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聖火  作者: 青山喜太


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第五十六話 パーティ

「お気に召してくれたかな?」


 得体の知れない、滑りある恐怖がドンキホーテとミケッシュの心にへばりついていた時だった。


 不意に聞きなれない男の声が後ろから響いた。


 すぐさまドンキホーテは腰のホルスターからリボルバーを取り出し声の発生源に向ける。


「おお、怖い怖い」


「……お前……!」


 ドンキホーテが照準を向けた先、そこにいたのは黒づくめの男だ。

 ミケッシュも恐る恐る振り返り男の容貌を目視する。


 黒い肌、黒い紳士服、そして全てを見透かすような黒の瞳。

 そんな男は瞳の色と同じ、こめかみにかかるぐらいの黒の髪を靡かせ、悠々と歩き始めた。


「おいおいおい、動くなよ」


 ガチリ、とドンキホーテが銃の撃鉄を起こすこれでいつでも発泡が可能だ。

 しかし、そんな威嚇行為にも目の前の男は動じない。


 男はそのままその威嚇を無視し、ドンキホーテに照準を向けられたまま、近くにあった椅子に座る。


「まあ、そんなおっかないもの向けないでよ。僕は君たちを労ってやったんだぜ? ほらそのケーキの文字だって僕が書いたんだ、大変だったんだよ? 特に最後の方なんかスペースがなくてギチギチに──」


 ドン、と小屋の空気が震える。同時に硝煙の匂いが小屋の中に充満し、シックな木造の家に赤の差し色が加えられた。


 ドンキホーテが男に向かって発泡したのだ。


「先生!?」


 ミケッシュは驚きを隠せなかった、自分の教師が何の躊躇いもなく人を殺した、その事実がすぐには飲み込めない。


 だが同時にこの男はそんな判断をするほどの脅威なのだとミケッシュは理解する。


 だからだろうか、ミケッシュは安堵の気持ちを胸に抱いていた。

 もちろん恐怖もある、人が死んだそのことに対する恐怖だ。


 だがそんな恐怖を覆す目の前の男から醸し出される異常性、無意識に感じていた威圧感、それから解放されたことによってミケッシュは安堵したのだ。


 おかしな話である、人が死に血が飛び散ったと言うのに、まるで害虫が退治されたかのような感覚にミケッシュは陥ったのである。


「せ、先生……なんで、この人を……」


「ちょっと! なんか銃声したんだけど……」


 ドンキホーテに事情を聞く前に、毛布を探しに別の部屋を見にいっていたネクスが慌てて、戻ってくる。


 そしてこの惨状を目の前にして、思わずネクスも息を呑んだ。


「なに……これ……!」


 ネクスが思わず呟く。渦巻く疑問と困惑それを解消するかのようにドンキホーテはため息をつく。


「チッ……下手な芝居はやめたらどうだ」


 ドアが軋み、悲鳴を上げる。するとドアの向こうからやってきたのはドンキホーテに打たれた男と瓜二つの人物。


「え……?」


 何故だろうか、ミケッシュは直感でわかってしまった。目の前に新たに現れた男は撃たれた男の双子の兄弟でも、ドッペルゲンガーといった姿形が違うだけの赤の他人ではない。


 この男は撃たれた男と《《同一人物》》なのだと。


「ど、どいうこと……」


 それはネクスもミケッシュと不思議と同じ感想を抱き、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「うわ……めっちゃ綺麗に頭撃ち抜いてんじゃん……すごいね、メダルもらえるぜ」


 そんな驚く二人を他所に黒髪の男は黒髪の男の死体を批評する。


「ああ、死に顔がちょい間抜けだなぁ、まあいいか。結構エキサイティングで面白かったし」


「俺はこれで機嫌が悪くなると思ったんだがな」


 唯一ドンキホーテだけは冷静に新たに現れた黒髪の男に銃口を向けている。


「やだなぁ、僕がそんなことで、機嫌悪くなるわけないだろ? 何たって僕は──」


 黒髪の男は口角を目に届かんばかりに引き攣らせ言った。


「混沌の神様なんだからさ」

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