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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第三章後半『攻城戦イベント』

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第118話 うるさいやつら

『屋敷の入り口から門だとちょっと距離が不安だなー』


 回復魔法が届くかの問題や、障害物に阻まれる恐れもある。庭園の広さが問題になるものの、隠れられる場所が豊富と考えることもできた。


『魔導書の解放では透明化が解除されないので、危険な場面には自分が対応します』


『かなり便利だねそれ。基本は紅ちゃんが回復ほしいときに下がってもらう形かな』


『そうする』


 とりあえず、回復魔法を魔導書にストックして準備だ。紅さんが門の手前横に身を潜めたのを見て、自分も壁沿いに離れて位置に着いた。


『拠点周辺には三パーティの味方が散らばっていますね』


『わたしたちのギルドからは、ひとパーティが出てる』


『集団できていただけると発見しやすいのですが。ポツポツと小隊に分かれているとカバーが難しいでござるな』


 草むらで隠れて集まるだけでも見逃す要素になる。突然の攻撃にも警戒しなければならなかった。


『近づく四人組がいました。拙者の姿は見られていないでござる。このまま追跡いたします』


『お願いします』


 先に捕捉できるかどうかで形勢は大きく変わる。コヨミさんのおかげで余裕を持てた。


『あたしらもちょっと隠れとく?』


『賛成!』


 レモンさんとカンペさんが屋敷の中に身を潜めた。不意打ちを狙う少しの間、回復を行えるのは自分一人で気合が入る。


『真っすぐ拠点へ向かっているでござる。もう間もなくかと』


 ストックしたばかりの魔導書を確認する。残りは紅さんを見守る簡単な作業と言い聞かせた。


『門の前に行きます。盾持ち大剣持ちが先頭で、その後ろにまた盾持ちとヒーラーでござる』


『了解。ヒーラーをまず倒す』


『お嬢! 戦闘開始の号令頼んだ!』


『分かった。スキル名を言う』


 門に続く壁はこちらからの視界も遮る。さすがに向こうも用心するのか、耳を澄ませても風で木々が揺れる音などしか聞こえない。直前で外への行き来を考慮し近くに移動しておく。


『止まらず門に入るでござるよ』


 コヨミさんの報告後にプレイヤーの姿が現れた。門の陰を覗くような動きで視線が合った気がしたけれど、透明なため勘違いだ。紅さんは姿勢を低く草に紛れるせいか、すぐ横で待機するにもかかわらず発見を遅れさせた。


『サークルスラッシュ』


 存在に気づかれるのと同時に飛び出し大剣が振るわれる。相手の驚く様子も一瞬、対応が早く反撃がきていた。


 盾を持つプレイヤーが二人とはいえ攻撃能力は侮れない。ヒーラーをスキル一発で仕留め切れずも、紅さんは追撃する。回復を信頼されたと集中し、ダメージの割合を一撃ごとに観察。回復魔法をここだというタイミングで放った。


 視線が外れているので、すかさず地面へうつ伏せになり魔導書へ再ストックだ。透明化も行い立ち上がるとコヨミさんが加わり、ヒーラーを調子よく倒した。


 二対三の構図になって早めに回復、次はコネクトヒールの準備を済ませて待つ。ただ、マナポーションの手持ちがゼロで精神力とは要相談だった。


 それを考えてくれてか、紅さんが屋敷を背に少しずつ下がる。実力で言えば十分に押し切れる数の差だと思うが、いつ新手がくるかの心配と常に隣り合わせ。安全第一の作戦だ。


 そして、レモンさんとカンペさんの支援が届くと勝負は決まる。相手も逃げたところで無駄と分かっている戦いぶりを最後まで見せた。


『お、片付いた?』


『不意打ちが申し訳なくなる方々でしたが、後続には注意が必要ですし。早め早めに対処でござるな』


『今度は警戒を高めてきそうですね』


 おそらく門の陰に隠れていたと報告がいくはず。小細工なしのぶつかり合いが始まる。


『屋敷には近づきますが、庭園の中央付近で守り重視に戦いましょう』


『どこかで突っ込みたい。合図頼んだ』


『分かりました』


 とは言ったものの難しい役目だ。タイミングは膠着状態の打破か、押されたときのかく乱か。回復を構えるのは当然として、紅さんたちが存分にスキルを使える状態がベストになる。クールタイムの把握は残念ながらまず無理で、逐一聞くのも邪魔だろう。非常に悩ましかった。


『では、引き続き警戒に行ってくるでござる!』


『自分は下手なりに裏手を見ておきます』


 逆に不意打ちを狙われる可能性もある。最低限の監視はやっておこう。


『ナカのん逃げ切れる?』


『透明化を使えば大丈夫です』


『あ、そっか。完璧に忍べるんだね』


『コヨミさんには石ころの動きでバレましたが』


『ふっふっふ、拙者の目は簡単に欺けませんよ?』


『さすがコヨみん、本職忍者!』


 透明になるが過信は禁物。走らずに移動はゆっくりで違和感を消すが……。


『おっと? 青装備のひとパーティが走ってきました』


 慌てて回れ右で屋敷の前に戻った。やはり、休憩時間はもらえないか。こちらが攻めるのと同様に相手も攻めにくる。均衡を崩す足がかりになれるよう守り切りたい。


「くれないー!」


 門の向こうから叫び声が聞こえてきた。豪快な名指しを受けても、本人は涼しい顔で首を傾げる。


『むむ、もしや……いぶし銀のリーダーが先頭でござるか?』


 あの、と角刈り姿を思い出す程度には印象深い。青陣営を率いる規模のギルドが単独のパーティでくるとは考えにくいが、紅さんにも言えることか。


『門を通り過ぎます』


「どこだ! 勝負しろ!」


「まったくもう、落ち着きなって。パーティチャットを使えば直前まで潜めるのにさ」


「小細工はいらねえ!」


 五人は庭園に入ってなお、立ち止まらず走ってきた。開幕で全力をぶつけてくる勢いに、試してみたい案が浮かんだ。

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