進むと背後を取れそうでござるよ』
目端が利くコヨミさんはいつも頼りになる。
『コヨみん先導お願い!』
『了解でござる!』
『自分は一人で透明化を行い、回復に専念します』
悠長にしても優位が崩れる。背中を追って洞窟を急いだ。
『ヒーラーが自衛できると楽だよねー』
『聖騎士もやることは近いけど、やっぱ本職には敵わんなー』
キュル助のおかげで他のヒーラーと支援の形が異なるのは各イベントで感じていた。自己評価では隠れるのを優先するあまり回復が疎かになっているのでは、との不安が大きい。恵まれた仲間のサポートに助けられて、ようやく人並みな気がした。
一層頑張らねばと手に力が入るなか広間に到着する。ドーム状の中央に壊れた祭壇が存在し、そこにプレイヤーより二回りは大きなモンスターが浮かんでいた。
『リッチは祭壇に固定で動きませんでした』
ローブ姿でスケルトンと同様に身体を骨で形作る。リアルなテクスチャーはホラー顔負けだ。
『今んとこ手の水晶から遠距離の魔法が飛ぶ以外に攻撃はなかったな』
『スケルトンの攻撃はダメージが低いし、ばらければ意外と無視もいける?』
『まずはプレイヤーを倒しましょう』
障害物が祭壇以外にないため広間に入る手前で待機する。四人はスケルトンを盾に戦う相手プレイヤーへ静かに近づき、紅さんに合わせて仕掛けた。
「後ろ!」
「げっ、なんで紅がまた……!」
「押せ押せー!」
挟み撃ちは成功だがリッチとスケルトンは野放しだ。被弾覚悟の皆に対し、ヒーラーの役割をしっかりこなす。魔導書の回復魔法を解放しストック、透明化は無駄な精神力の消費回避に控える。
クロ蔵を後ろに配置して警戒は念入りに行った。緊張も力に、と自分をだましつつ回復を落ち着いて飛ばす。
『余裕ありでござるな』
『よしよし、味方も結構やり手だ!』
『あたしが先にリッチを受け持つよ!』
戦況の変化にそれぞれの判断で動いてくれる。赤い装備の中に青い装備が飲み込まれて一人、また一人と消えていく。
「これで最後!」
「ナイス!」
「次はガーディアンをパパッとやるぞ!」
相手プレイヤーがいなくなったのを確認し、広間に入って壁を背に支援する。レモンさんとカンペさんがリッチを受け持ち、ターゲットを交代しながら互いに回復し合う連携が光る。危なげなくて安心できた。
スケルトンは体力が低めで再度湧くより、殲滅の方が早く十体を切る勢いだ。城攻めを諦めた部隊が拠点だけはと戻ってくることも考えられる。時間がかかり過ぎるのは避けたかった。
順調に思われたその時、広間を明るく照らしていた花の灯りが一斉に消える。
『何かくるでござるな』
「暗いんだが?」
「誰か灯りくれー」
こういう異変は危険の前兆。スキル範囲増幅剤でアイアンクラッドタートルを使用する。暗闇にカメの甲羅がエフェクトで浮かぶと、青い炎が部屋全体に広がった。




