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聖火  作者: 青山喜太


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第七十七話 甲板にて

 見慣れない緑色の肌、人よりも大きな身長、思わずこの談話室を埋め尽くしてしまうのではないかと錯覚してしまう様なその体躯にネクス達は身構える。


 それに加えてその緑肌の男は所謂オークだ。

 野蛮で暴力的なイメージのあるその種族に対しての一瞬の警戒をネクス達は抱いてしまったのだ。


 だが、第13騎士団とオークという二つのキーワードで思い出す。


「レーデンス・ゲクラン……団長」


 ミケッシュが先に脳からその名を絞り出す


 そうこのオークの男こそ第13騎士団現団長、レーデンスだ。

 4年前の戦争のワイルド・ハンド作戦の参加者でもある。


 前任の貴族の団長とは違い冒険者上がりの遍歴の騎士ではあるもののその実力から他の団長を黙らせている実力者だ。


「あ、あの光栄です……!」


 思わず礼をするリリベルにレーデンスは笑った。


「これはどうもご丁寧に、ドンキホーテから手紙で聞き及んでいる。いい生徒さんだなドンキホーテ」


「だろ? 俺には勿体ないぐらいだ」


「確かにな」


 軽口をいうレーデンスに、「なんだと!」と半笑いで言い返すドンキホーテ。

 その様子を見てアーシェはおずおずと聞く。


「あのドンキホーテ先生……もしかしてレーデンスさんとも……」


「戦友ですよ、アーシェさん」


 当然といえば当然だが、その事実にやはりアーシェは驚いてしまう。

 ドンキホーテの経歴は所謂、遍歴騎士、冒険者が国家資格をとり騎士になった者としか知らなかった。


 故にそのギャップは凄まじい。

 すると驚愕に包まれる一同を前にレーデンスが話し始める。


「では、全員が目覚めたところで、話を始めようか、改めて情報を共有する意味でも」


 レーデンスとゼミルは談話室の空いたソファに座った。

 それに続きドンキホーテ達とネクス達、全員がそれぞれ席に着き聞く姿勢ができたところ、レーデンスは再び口を開く。


「さて大体の事情はレヴァンス殿から聞いた、それで……その本当なのか?」


 レーデンスの質問にドンキホーテは頷く。


「ああ……ていうかセンセはどこまで話したんだ?」


 ドンキホーテはレヴァンスを見つめた。


「転移魔法に巻き込まれ……そしてそのままテロリストが起こした火災に巻き込まれた……それだけだ」


 その返答から察するにレヴァンスは核心的なことは話していないらしい。

 ドンキホーテはレヴァンスに目で訴えかける、「全てを話そう」と。


「……いいのか?」


 レヴァンスの懸念は最もだ、まだ敵の全容なども見えていない、味方もどこまで信用していいのかわからない。


 だが、ドンキホーテは伝える。


「大丈夫だ、センセ。みんなも安心して欲しいここにいる奴は信頼できる」


 その言葉にネクス達は頷き、レヴァンスは未だ抵抗はありつつも「仕方ない」と目を伏せる。


 それを「お前に任せる」という意思だと受け取ったドンキホーテは話し始めた、全てのことを。


 ─────────────


「魔王の生まれ変わり!? こ、この子が?」


 ドンキホーテの言葉にレーデンスは驚きを隠せない、しかし隣いた緑髪のドワーフのミゼルはため息をついた、まるで合点がいったと言いたげなそのため息に、ぼやきが続く。


「通りで、ドンキホーテがあんな怪我負うようなテロリストが都合よくあの街にいたわけだ……」


 ミゼルのその言葉にレーデンスも納得したのか、額に手を当てて目を伏せてしまう。


 荒唐無稽で信じられない話、だがミゼルの言葉の言う通り、ドンキホーテをよく知るレーデンスにとっては、ドンキホーテを追い詰めることができる人間など限られている。


 故に、説得力があり、信じざるを得ない。

 そもそもドンキホーテが嘘をつくことはないと、レーデンス自身が感じていた。


「……なかなかに飲み込めんがわかった……これはおそらく国の危機だ、できる範囲で我々も手を貸す」


 レーデンスのその発言にネクス達は安堵した、第13騎士団が力を貸してくれるのならば心強い。


「それで、ドンキホーテ……わかっていると思うが、《《彼ら》》にも連絡をするぞ」


「ああ、わかってるありがとうな、レーデンス」


 彼ら、という単語にミケッシュは疑問を浮べる。


「先生? 彼らって?」


 ミケッシュの質問にドンキホーテは微笑んで答えた。


「こういう件の専門家さ」


 ─────────────


 飛行戦艦ハイヴェントゥス甲板。

 楕円形の船体、そして周囲に取り付けられた鳥の翼を模した二対の主翼囲まれたその甲板でネクスは空を見ていた。


 もう空は夜が明けていて、あんな騒動が起こったとは思えないほどの清々しい、青色がネクスの目に映っていた。


 本当に終わった、のだろうか。

 レーデンスは少なくとも当初の目的地であるポウセ国に連れて行ってくれると約束してくれた。


「いい風……」


 ここまで順調だと不安にすらなるが、今はその不安を忘れ休むことが大事だとネクスは自分に言い聞かせる。


 だがどこか、拭いきれぬ不安をネクスは抱えていた。


「よう」


 そんな不安を見透かしてか、いつのまにか背後にいたドンキホーテが声をかけてくる。


「今、レーデンスとの対策会議が終わった所だ」


「そう、お疲れ様、先生」


 ドンキホーテのもたらした情報、それはあのジャンとか言う魔王候補がネクスの位置を感じ取れると言うことだった。


 つまりこうしている間にも、いつあの男が襲ってくるかわからない、と言うことだ。


 だからこそドンキホーテやレヴァンス達はこの空中で戦うことも視野に入れ先程まで話し合っていた。


 全ては生徒達を守るために。


「奴は来ると思う? 先生?」


「どうだろうな? ここで仕掛けるとしたらあいつの方がかなり分が悪い……そこまでのバカじゃないといいんだが」


 そう言って笑うドンキホーテ、心配と言う感情はないのだろうかとネクスは不思議に思った。


 だが今はそんな彼のおおらかさが少しだけネクスの気を紛らわせる。


「不安か?」


 ネクスの心臓がどきりと跳ねる。自分の想いを見透かすかのようなドンキホーテの言葉、そこまで顔に出ていただろうかとネクスは自分の顔を思わず触る。


「大丈夫だ、今度は先生、情けない所見せねぇからさ」


「情けないなんて思ったことない」


「ほんとか?」


「……うそ、ちょっとだけ思ってる」


 そういうとドンキホーテはまた笑う、つられてネクスも口を綻ばせた。


「いい風ね」


 ネクスがそういうとドンキホーテは空を見つめて「そうだな」と呟く。


「クレイスが好きそうな空だ」


 ポツリとそう溢れたドンキホーテの呟き、その呟きでネクスは思い出す。

 ドンキホーテとの約束を。


「そういえば、兄さんと先生の話、私、聞きたい」


 するとドンキホーテはネクスの方に顔を向ける。


「そうだな……そういう約束だったもんな」


 ドンキホーテはポツポツと喋り始めた。

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