第六十七話 魔王登場
城壁の上で起こる赤と青の爆発、それが木々のように立ち並ぶ木造の民家を照らす。
レヴァンスは思う。
(衛兵は何を──)
考えても仕方ない、城壁の上の見張りなどはもうやられているに違いないのだ。
そしてざわめき出した、街の人々を横目にレヴァンスは歯を噛み締める。
対応が遅い、全ての対応が。
いやおそらく、敵の方が何枚も上手なのだ少なくともここの衛兵は混乱している。
現に、ドンキホーテを狙い放たれた魔弾による民家の火災の方に人だかりができている。きっとそこに衛兵達もいるに違いない。
無論、城壁の異変にも人々は気がついている筈だが、肝心の衛兵達がどちらを対応したらいいのか決めあぐねているのだ。
「ドンキホーテ……!!」
レヴァンスが、そう呟いた時だった。
火の線が空を走る。
爆発がレヴァンスの頭上、正確には盾にしている民家で起こった。
「きゃあ!」
近くにいたアーシェが悲鳴を上げる。
民家に魔弾が着弾したのだ。
しかも、今度はただの爆発ではない火炎の伴う、炎の魔法が込められた弾丸だ。
「馬鹿な……居住地を破壊するための魔弾だぞ……軍用の筈だ!」
ありえない、あまりにも敵の装備が整いすぎている。
しかしだからこそレヴァンスは理解した。この弾がここに着弾したのは偶然ではない。
答え合わせかのように、次々と火の線が城壁の上から降り注ぐ。
炎の柱があちこちで上がった。
「チッ! 衛兵を火事で分散させる気か!!」
この炎の魔弾はおそらく衛兵達の注意を反らせるため、明らかにドンキホーテとの戦いに水を差されないために敵は攻撃している。
この判断、あまりにも相手が闘い慣れている、敵は予想以上に驚異的だ。
「レヴァンス先生……! このままじゃあ」
そのことにアーシェも気づいたのだろう、焦りを顔に滲ませている。
「私はネクスちゃん達を連れていきます……! レヴァンス先生はドンキホーテ先生のところへ!」
アーシェのその提案にネクスは異議を唱える。
「そんなまた守られるだけなんて……私も先生と戦う!」
レヴァンスは頭を回転させる、この状況どうするべきか、アーシェの言う通り、皆を避難させ自分だけ加勢に行くべきか、ネクスの願い通りドンキホーテの元へ行き全員で相手すべきか。
決まる、自分の判断で、この先の結末が。
赤く燃える炎が、一瞬、見覚えのある景色に変わる。
あの丘の光景だ、あの時の戦争の時の、忌々しい光景だ。
(また私は選ぶのか……)
「……先生?」
アーシェの問いかけにより現実に引き戻されたレヴァンスは意を決して言う。
「生徒達の安全が第一です、敵は城壁のやつだけとは限らない、私もここは守りに入る」
その言葉と共にレヴァンスはネクスを無理やり抱えた。
「ちょっと先生! ドンキホーテ先生はどうするの!?」
「ドンキホーテよりも君たちだ! リリベル君! ミケッシュ君! 私についてこい! アーシェさんもいいですね!」
「はい!」とアーシェは頷いた。
そうと決まれば行動あるのみだ、暴れるネクスを押さえつけながら、反対側にいるリリベル達に指示を出したレヴァンスは走り出す。
どこに行けば安全か、考えた結果、ひとまずは衛兵の屯所に目指すことにレヴァンスは決めた。
街に放たれた火の勢いが大きくなる中、レヴァンスは走り続ける。
なるべく脅威から皆を遠ざけるために。
「見つけたぜぇ……!!」
だがその時だった、頭上から声が響く。
レヴァンスは声のした方向を見上げる。
彼の瞳が立ち並ぶ、民家の屋根の上の二つの人影を捉えた。
一つは大柄で屈強な肉体をもつ影と、一般的な背丈のせいぜい痩せ型の影。
どちらも男のように思える。
そしてその二つの影は何の躊躇いもなく、そこから飛び降りた。
舗装されていた地面が割れる、そして炎の光によって影が照らされついにその二人組は姿を現した。
1人は何の変哲もない青年だった、筋肉隆々ということもなければ、何か知的な雰囲気を感じさせるような特徴もない。
まさしくただの一般の平民といった茶髪の青年だ。
だがその彼に付き従うかのようにそばにいる男は明らかにただの人間ではない。
その男は上半身に何もつけておらず、そのおかげかその常軌を逸している筋肉がありありとレヴァンスたちの目の前に曝け出していた。
隆起している筋肉はどれも自らが最大まで成長し成熟していることをアピールし、それそのものがまるで凶器だ。
何も持っていないはずのその男から大剣の切先を向けられているかのような錯覚に囚われながらもレヴァンスは毅然とした態度で問う。
「貴様ら、何者だ」
すると青年が答えた。
「へへ、まだわかんない?」
ニヤリと笑った下卑た笑みにレヴァンス達は嫌悪感を覚える。
「魔王だよ、魔王」
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