第四十八話 騎士の先生
弾け飛んだ光球の中から戻ってきたらフランシスはコメディアンを見下ろし、ため息をつくように言った。
「コメディアン、さっさと立て。仕事は残っている」
「あーそうしたいんだけどさ。魔王様ちゃんの一撃とリリベルくんの怒涛のラッシュのせいで動けないんだよね」
「お前の言う神はこんなつまらない状況を許すのか?」
「許さない」
「じゃあ立て」
「じゃあ回復魔法かけてくれ……労いのメッセージカードも付けて」
フランシスは「やれやれ」と呟き、手のひらをコメディアンに翳す。すると淡い緑の光がコメディアンを包み込んだ。
「あぁ、まじでサンキュー。三徹目の朝から二徹目の夜に変わった感じだ」
するとコメディアンは感謝をしながら立ち上がった。まるでそれまでの負傷など嘘のように。
対峙するミケッシュとリリベルは冷や汗を垂らす。
この状況、最悪だ。完全回復、とまでは行かないだろうが脅威が再び立ち上がっただという事実。
勝算が再びゼロに近くなってしまった。
だがそれ以上にリリベルとミケッシュの心を抉ったのは──。
「ネクス!」
リリベルが叫ぶ。
フランシスの足元でぐたりと脱力するネクス。
二人の心を抉ったのはどう見ても意識を失ったネクスの姿だった。
ネクスは何かをされたのだろうか、一見ネクスの体に外傷はないが生きているのか。
拭えぬ不安と焦りがリリベルとミケッシュの心に湧き出ていく。
「ああ……安心したまえ」
フランシスが思い出しかのようにリリベル達に向かって呟いた。
「魔王様には、眠って頂いた。真なる覚醒のためにな」
そして、とフランシスは人差し指をリリベル達に向ける。
「君たちは魔王様の覚醒の邪魔になる。ここで死んでもらうぞ」
「そう占いに出てるんでね」
「コメディアン、占いじゃない予言だ」
「どっちもおんなじだろ」
「同じじゃない。言葉の雰囲気と説得力が──」
大地を蹴る音が響く。
「うおおお!!」
リリベルは叫びながら母の形見の短剣を構えフランシスに接近して行った。
もはや躊躇している暇はないこの状況を打破するには行動しかないそうリリベルは思い至ったのだ。
「リリベル待って!」
ミケッシュの言葉を背にリリベルは斬撃をフランシスに放つ。
美しい右から左への横薙ぎの一閃。
リリベルの斬撃は吸い込まれるようにフランシスの首筋に向かっていく。
フランシスは避ける気配を見せない。
(決まる!)
攻撃の命中をリリベルが確信した。もはや避けようがない。
ここでフランシスに重傷を与えればネクスは救い出せる。
そしてリリベルにはもう命を奪うことへの迷いの余地などなかった。
この男は友人を傷つけた。その事実だけがこの男がこの世にいていけない理由だ。
だが──。
「え……?」
鈍い金属音、飛び散る火花。そして──。
「残念だったな。少年」
男の肌の下から現れた黒金の鉄。
リリベルの斬撃はフランシスを傷つけるには至らなかった。
赤い血の代わりにフランシスの肌の下から露出したこの黒い金属の肉は物語っている男の秘密を。
誤算だった。このフランシスという男はおそらく全身が機械仕掛けでできている。
義手ならぬ、全身機械の義体。
「くっ!」
ダメージが与えられなかったことに驚いたリリベルは思わず身を引こうと、バックステップの体勢を取った。
しかしフランシスはそれを見逃すような男ではない。
「ぐあ!!」
リリベルが呻く。
フランシスの機械仕掛けの腕がリリベルの頬に直撃する。
殴り飛ばされたリリベルは地面に受け身も取れぬまま着地し、そのままうずくまった。
「リリベル! しっかり!」
ミケッシュが慌ててリリベルに近づき体を揺さぶった。
だが、殴打は効果的にリリベルの脳を揺らししていた、立つことなどできるはずもない。
揺らぐ視界の中、リリベルは必死に足掻く。
だがその努力を否定するかのようにフランシスの声が響いた。
「もう終わりにしよう」
フランシスはリリベル達に向かって右手の手のひらを向ける。
そして同時に左手で散弾銃の薬莢を掴み、右手の穴に押し込んでいく。
“フレイム”
“フロスト”
“ライトニング”
無情で無機質な声が響き──。
“セーフティ・オフ”
空気が震えた。
それとともに、フランシスの右手のひらに漆黒の光としか言いようのない光り輝く黒の粒子が収束する。
そうして形成された黒い光球をリリベル達に向けながらフランシスは不敵な笑みを浮かべる。
間違いない。来る必殺の一撃が。
「くっ!」
察したリリベルはここで終わるわけには行かないと、無理やり上体を起こしフランシスを視界に入れた。
当然の如く黒の光球から運命の糸が伸び、リリベルとミケッシュの体にまとわりついている。
(この糸を切れば!)
リリベルは短剣を振り上げた。
「その技は光の中から見ていたぞ少年」
だが、その行動すらフランシスの予想の範疇だった。
「少年、君の能力、目に頼っているようだな?」
瞬間、フランシスの左手の手のひらから閃光が走った。
初歩的な目潰しの魔法。
リリベルはそれをもろにくらってしまう。
(しまった目が……!!)
目を潰されたリリベルは糸を見失なう、いやそれだけでない。
リリベルは糸のあった場所に刃を当てようとするも糸の感触がない。
(目で認識しないと糸は切れないのか!?)
初めて知るアビリティの弱点、覚醒したばかりだからこそ知る由のない最大の欠点。
完全に防御の機会を奪われたリリベル達に待ち受ける運命は一つしかない。
「さよならだ」
リリベル達のたどる結末をフランシスは予言するかのように告げ、そして唱える。必殺の一撃を。破滅の光魔法を。
「オブシディアン・レイ」
黒の光球が濁流のような光線となってリリベル達に向かっていく。
ミケッシュはリリベルを連れて逃げ出そうとするも、焦りからか彼の体を支えて走り出すことができない。
リリベル自身も、ダメージによって足に力が入らないかった。
結局二人はもつれ倒れ込み、光の濁流に飲み込まれた。
そして暗黒の光は巨大な爆発と成り、衝撃波を撒き散らす。
光が森をてらし、空を焦がし大地を震わせる。
後に残ったのは漂う爆煙と砂塵のみだ。
「旦那ぁやりすぎなんじゃないのぉ?」
二人の少年少女を殺すためにだけにしては強力すぎる魔法に対してコメディアンは皮肉げに言う。
「確実に殺しておきたい、それにはこれくらいは必要だ」
「へぇ容赦ない……」
するとコメディアンは皮肉のこもった賞賛を投げかけようとするのをやめて、唐突に爆煙を見つめた。
「どうしたコメディアン」
「旦那……いる……!」
どういう意味か。
フランシスはコメディアンの言っている意味を瞬間的に理解し、そして、
「……はぁ……」
とフランシスがため息を着いた瞬間だった。
漂う爆煙に閃光が走る。
それが爆煙を薙ぐための斬撃だとフランシスが気づいたのは後のことだった。
爆煙が晴れる。
そこにはたった一人の男が佇んでいる。なんということか、フランシスは心の中で独り呟く。
フランシス達の目の前には今一番会いたくない男が立っていた。
「よう……ウチの生徒を傷つけたのはお前らか?」
その男、ドンキホーテは凶悪な笑みを浮かべ、怒りを乗せた視線を眼前の敵二人にぶつけていた。
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