第122話 タルにご用心
『青陣営の残党数人が離れていくでござる』
『無事に押し切れましたね』
スキル範囲増幅剤の効果を感じられる戦いだった。こちらはアイアンクラッドタートルでダメージを軽減し、相手は直後から回復に追われる。先手の状況を作れるのは非常に大きい。
途中、裏手で戦いを繰り広げていた集団が合流しても、落ち着いて対処できた。後ろにガーディアンが控えると心理的な余裕が生まれる。
《中央下の拠点、煙霧平野の占拠が完了した。続けて中心の古城跡地を占拠後、流れに乗って城攻めを行う。あくまで試験的に、必要なものの確認作業と考えてほしい》
『お! うちのサブマスがやる気だ!』
『まあ、対策を立てるなら早いうちがいいよね』
『すぐ行く?』
『行きたいところですが、貢献ポイントの交換に戻りましょう』
『わかった』
『ポイントは稼げたでござるしね』
《中央三つの拠点を手厚く守り、他は手薄で構わない。我々の城が攻められた場合は本隊を脱落した者に対応願う》
合流は遅れるが拠点を離れ本陣へと走って戻る。
『ライドが交換品にあったらなー』
『各拠点に転移できるアイテムがあるって、ギルドメンバーが話してたかも?』
『ほう、それはなんとも便利な』
死なずに移動の手間を省けるのは助かる。採取物を無事に持ち帰れるし、道中でもすぐ救援に向かえた。
『さっき、装備がゴージャスな人もいたっけ』
『忍バージョンがほしいでござる!』
ゴテゴテ度が増した格好で足軽に侍っぽさが出ていた。残念ながら忍者の方向性は見当たらなかったので、種類は限られそうだ。
『この先、拠点が青になってる』
『我慢しましょう』
『仕方ない』
中央より本陣側だが、シュヴァルツさんの手薄発言もある。占拠されているからこそ相手がばらけるとも考えられた。
度々、全体チャットで流れる戦況を横耳に。戦闘を回避して城に到着する。改めて地図で周辺を見ると門が三か所あった。守りは分散されるが、攻める方も主導権を持つとはいえ難しい判断が求められる。単純に大人数が集まると身動きがとりにくい、という運営上の理由かもしれない。
NPCが店を開く部屋で各々、アイテムを吟味する。素材の納品所も見つけたので全てを預けた。その素材たちは同じ陣営のプレイヤーが自由に使えるようだ。まさに協力プレイでやる気が出る。
交換品のクエスチョンマークは全てが外れていた。最も高いのは破城槌の設計図で、現在の貢献ポイントでも足りない。おそらく城の扉を打ち破るのに使うのだろう。ポーションなどは複数個欲しいため、温存して交換を目指すにも時間がかかる。それに、そこまで数が必要かは疑問だ。
みんなのポイントが無駄に消費される事態は避けるべき。特定の場面で活用するものは、シュヴァルツさんに任せるのが一番か。
他に見て回る中で爆発タルといった変わり種も目を引く。ただのタルなら隠れる場所に使えたが。流れ弾に当たって爆発するのは怖かった。
『色々あるなー』
『あれもこれも交換するのはなしね』
『なんで?』
『死んだらロストするでしょ』
『あ、そっか』
『貢献ポイントは減らなかったし。最低限にしときなよ』
『おっけ』
確かに、勢いで交換を重ねるのは悪手だ。まずは転移用の……。
【転移コーラ】
『種類』イベント専用アイテム
『説明』占拠中の拠点に移動する
スパイスの風味が豊かなコーラ
ぬるい
なぜか飲み物のコーラ型で予備を含め三つ入手する。何度も使うときは本陣の城に転移すればよかった。
『ここに投擲アイテムがありますよ』
『交換しておきます』
コヨミさんの前にいるNPCから、いくつか選ぶ。消耗品のおかげかポイントは低めの設定でありがたい。
さらにポーションの数を悩みつつ、スキル範囲増幅剤もきっと出番が多いはず。最後に防具のアップグレードを行うと貢献ポイントが寂しくなる。また頑張って役立ちつつ地道に増やそう。
『これでみんな装備がかっこよくなった!』
『まだ上のアップグレードがあるんだね』
『忍の装いはありませんでしたが、集団へ紛れる任務と考えましょう』
徹底した忍者振りはさすが。自分も初心を忘れず、効果範囲を広げた回復魔法も活用して支援だ。
《本陣の城へ、ふたパーティー規模の敵がきてます!》
《了解した。本陣内の戦力で迎え撃ってもらいたい。難しい場合は再度報告を願う》
準備が済んだところで全体チャットに気になる内容が。
『人が多いし簡単に追い払える?』
『念のため行きましょうか』
『了解』
交換品目当てのプレイヤーだけで数は足りるけれど、自分たちも出発前に様子を見ておこう。
『パワーアップした力のお披露目だ!』
『ほとんど同じだし、無駄にアイテムを使わないでよ』
門へ急ぎ横の見張り塔を上る。途中で出られる通路はその真上につながった。
「ここからなら一方的?」
「遠距離持ちの独壇場か」
「相手のも届くし油断は禁物だね」
すでに十人ほどがいて弓矢を飛ばす。下では盾役が防御に構えて、前衛が大きな扉を攻撃中だった。
『門扉のゲージはまったく減っていないでござるな』
『大人数で力押しが可能だとしても、スペースが問題になりますね』
『交換品にあった破城槌がいる感じ?』
想定される突破方法以外では厳しい印象だ。
『忍び込むのもありですよ!』
『それはコヨみん含め忍者の専売特許でしょ』
誰も彼もが門扉を無視できると存在意義がなくなる。一部がかき乱すぐらいでちょうどいい気はした。
「面白いの持ってきたぞ!」
「何それ?」
「タルじゃん」
味方の一人がタルを担いで現れた。伸びた導火線がバチバチと主張するため、少し心配になる。
「爆発タルってやつか」
「ちょ、ここで爆発させんなよ!」
「任せとけって。おら!」
そのままタルが放り投げられた。興味に引かれて落ちる先を覗き込む。
――ドオオオン!
下の相手へ接触するなり激しい音と共に煙が上がる。数人が宙を飛び道を外れて坂を転がっていく。今回ばかりはタルに用心したくなる威力だった。




