第七十四話 逃走
「あ、が?!」
ジャンが目を覚ますと空が広がっていた。
夕焼けを通り過ぎ、宵闇が塗りたくられた空だ。
なんだ、とジャンの頭に疑問が襲いかかる。
(なんだ、何分意識を失ってた……? 奴は……俺はどうなった?)
沸き立つ疑問に答えが出ないまま、ジャンの耳に氷のような声が響く。
「おはよう」
「いや、こんばんはかな?」などと、半笑いで顔を覗かせたのはあの男だった。
「テメェ……!」
騎士ドンキホーテ、ジャンはこの男の名前すら知らなかったがすでに親の仇よりも憎い。
だと言うのになぜか自らの四肢に力が入らないことが癪に触る。
「こ、ころ、してやる……」
精一杯の抵抗だったが、なぜか声が出にくい
不思議に思ったジャンは、ようやく気づいた。
両腕、両足がない。
「う、うあ……あ」
どうりで、四肢に力が入らないはずだ、おそらく声が出にくいのも失血による疲弊のせいだろう。
「テメェに聞きたいことがある」
ポタリとドンキホーテの血が額から顎そして地面に落ちる。
「……な、なんだ……」
一瞬の沈黙。
そして、ジャンの脳裏に本能が囁く、やるなら今だ……と。
「レッド──!」
ジャンが代償魔法を発動させようとしたその時だ。
──ガァ!
破砕音が鳴り響く。
「ごはぁ!!」
ドンキホーテの拳がジャンの腹部を地面ごと破壊していた。たまらずジャンは身体中の息と血を吐き出す。
「聞きたいことがある、わかるな? 俺は今から質問をするんだ、テメェは答える以外の行動はできないと思え」
無茶苦茶だ、ジャンは心の中で呟いた。
詠唱が成立しなかった魔法が魔法になれず無駄な魔力となって宙に舞っていくのを感じジャンは再び息と血を吐く。
「お前は魔王か?」
四肢に力が入らないおそらく先ほどの腹部への打撃のせいで内臓がやられたその内臓の再生を優先して四肢の方に再生が追いついていない。
「もう一度聞く、お前は魔王か?」
ここは素直に従うしかない、ジャンは頷く。
「そうか、予想通りだな、だが言質は取れた」
しかし、とドンキホーテは呟く。
右手に未だ握りしめているロングソードをジャンに突きつけ、言う。
「どうやって俺たちを知った」
その質問にジャンは口籠る。それは自分の自分達に取って重要すぎる情報だ。
話してしまえば、アドバンテージを失うのではないかと一抹の不安がジャンを襲う。
「どうした、早く言えそれともいえねぇのか」
今は機会を待つべきだ、逃げる機会を。
その為にも一旦はドンキホーテを懐柔しなければいけない。
それにもしここで、これ以上情報源がないと思われればドンキホーテに消されてしまうのではないか、そんな考えがよぎったジャンは、重々しく口を開いた。
「……お……俺の魔王としての力だ」
「ほう?」
ドンキホーテは興味深そうに傾聴する。
「俺は……この世の全ての生命を感知することができる、魔王の耳の能力を保有している──」
「──だから、その……お、応用だよネクスを見つけたのは……俺と同じような生命の波長を持つ人間を見つけた、それがたまたまお前達だったってだけだ」
息も絶え絶えになり、飛びそうな意識を繋ぎ止めつつ喋り終えたジャンを前に、ドンキホーテはただ見下す。
「そうか、嘘はついてねぇみてぇだな……まあ、つけねぇけどな」
するとドンキホーテは瓶を取り出す。ラベルには『自白剤』と簡素に書かれていた。
「く、そが」
おそらく、すでに打たれていたのだろう、それも目覚める瞬間には作用していたに違いない。
「お前の場合、身体的に重要な部位から再生をしていく不死者だ、そう言う奴は毒の分解なんかを体の再生よりも後回しにする傾向がある」
「お前もおなじようだ」そう言いドンキホーテは笑った。
何も面白いことなどない、この男に何もかも手のひらで遊ばれているとジャンは憤る。
だが同時にジャンは理解した、この男には明確な悪意などない、あるのは敵に対する敵意と殺意そしていかに効果的に破壊できるのか、それのみをドンキホーテと言う男は考えている。
まずい、早く逃げなければ。
ジャンは悟ってしまったこの男には自分を滅ばせるだけの武器がある。
恐怖がジャンを支配しつつあるその時だった。
──ブロロロ……。
けたたましいエンジン音が遠くから響き渡ってきた。
「チッ!」
その音がなんの音なのかドンキホーテは瞬時に理解した。
その音の主は空の闇から現れた。
「戦闘機……!!」
ドンキホーテの耳は聞きなれたこの忌々しい音の正体を捉えた。
戦闘機、筒のような胴体に2枚の固定された主羽と3枚の尾翼、前面のプロペラで飛ぶそれは、4年前の戦争で猛威を振るった空を飛ぶ鉄の鳥。
人の乗るそれは悪意と殺意も乗せて飛ぶ。
それを示すかのように上空の戦闘機も殺意を掻き鳴らした。
機関銃だ。
「くそっ!」
咄嗟にドンキホーテは無防備を晒しているネクス達4人を守るべく走る。
結果的に、機関銃はネクス達を襲わなかった。
この時初めてドンキホーテは戦闘機の操舵手の目的がわかった。
ただの威嚇射撃、ドンキホーテを動かすためだけの。
完全に心理的な焦りを突かれたドンキホーテはすぐさま上空の戦闘機を見る。
「ッ!」
その戦闘機の操舵手には見覚えがあった、いや忘れるはずがない。
自爆した筈の男がその鉄の鳥に乗っていた。
「フォーン……!!」
フォーンの操る戦闘機は、いつのまにか縄梯子を垂らし、できうる限りの低空を維持していた。
「させる……か……」
だが、ドンキホーテも追撃できるような余力は残っていない。
思わず、膝をついたドンキホーテを横目にジャンは戦闘機の縄梯子を掴み取り、上空に飛び立った。
「クソ騎士!! いつかこの仮は返してやる!!」
そんな捨て台詞を残して。
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