僕はきみが好きだから、きみも僕を好きだろう
僕はきみが好きだ。
だからいつも、きみを見守ってる。
きみのやさしい目が好きで、すきとおる声も好きだ。
甘い匂いも、ふわふわの髪も、何もかにも大好きだ。
だからきみも、きっと僕を大好きなはずだ。
なのに。
ぽっと出のあいつがきみを奪った。
あんな男、僕よりちょっと背が高いだけなのに。
きみは寝ても覚めても、あいつの話ばかりするようになった。
きっと騙されているにちがいない。
そうだ、もしかしたら新興宗教ってやつかも。
きみはあいつに洗脳されたんだ。
──そうに、決まってる。
きみが急に、二階の自室に引きこもったのも、絶対あいつのせいだ。
たまに降りてきても、なにかに怯えるような目でひとことも喋らず、ぼさぼさの髪からはいやな匂いがした。
あいつだ。あいつが、きみをおかしくしたんだ。
なんとかしたくて僕は、きみがいない隙に部屋に忍び込んだ。ベッドの下に、潜り込んだ。
「──なあ、俺が悪かった。許してくれ」
いつの間にか眠っていた僕は、あいつの声で目がさめた。最低最悪の寝覚めだ。
「もう、おまえの嫌がることはしないよ」
「本当……?」
きみの声は、嬉しそうだった。
「ああ。だから最後に一度だけ」
「うん」
「──教祖様との“儀式”で、巫女になってほしい」
「え……」
きみの声は、絶望していた。
「それで俺は幹部になれる。おまえは俺専属の巫女にしてやるから、もう教祖様のお相手はしなくていい」
「い……や……」
「たかが一回だけだ。どうせ、もう何度も」
そこで僕は耐えられず、ベッドの下から飛び出した。
驚くあいつに飛びかかり、顔に思いきり爪を立てた。なるべく目を狙った。鼻に噛みついたところで、あいつの反撃で僕は壁に叩きつけられた。
体が、動かない。
あいつが近づいて、さらに蹴ろうとした。
「やめて!」
その足に、きみがしがみついていた。
「ああクソっ! もういい、代わりはいくらでもいる!」
最低な捨て台詞を残して男は出ていった。
その後すぐに階段を転げ落ちるような派手な音が聞こえて、静かになった。きっと目を狙ったのが効いたんだろう。
「私を守ってくれたの? ミイちゃん」
きみは涙をためて声を震わせ、僕を抱きあげた。
「そうさ、きみが大好きだからね」
答えたかったけど、僕には「ニャア」と鳴くことしかできない。
「ありがとう、大好き」
──ちゃんと、通じた。
僕は、きみが大好きだ。
きみも僕のことが大好きだ。
好きの意味は、ぜんぜん違うのかもしれない。
でもそんなのは些細なことさ。
これからも僕は、ずうっときみを見守るよ。