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聖火  作者: 青山喜太


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第五十一話  騎士の先生④

 雨が降る、涼しくそして冷たいその雨が男の頬を伝い地面に落ちた。


「はぁ、とりあえずお茶でもどうかな。ネクス、先生もう疲れちゃってさぁ」


 光が走り大地が割れる。

 ネクスが振るった剣が斬撃を生み、さらに衝撃波となって爪痕を大地に残したのだ。


 体を逸らすことによってドンキーホーテはその無慈悲なる一撃を避け、そして笑う。


「そうだな……お茶の前にやることがあるか」


 ─────────────


 甲高い音がする、それは聞き慣れた金属がぶつかり合う音。

 誰かが剣の練習でもしているのか、そう思ったリリベルはゆっくりと閉じた瞼を開く。


 そしてそこで気づいた。剣の練習? そんなことができる状況だったろうか。


「そうだ! 先生!」


 いつのまにか地面に背を預けていた体を無理矢理、リリベルは起こす。

 目を覚ますとそこは、どこかの茂みの中だった。


 背の高い細長い葉っぱがまるでリリベルを守るかのように、周りに生えている。


「ここは……」


 リリベルが辺りを見回すと、リリベルと手を繋いだまま気を失っているミケッシュが目に入る。


 ひとまず無事なことに胸を撫で下ろすリリベルだったが、その安堵を何かの爆発音がかき消す。


「……! 何……? ミケッシュ! ミケッシュ!!」


 リリベルは気を失っているミケッシュの肩を叩く。


「う、うーん」


 すると、リリベルの声と爆発音によってミケッシュもまた目を覚ます。

 辺りを見まわし、不安そうな顔をしたミケッシュは、リリベルに問う。


「リリベル……こ、ここは?」


「わからない……少なくとも試験場じゃなさそう……」


 再び爆発音が響き渡る。

 するとリリベルは音が轟いた方向を見つめ立ち上がった。


「リリベル!? どこにいくの?!」


 ミケッシュに手を取られるリリベル。

 しかしリリベルは止まる気はない。


「ミケッシュ……先生がいない……先生だけじゃない、ネクスも……」


 リリベルの言わんとしていることはミケッシュも理解していた。

 つまりこの先の爆発音の発生源に二人はいるのだろう。


 戦っているのだ。先生とネクスが何かと。

 だとしてもミケッシュの答えは変わらない。


「危険だよ! リリベル! さっきまであんなに調子悪そうだったのに!」


「わかってる……でも僕はできることがあるなら行きたい。先生も、ネクスも失いたくはない」


 当然、リリベルの答えも変わることはなかった。リリベルの意思は強靭だ、コメディアンとフランシス達との戦いからでもそれはわかっている。


 だからこそミケッシュは勇気を振り絞る。


「わかった……だったら私もいく」


「ミケッシュ……」


「アタシだって逃げるだけじゃない、アタシも戦う」


 幸い、二人とも武器はまだ手元にある。頷き合いミケッシュとリリベルは駆け出す。

 雨をその身に受けながら音のする方へと。


 向かい風が強くなり風が草木の背が小さくなっていく。

 同時に目の前の光景が広大な草原へと変わっていった。


 リリベルとミケッシュは音を頼りにさらに走る。

 そして近くにあった小高い丘を登ると目的の二人はすぐに見つかった。


 しかし、リリベルとミケッシュの予想は大きく裏切られる。


 ドンキホーテとネクスが協力して何かの脅威と戦っていると思っていた二人にとってその光景はあまりにも信じ難かった。


「うあああああああ!!!」


 獣のように叫ぶネクス。

 まるで、獅子や虎が本能のままに爪と牙を扱うかのように彼女の剣は一切の無駄なくドンキホーテに襲いかかる。


「クッ!!」


 まるで嵐かのようなネクスの猛撃にドンキホーテは防戦一方に陥っている。

 だが、一瞬の隙をつきドンキホーテの蹴りにる反撃がネクスを捉える。


 稲妻のような反射神経でその反撃を見抜いたネクスは剣の峰でそれを防ぐ。

 しかし衝撃までは殺せない、全身に蹴りの運動エネルギーを受けネクスは吹き飛ばされた。


 しかし華麗に二つの足で地面に着地した彼女は獲物を見定める鷹のようにドンキホーテを見つめる。


 彼我の距離は大きく開いた両者はそこで余裕ができたのか、二つの異物に気がついた。


 リリベルとミケッシュだ。


「……リリベル! ミケッシュ!」


 先に声を上げたのはドンキホーテだった。

 自身の視界の端に映った二人の生徒を見て思わず声を上げる。


「先生! ネクス!」


 リリベルが叫ぶ。ドンキホーテはその心配そうな叫びに笑みを返した。


「大丈夫だ! 先生()がなんとかする!」


 その言葉に呼応するかのようにドンキホーテに相対するネクスは静かに唸る。


 すると背中から黒い影が溢れ出し、そして──。


「うああ!!」


 それは翼と成りて雨を裂く。


 ネクスの叫びと共に生成されたその羽は星のある夜空ように赤や黄、白銀色の光が漆黒の翼に散りばめられていた。


「変身……!?」


 驚くドンキホーテをネクスは睨みつける。彼女の双眸をドンキホーテは見つめ返し、笑った。


「……ネクス、いいぜ……! とことん付き合ってやる!」









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