第11話 馬呼びの鈴
【メガヒールの魔法書】
『種類』魔法書
『効果』メガヒールを覚えることができる
回復魔法の必要熟練度:400
『説明』司祭ラディエナは奇跡の巫女から人々を大きく癒す術を授かった
より広く聖職者に理解できるよう解釈を新たに記述された魔法書
カウンターを移ってお布施品を眺める。色々ある中で気になったメガヒールだが回復魔法の熟練度は現在113。まだまだ覚えるには早かった。
状態異常を治す回復魔法なども魅力的に映る。しかし、所持金が問題だった。モンスターをほとんど倒さずにきた弊害だ。
おそらく冒険者ギルドで討伐クエストを受けたり素材を売ったりするのが稼ぐ方法になるはず。キュル助のレベル上げも兼ねて頑張らないと。
お布施ができるカウンターは他にもあり武器や防具があった。気になるのは魔導書だ。魔法書と名前は似ているが杖と同じく武器の一種らしい。
【一骨の魔導書】
『種類』武器
『効果』回復魔法の効果が微上昇
『説明』骨の印が押された魔導書
素材には何者にもなれなかった僧侶の骨が使われているとも
杖は魔力のステータスも上がるが魔導書は回復魔法の効果に限定される。文字だけだと下位互換にしか思えなかった。
杖と魔導書に分けて効果まで違うとなればプラスアルファの何かを期待したい。本の角で殴る攻撃力は単純に高そうだが。
ここで少ない所持金を使うかは悩ましいが特性は知っておくべきだ。スキルもそれぞれ用意されている。回復魔法に便利な方を選んでおきたかった。
「あなたに神のご加護がありますように」
あくまでお布施なのか魔導書を買った後のセリフもこの通り。他のところはどんな扱いか気になってくる。
やることを終えて広間を出る。クエストが途絶えたので、ここから自由に行動しながら見つけていくのだろうか。
「あ! 冒険者さまでしょうか?!」
教会の前でいきなり声をかけられる。プレイヤーではなく商人風のNPCだ。
「商隊がモンスターの群れに囲まれていると連絡があったんです! 助けていただけませんか!」
助けを求めるのなら冒険者ギルドに駆け込むのが一番だと思うが、ツッコミを入れても仕方がない。了承して話を進める。
「早速馬に乗って……!」
どこに馬が、と周りを見ても行き交うプレイヤーしかいなかった。
「もしやご自分の馬をお持ちでないのですか? ではこちらへ急いでください!」
NPCが走っていき何やらクエストが発生する。厩舎へ急げというタイトルだ。この流れはポータル以外の移動手段がもらえるとみえる。
マップを開くとそこそこ近い場所に目印がついていた。先に行ったNPCが先で待ち、近づくとまた走っていく。急いでるわりにとゲーム的な都合を考えたくなるが、かといってタイムアタックの強制も困るので文句はなかった。
しばらくNPCとの追いかけっこを続けて厩舎にたどり着く。とんとん拍子にクエストが進行する間、周りのプレイヤーが馬に乗って行くのを眺める。
そういえば変なペンギンに乗ったプレイヤーもいたなと思い出していると、まさにその謎ペンギンが現れて走り去っていった。馬以外にも選択肢が……?
「この馬呼びの鈴を使えば馬を呼べます!」
≪馬呼びの鈴を入手しました≫
もらったのは予定調和の馬。厩舎にいる数人のNPCに話しかけても購入などは行えない。
「うわ、そのライドって何かのクエスト報酬ですか?」
謎ペンギンを見たプレイヤーが持ち主に向かって話しかけている。直接聞けば解決するのかと素直に感心してしまう。オンラインゲームなんだからコミュニケーションを取るのは簡単なのだが、聞き耳を立てるのが精一杯だった。
「限定版の特典に付いてたペンリルってライド用のモンスターっすね」
ライドと言うのがシステムの名称になるようだ。
「ゲーム内で手に入るのかなぁ」
「煽りはここでしか手に入らないって感じだったっすよ。将来的には分かんないっすけど」
その話を聞いた瞬間にログアウトを決心する。襲われている商人には悪いが後回しだ。
現実に戻ってゲーム機を外す。スマホで検索すると公式や各種販売サイトでは限定版と名の付いたパッケージは売り切れていた。
個人が出品するサイトもあるのだろうが割高で買うのは気乗りしない。二台目のゲーム機を買おうとする時点で無駄遣いなんだけれど。
諦めきれずにサイトを見回っていると在庫数が残り一つに変化する。突然のことで驚く前に購入ボタンを押すもエラーが出た。画面が切り替わって在庫数がゼロに逆戻りで肩を落とす。
サイト側の誤操作でなければキャンセルが出た処理と考えられる。だとしたら購入しようとしていた人が他にもいたのか。
在庫が戻るかどうかすら分からないのに、先で待っているのが購入競争とは。長い勝負になると覚悟し、別のサイトを覗くと在庫数が一つで慌てて購入ボタンを押す。
「ん?」
画面が変わってまたエラーかと思ったが支払いに進む。そのまま購入が成功して次は肩透かしだ。たまたま同じタイミングで購入したのが一人いただけで、競争にまではなっていなかった?
ともあれホッとする。ペンリルと呼ばれる謎ペンギンが手に入る楽しみが増え、ゲームへの意欲が高まった。




