第六十五話 カリソメ
「二ヶ月前に戦争は開戦したばかりだぞ」
スキンヘッドの男が何を言っているかわからなかった。
戦争は終わった。四年も前にだ。
それこの男は何を言っている。
言っていることも怪しい、サーバトーン平原はコールランド王国には存在しない。
サーバトーン平原はソール国の西に広がる平原だ。
「何を……」
その時、決定的な違和感にドンキホーテは気がつく。
なぜここまで正式の軍のような整った装備を持っているのだとか。
なぜネクスの場所を察知し襲ってこれたのか。
その二つに比べれば、大きな違和感ではなかったが、しかし今も存在している、小さくそして異様な一つの違和感。
なぜ──。
「なんで、そんなに落ち着いているんだ隊長さん?」
ドンキホーテの視線は白髪の隊長らしき男に投げかけられる。
隊長、のはずだ服装からして鉄砲隊のメンバーと似通ったような、そして若干だが華美な服を着ている。
まさしくまるで軍服のような、それでいて特別な階級であることを示すかのような短いマント。
間違いない、情に溢れているのこの部隊で唯一鉄仮面を貫いている男。
それがこの隊長らしき男だ。
否、鉄仮面なのではない。
鉄仮面というとまるで感情を努力して押し殺しているよな表現だ。
この男から感じるこの感覚をドンキホーテはようやく素朴な言葉で言語化できた。
(無関心……?)
あり得ない。
隊長と思しき男からは何の感情も感じなかった、部下に対する心配も、この状況に対する焦りも。
空っぽだ、この白髪の男は。
その時だった隊長らしき男が、懐に手を伸ばしたのは。
何をしている武器を捨てろ、思わずそんな言葉がドンキホーテの口からついて出そうだったが、無駄だ。
敵はすでに次の攻撃を放とうとしている、止めることなどできない。
そんな直感と共にドンキホーテは組み付いていた茶髪の男から離れようとした。
ドンキホーテが半歩下がった瞬間、純粋な破壊と熱の前兆をドンキホーテは感じ取る。
遅かった。
(防御力を最大強化──!)
ドンキホーテの思考が瞬時に危険信号を発し身体中に闘気をめぐらせる。
茶髪の男のジェカルが爆発した。
爆発は青と白の騎士を巻き込み城壁を揺らす。
赤の爆炎が城壁を彩り、そして天を焦がした。
漆黒の煙が立ち上り、物語る。
鉄砲隊のジェカルは死んだのだと。
瞬く間に、部隊の中で動揺が走る、部隊員たちはざわつきそして目の前の事実を肯定しようと脳を回転させるが心がそれを否定した。
ジェカルは意図的に爆破させられた。
その事実に誰もが恐怖を抱いていた、そして当然そんなことができる人間……そんな権限がある人間は誰か。
隊長しかいないだろう。
スキンヘッドの男は白髪の隊長の方へと振り返る。
「隊長! どういうことです! なんでジェカルは……!!」
「爆弾を起動させただけだ、体内のな」
隊長はあっさりと答えた、だが冗談ではないそれは部隊の結束を信頼を、何よりも絆を裏切る行為だ。
あまりの絶望にスキンヘッドの部隊員は憤りを覚え引き金に指をかける。
「隊長!! なんでだ! 俺たち約束したろ! 一緒に……! 欠けることなく……故郷に帰ろうって!」
しかし銃口を突きつけられた隊長の瞳に動揺の色は見て取れない。
まるで人形のような顔で自身の部下を見つめている。
無関心、そして虚無が隊長の瞳に映っていた。
「答えてくれ! 隊長! 俺たちは……! あんたにとって──!」
「──もういいぞ」
言葉が遮られる。ただ無機質に、そして読み飽きた本を閉じるように。
「なにいって……?」
「もう……人格を模倣する必要はない」
男は隊長の言っている意味がわからなかった。
「これからは自動から手動に切り替える」
だが、この隊長の言葉でやっと男は理解した。ああ、そうだった。
塹壕掘りも、銃声も、殺し合いも、戦争も終わった。
続いているのはただ苦しみだけ。そうだ、すべきことを思い出さなければ。
「そうだったな、隊長。人格に呑まれかけてしまった」
肉が泡立つ、スキンヘッドの男の顔が崩れて沸き立ちそして白髪が生える。
いつのまにか、男は白髪の隊長に瓜二つの顔になっていた。
スキンヘッドの男だけではない。
周りの部下たち全員の顔が変わる。
一瞬で肉が泡立ちそして全員、同じ貌へと変化した。
白髪の隊長の貌へと。
「それが貴様の正体ってわけか?」
その時だった、爆煙が突如として晴れる。
明らかに自然ではなく、人為的に起こされた鋭い突風、それによって煙と炎は四散した。
そして、かつて煙と炎があった場所の中心には三日月のように口角を吊り上げた男が立っていた。
ドンキホーテだ。
彼の無事な姿を見て白髪の隊長はため息をつく。
「なるほど、肉の体に仕込んだ分、爆発が弱まったか……」
すると白髪の隊長をフォローするかのように白髪の隊長が言う。
「しかし、オートで多少なりともダメージを与えられたのは大きい」
その白髪の隊長の言葉に白髪の隊長が頷く。
「未だ私たちの方にアドバンテージはある」
異様すぎるその光景に呆れつつドンキホーテは改めて問うた。
「結局、アンタ何者なんだよ」
白髪を揺らしながら隊長達は、ライフルの銃口を目の前の青と白の騎士に向け、そしてただ呟くように言った。
「フォーン・ニール。魔王に希望を見出したただの敗残兵だ」
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