第五十話 騎士の先生③
「負けたか……まさか、遠距離からの援護があるとはな……」
切り分けられた上半身、そして機械を覗かせる傷口から火花を飛び散らせ、フランシスは笑う。
はらりと木の葉が待った、木の葉はフランシスの目の前を通り過ぎる。
木の葉が通り過ぎた先の景色に男はいた。
一介の騎士であり教師であるその男、ドンキホーテはゆっくりとフランシスに近づく。
ドンキホーテの顔には勝利者特有の、安堵の気の緩みも、達成感も現れてはいなかった。
水が高いところから低いところに流れ、太陽が昇りまた沈む、そんな疑問にすら思わない処理される自然の摂理を目の当たりしているかのようにドンキホーテはただフランシスを見つめていた。
「少しは喜んだらどうだ? 元凶が敗れたのだぞ?」
フランシスの言葉をドンキホーテは無視し質問する。
「お前、なんで監獄にわざと捕まった?」
その言葉にフランシスは驚きの表情を晒す。
「おおかた予想はつくがな? お前の機械の体を見ればどうやって外に出たのかもわかる」
フランシスの体を見ていうドンキホーテにフランシスは思わず笑ってしまった。
「私が脱獄したことは公表されていないはずだが?」
笑うしかない、まさかその情報をドンキホーテが持っているとはフランシスは思っていなかった。
あの夜、フランシス達が脱獄した夜、監獄を破壊され、その上、囚人に逃げられたなど戦後間もないソール国にとってはショックすぎる事件だった。
そのため、国民の不安感情を煽らぬようにとソール国の為政者達はこの脱獄事件を隠蔽することにしたのだ。
幸い監獄を破壊したと思われる魔法は天から隕石を降らす魔法だったため、『不運にも』天然の流れ星のかけらが王都に落ちた、というストーリーで民衆は納得した。
もちろん、脱獄犯などいない、表向きは。
しかしだからといって、みすみす逃した犯罪者を見逃すわけには行かないだろう。
当然フランシスもそこまでは予想していた。
つまりフランシスの目の前、見下しているこの男は──。
「王国から直々に依頼を受けて活動している何らかの代理人……」
思わず口に出したフランシスの言葉にドンキホーテはようやく口角をやや上げた。
「お前みたいな危険思想の持ち主を見逃すほど世界はバカじゃない」
そう言うドンキホーテ。
「騎士学校は関与などしていない筈だ……そんな余裕があるわけがない……貴様一体、何者だ」
「さあな……考えるのはタダだ、ゆっくりと牢屋の中で考察するといい」
ドンキホーテの言葉からは事実がわからないと悟ると、ため息をつきそして空を見上げた。
「さて、本題はそこじゃない。ウチの生徒に何しやがった」
しかし、ドンキホーテは物思いに耽けようとするフランシスを逃がさない。
フランシスの頬を掴み、無理やり方向を変える。
青き空、白き雲の青春の一ページのような景色が回る。鬱蒼とした木々をフランシスの瞳は映し、さらに視点は倒れ、ついに睨みを効かせた男の顔が視界に入った。
そして、ドンキホーテはフランシスを睨み付けながら言う。
「ネクスに何をしたか聞いているんだがな? テメェの耳は飾りか?」
「……教えてやる。いずれな」
「もったいぶるなよ、俺は劇に挟まる休憩時間が一番嫌いなんだ」
「休憩をしているつもりはない、劇はまだ続いている」
「あ?」
「この結界……よくできているな……転移魔法を使い生徒たちを分散、または緊急時の避難としても転移魔法を使っている」
ドンキホーテの心が叫ぶ。何かがおかしい。
その時、光の柱が空の青を塗りつぶした。
「なに!?」
ドンキホーテは思わずその巨大な光の柱をみる、空が遮られるほどのその柱は魔力を帯びていた。
「な、なに……?」
「や、やばくない?!」
狼狽えるリリベルに怯えるミケッシュ。まずいと己の知識を総動員しドンキホーテは咄嗟に剣を抜き放った。
「今すぐ魔法を止めろ!」
フランシスの首筋にぴたりと当てられるドンキホーテの剣。
まるで間欠泉のように光を吹き出す光柱によって、濃くそして深い影を顔に纏わせながらフランシスは言う。
「止める? 君は勘違いをしている。もう魔法は発動した。爆発した爆弾の破片に元の位置に戻れと言っても無意味──」
「くっ!」
フランシスの説明の途中でドンキホーテはネクスの元に駆け寄る。
そして彼女を抱えさらにリリベルとミケッシュ、二人の生徒の元に走った。
「二人とも俺の手を握れぇ!!!」
倒れ伏すフランシス、そして気を失っているコメディアンなどもはや眼中になかった。
「先生!」
リリベルは叫び、ミケッシュの手を引き走り出す。
光が溢れる。地が白く染まる。
白に全てが飲み込まれていく。
「間に合えぇ!!!!」
ドンキホーテの叫びが森に木霊する。
そして、リリベルとドンキホーテの指先が触れた。
それとほぼ同時だった光が全てをくらい尽くしたのは。
その日、会場にいる全ての生徒、職員が消失した。
ソール国はこれを転移魔法による偶発的な事故と断定。捜索隊を出動させた。
─────────────
起きろと、急かすように男の顔に水滴が落とされる。
やがてそれが雨だということに気づくと、男は重い瞼を開けた。
「ここは……」
男は……ドンキホーテは迫り来る、空から放射された雨粒達を鬱陶しく思いながら、自身の使命を思い出す。
「皆んなは……!!」
ドンキホーテは辺りを見回す。見慣れない草原、かなり広く、山脈らしきものが見えるもののその麓は遥か彼方だ。
何より肝心な生徒たちの姿が見えない。
どこだ、とドンキホーテがさらに感覚を鋭敏にさせた時だった。
「……はは……」
ドンキホーテはうなだれる。
雨粒がふりしきり、地面に落ちていく。
そしてその雨粒の兄弟たちに続かんと、雫が空中からさらに落ちる。
その落ちる雫のその向こう側。
雨粒ごしの光が歪み、ねじり曲がる景色のその先に、彼女はいた。
「先生…………に、げて……」
「逃げないさネクス」
ドンキホーテの呟きは雨音にかき消されていった。
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