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社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。  作者: 七渕ハチ
第三章前半『おじメダル配布作戦』

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第103話 カメカメ

 水中を出た後、徐々に光る貝玉の欠片へひびが入り始めて砕け散る。常に持ち歩いて強い光源を得ることはできなかった。


 急に照明具の灯りに戻ると物足りなさを感じる。遺跡の通路が一気に暗くなりホラー要素が高まった。人の骨が転がるうえ、歩くと僅かに舞う埃など演出が細かい。


「通路は直線で分かれ道もないでござるな。素直に正面からくるか、ドッキリ系でくるか。要警戒です」


 コヨミさんの言葉に背筋が伸びた。


「キュル!」


 念のためキュル助を呼び出しておき、いつでも透明になれるよう備える。


 先へ進みながら度々振り向いては後ろを確認し、モンスターの気配を探す。シンと静かな空間で足音が反響した。


 必死で泳ぐよりかは多少の余裕が生まれて周囲を観察する。壁画はヘビ人間の他、ドラゴンが目立ち三角形のシンボルが描かれる。棺も多く黒装束の人間が跪いていた。


 この場所で現れるモンスターのヒントになっている可能性はある。ドラゴンは手強いイメージが湧くので容赦願いたい。


「足元が崩れているでござる。お気をつけを」


「真っ暗ですね」


 一切の光が吸いこまれる闇だ。人が通れる程度の広さで、落ちたらひとたまりもないのは明らか。必要以上に避けて注意する。


「次は壁に穴でござるか。別の通路につながっていたりは……!」


「シャーッ!」


 コヨミさんが斜め後ろに転がると同時に、大きなヘビの頭が穴から飛び出した。


「大丈夫ですか!」


「むむ、平気でござる。完全には外へ出てこれないのでしょう」


 露出するヘビの長さは壁幅と同じ二メートル前後。緑色のウロコは毒々しく、赤い目と舌に威圧される。


「ヘビは熱の感知能力を持つと言います。透明状態でも通り抜けるのには危険があるやもしれません」


 モンスターの行動を現実的な生態で予測する発想はなかった。コヨミさんなら、お構いなしに壁や天井を走って無視できるのだろうか。


「それに、ヘビを残すのも考えものです。この先で強敵や罠が立ち塞がったときに後方へ引く場合も想定し、倒すべきかと」


「分かりました」


 確かに退路は大事だ。まずは回復魔法をストックして準備を行う。


「上下左右に動くのは少々厄介でござるな。ナカノ殿、ターゲットを一度取っていただけませんか?」


「自分が、ですか?」


「距離を開けていれば大丈夫でござる!」


 ヘビはゆらゆらと方向構わず揺れている。いつも通りに支援へ回ろうとしたが、先制攻撃は初めてだ。戸惑いはすぐに引っ込み、任せてもらえる役割が増えたとやる気が出た。


 ダメージは最低限でいい。足元に落ちるガイコツ、はやめて剥がれた壁画の破片を拾う。


「シュルルル……」


 ヘビに狙いを定める。目標は大きく距離も近い。投げることに関しては自信がついてきた。VRの野球ゲームを遊ぶなら、ピッチャーに挑戦したいぐらいだ。


「いきます」


「お願いします!」


 軽く肩を回し、勢いよく投げる。


「シューッ!」


 正確に頭部へ命中すると視線が自分に固定される。横に動くと相手も追って向きを変えた。ヘビに睨まれたカエル状態でジッと立ち尽くす方が、きっと邪魔にならない。


「では拙者も……!」


 コヨミさんが姿勢を低く、死角に回り込んで飛ぶ。


「シャーッ!」


 そして、短剣がヘビの目に突き刺さった。攻撃に対し、縦横無尽に暴れ出す間にも斬りつけは続く。距離を見極めるのが本当に上手い。


「おや、意外とあっさりでござるな」


 ヘビは最後に天井へ頭をぶつけて倒れ、ぐったりしたまま穴の中へ引きずられるように消えていった。



≪キュル助のレベルが上昇しました≫

≪キュル助は新しいスキルを覚えました≫


『レベル』 5

『体 力』95/95

『精神力』70/70

『スキル』カモフラージュ

     NEW アイアンクラッドタートル



「ふむ? アイテムのドロップもありませんし、罠の要素を含んだモンスターでしょうか。穴の奥は暗闇で進入は無理でござるな」


「キュル助のレベルが上がったので経験値はもらえたみたいです。新しいスキルも覚えて……?」


「おお! 試しに使えるものでござるか?」


「やってみます」


「キュル?」


 まったく予期していなかったが嬉しい収穫だ。噛まないよう名称を三度ほど読み、指示を出す。


「キュル助、アイアンクラッドタートル」


「キュルル!」


 身体の周りにエフェクトが浮かんでスキルが発動したと分かる。模様はカメの甲羅だ。キュル助の背中は見た目以外に、ちゃんと意味があったらしい。


「拙者のほうも効果を得られましたね」


 エフェクトはすでに消えたがキュル助にもエフェクトが浮かんでいた。一定の範囲内に効果を及ぼすのか。


「おそらく防御系のスキルでござる。早速、確かめましょう!」


 甲羅のイメージは盾に近い。正しく確かめるには……。


 走るコヨミさんを追って先へ行く。再び通路の壁に穴を見つけたが、そこにはヘビが現れず、次の天井に開いた穴から顔を出した。


「シャーッ!」


 コヨミさんは大胆にもいきなり飛びつくと攻撃を仕掛ける。短剣が命中すると同時にヘビの体当たりがカウンター気味に入り、後ろへ弾かれた。


「ふむ、ダメージは僅かでござるな」


 着地後、慌てて回復に動くが体力ゲージは満タンに近い。


「防御力を高めるというよりも、軽減になるのでしょう。鈍く割れる音が聞こえましたし、一度限りでござるな。それ故に効果が大きく設定されているのかと」


「なるほど……」


 クールタイムや精神力の消費があるため、普段使いではなくピンポイントで活用するのが良さそうだ。なんにせよ支援に役立つスキルだった。


 その後は自分がターゲットを取る方法でヘビを倒しながら通路を進むと、前方に光が見えてくる。


「さあ、今度は何が出てくるのでござろうか」


 そろそろ宝箱が置かれているのでは、と期待するのは甘い考えか。

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