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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第三章後半『攻城戦イベント』

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122/152

第122話 タルにご用心

『青陣営の残党数人が離れていくでござる』


『無事に押し切れましたね』


 スキル範囲増幅剤の効果を感じられる戦いだった。こちらはアイアンクラッドタートルでダメージを軽減し、相手は直後から回復に追われる。先手の状況を作れるのは非常に大きい。


 途中、裏手で戦いを繰り広げていた集団が合流しても、落ち着いて対処できた。後ろにガーディアンが控えると心理的な余裕が生まれる。



《中央下の拠点、煙霧平野の占拠が完了した。続けて中心の古城跡地を占拠後、流れに乗って城攻めを行う。あくまで試験的に、必要なものの確認作業と考えてほしい》



『お! うちのサブマスがやる気だ!』


『まあ、対策を立てるなら早いうちがいいよね』


『すぐ行く?』


『行きたいところですが、貢献ポイントの交換に戻りましょう』


『わかった』


『ポイントは稼げたでござるしね』



《中央三つの拠点を手厚く守り、他は手薄で構わない。我々の城が攻められた場合は本隊を脱落した者に対応願う》



 合流は遅れるが拠点を離れ本陣へと走って戻る。


『ライドが交換品にあったらなー』


『各拠点に転移できるアイテムがあるって、ギルドメンバーが話してたかも?』


『ほう、それはなんとも便利な』


 死なずに移動の手間を省けるのは助かる。採取物を無事に持ち帰れるし、道中でもすぐ救援に向かえた。


『さっき、装備がゴージャスな人もいたっけ』


『忍バージョンがほしいでござる!』


 ゴテゴテ度が増した格好で足軽に侍っぽさが出ていた。残念ながら忍者の方向性は見当たらなかったので、種類は限られそうだ。


『この先、拠点が青になってる』


『我慢しましょう』


『仕方ない』


 中央より本陣側だが、シュヴァルツさんの手薄発言もある。占拠されているからこそ相手がばらけるとも考えられた。


 度々、全体チャットで流れる戦況を横耳に。戦闘を回避して城に到着する。改めて地図で周辺を見ると門が三か所あった。守りは分散されるが、攻める方も主導権を持つとはいえ難しい判断が求められる。単純に大人数が集まると身動きがとりにくい、という運営上の理由かもしれない。


 NPCが店を開く部屋で各々、アイテムを吟味する。素材の納品所も見つけたので全てを預けた。その素材たちは同じ陣営のプレイヤーが自由に使えるようだ。まさに協力プレイでやる気が出る。


 交換品のクエスチョンマークは全てが外れていた。最も高いのは破城槌の設計図で、現在の貢献ポイントでも足りない。おそらく城の扉を打ち破るのに使うのだろう。ポーションなどは複数個欲しいため、温存して交換を目指すにも時間がかかる。それに、そこまで数が必要かは疑問だ。


 みんなのポイントが無駄に消費される事態は避けるべき。特定の場面で活用するものは、シュヴァルツさんに任せるのが一番か。


 他に見て回る中で爆発タルといった変わり種も目を引く。ただのタルなら隠れる場所に使えたが。流れ弾に当たって爆発するのは怖かった。


『色々あるなー』


『あれもこれも交換するのはなしね』


『なんで?』


『死んだらロストするでしょ』


『あ、そっか』


『貢献ポイントは減らなかったし。最低限にしときなよ』


『おっけ』


 確かに、勢いで交換を重ねるのは悪手だ。まずは転移用の……。



【転移コーラ】

『種類』イベント専用アイテム

『説明』占拠中の拠点に移動する

    スパイスの風味が豊かなコーラ

    ぬるい



 なぜか飲み物のコーラ型で予備を含め三つ入手する。何度も使うときは本陣の城に転移すればよかった。


『ここに投擲アイテムがありますよ』


『交換しておきます』


 コヨミさんの前にいるNPCから、いくつか選ぶ。消耗品のおかげかポイントは低めの設定でありがたい。


 さらにポーションの数を悩みつつ、スキル範囲増幅剤もきっと出番が多いはず。最後に防具のアップグレードを行うと貢献ポイントが寂しくなる。また頑張って役立ちつつ地道に増やそう。


『これでみんな装備がかっこよくなった!』


『まだ上のアップグレードがあるんだね』


『忍の装いはありませんでしたが、集団へ紛れる任務と考えましょう』


 徹底した忍者振りはさすが。自分も初心を忘れず、効果範囲を広げた回復魔法も活用して支援だ。



《本陣の城へ、ふたパーティー規模の敵がきてます!》


《了解した。本陣内の戦力で迎え撃ってもらいたい。難しい場合は再度報告を願う》



 準備が済んだところで全体チャットに気になる内容が。


『人が多いし簡単に追い払える?』


『念のため行きましょうか』


『了解』


 交換品目当てのプレイヤーだけで数は足りるけれど、自分たちも出発前に様子を見ておこう。


『パワーアップした力のお披露目だ!』


『ほとんど同じだし、無駄にアイテムを使わないでよ』


 門へ急ぎ横の見張り塔を上る。途中で出られる通路はその真上につながった。


「ここからなら一方的?」


「遠距離持ちの独壇場か」


「相手のも届くし油断は禁物だね」


 すでに十人ほどがいて弓矢を飛ばす。下では盾役が防御に構えて、前衛が大きな扉を攻撃中だった。


『門扉のゲージはまったく減っていないでござるな』


『大人数で力押しが可能だとしても、スペースが問題になりますね』


『交換品にあった破城槌がいる感じ?』


 想定される突破方法以外では厳しい印象だ。


『忍び込むのもありですよ!』


『それはコヨみん含め忍者の専売特許でしょ』


 誰も彼もが門扉を無視できると存在意義がなくなる。一部がかき乱すぐらいでちょうどいい気はした。


「面白いの持ってきたぞ!」


「何それ?」


「タルじゃん」


 味方の一人がタルを担いで現れた。伸びた導火線がバチバチと主張するため、少し心配になる。


「爆発タルってやつか」


「ちょ、ここで爆発させんなよ!」


「任せとけって。おら!」


 そのままタルが放り投げられた。興味に引かれて落ちる先を覗き込む。



――ドオオオン!



 下の相手へ接触するなり激しい音と共に煙が上がる。数人が宙を飛び道を外れて坂を転がっていく。今回ばかりはタルに用心したくなる威力だった。

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