第12話 イベントのお知らせ
お昼には早いがナポリタンを作って食べる。副菜にわざわざコンソメスープを用意して時間をかけた。少しは現実に目を向けてゲームにばかり熱中する後ろめたさを軽減させたい。
食後にはテレビを眺めてゆっくりする。ニュース番組で世の中の動向ぐらいは把握した気になろう。
襲う眠気を軽いストレッチでやり過ごし、ゲーム機を手にした。待たせていた商人の元にようやく出発だ。
厩舎の前は昼を過ぎて賑わいを増していた。道に出てアイテム欄から馬呼びの鈴を使用する。
――チリンチリン。
耳心地のいい鈴の音が鳴ると、どこからともなく現れた馬が走ってきて横で止まった。
≪ライドのチュートリアルを受けますか?≫
そして、システムメッセージが出てくる。さすがに現実の騎乗スキルが必要になるとは思えないけれど、念のため受けておこう。
◇
「さあ、行きましょう冒険者さま!」
随分と久しぶりに会った気がするNPCが馬に乗って催促する。ゲームを開始したときと同じレベルでチュートリアルに手間取ってしまった。
手綱や足の動きに加え、姿勢や体重のかけ方などが馬の操作に影響する。おそらく今後、使用頻度が高くなる移動手段にしては中々ハードだった。
落馬もあってチュートリアル内で経験した感覚だとモンスターが多数いるエリアでは、自由に走るのも難しい。VRMMOでお決まりのシステムなのかもしれないが、初心者には慣れるまで時間がかかりそうだ。
横にいる馬の手綱を握り鐙に左足をかけて右足で地面を蹴る。現実でやると怒られる勢いで馬にしがみついて、なんとか跨れた。
姿勢のせいで自然と歩き出したので慌てて背筋を伸ばす。目の位置が高くなるだけで緊張感が増した。
走り出したNPCを追ってこわごわ進む。左に曲がる場合はこう、右に曲がる場合はこう、と頭で考えながら必死に操作する。謎ペンギン、ペンリルが数日後に使えるはずだが操作方法が違ったらまた練習が必要だ。
安全運転で同じクエストを進行中のプレイヤーに抜かれつつ、門をくぐって外に出る。目的地はまだ先らしく石畳の街道をしばらく走って三叉路を右に曲がった。
道は土に変わり森の中へ入っていく。
≪プライベートエリアに移動します≫
急なシステムメッセージに驚くと同時に、プライベートエリアとはなんだと疑問が浮かぶ。何か個人的な場所、と考えて周りを見ると他のプレイヤーがいなくなっていた。
オンラインゲームの中にもクエストによってはオフラインに似た環境があるようだ。人の目がないと思ったら気が緩みかけ、落馬がよぎって姿勢を正した。
「見えてきました!」
NPCの言う通り道の中央に止まった馬車が何台か確認でき、その周りで戦闘が行われている。身なりから護衛と野盗なのが分かった。
馬を止めて降りる。もちろん戦闘には参加せず回復魔法を護衛にふりまくことにした。
「キュル助、カモフラージュ」
自分が狙われたときは透明化だ。野盗はこちらを見失い離れていく。キュル助の精神力に限りがあるので続けて何度も使えないが便利だった。
野盗の数は徐々に減っていきクエストは無事クリアになる。報酬はお金で魔導書を買った分が返ってきた。
そして、自分が持つ杖を見て使い忘れていたのに気づく。馬だペンリルだで慌ただしかったせいか。
≪プライベートエリアを離脱しました≫
商隊の馬車を見送ると周りにプレイヤーの姿が現れる。やはり、わちゃわちゃと人がいた方が楽しさはあった。
≪運営よりお手紙が届きました≫
今日はシステムメッセージがよく表示される。お手紙というのはメール機能のようなものだろう。
メニューを開いてNewの文字が躍る手紙アイコンを選ぶ。目に入ったのはイベントのお知らせという題名の手紙だった。
◇
【DAO】イベント会場【第一回】
1 名前:名無しの古代人
初めてのイベントだしスレ分けてもええやろ
2 名前:名無しの古代人
あるとは言ってたけど早すぎる
3 名前:名無しの古代人
明日って準備もクソもなくない?
4 名前:名無しの古代人
突っ走ってる人でも熟練度は200程度だろう
5 名前:名無しの古代人
有用なスキルをお披露目したかったが無念
6 名前:名無しの古代人
本当に対人戦がくるとは思わなかった
7 名前:名無しの古代人
闘争はいつの時代も求められている
8 名前:名無しの古代人
集団に分かれて隔離エリアに放り込まれるのか
上位同士が戦っていくのはバトロワのイメージ
9 名前:名無しの古代人
詳細を見るに単純な殴り合いじゃなくない?
死んでも生き返るみたいだし
10 名前:名無しの古代人
各行動にポイントが設定されてる記述があるね
11 名前:名無しの古代人
突発イベントのクリアとか?
12 名前:名無しの古代人
もしモンスターが出るなのなら
討伐でポイント入手は考えられる
13 名前:名無しの古代人
そこらへんは当日発表になりそう
14 名前:名無しの古代人
準備をさせまいという意思を感じるな
15 名前:名無しの古代人
他プレイヤーとの強制的な交流の場にはなるか
16 名前:名無しの古代人
色々なスキルに触れるいい機会だ
17 名前:名無しの古代人
初心者が戦闘狂に絡まれるって引退案件では?
18 名前:名無しの古代人
お前が守るんだよ
19 名前:名無しの古代人
記念参加者が多くて一戦の振るい落とし率は高いはず
気合入れてけ
20 名前:名無しの古代人
闘争だ闘争だ闘争だ!




