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聖火  作者: 青山喜太


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第四十六話 魔王の生まれ変わり少女と運命を棄却する少女と、輪廻の龍に好かれた少女⑨

(苦しそう……)


 戦う友人を、リリベルを見てミケッシュはそう感じた。

 コメディアンと呼ばれる男の顔面を殴るリリベルの拳は反動の痛みで赤く腫れ上がっていた。


 おそらく、コメディアン自体も闘気を纏い身体の防御力を底上げしているのだろう。

 それだけではない、闘気に目覚めた戦士として身体の頑強さの基礎値が常人よりも桁違いに高いのだ。


 故に反動は凄まじい、もちろん痛みも。

 しかし、リリベルはそれでもコメディアンを殴り、蹴る。

 自身の痛みを顧みず、辛いはずだ。


 それに加えてリリベルはなぜ短剣を使わないのか。

 ミケッシュは勘づいていた。コメディアンの投げたナイフが投げる前に戻る現象を見ていたからわかる。


 リリベルに特異な能力があることはミケッシュ自身とうに気づいていた。


 おそらく、その能力発動の起点になっているのが剣を振るうという動作。


 だからリリベルは無駄にアビリティが発動しないように短剣を振るうことはなく、格闘で敵を相手しているのだ。

 もちろんリリベルが格闘にこだわる理由はそれだけでない。


(躊躇してる……)


 それはたとえ悪人の命と言えど命を奪うことに対する罪悪感。

 その罪悪感がリリベルの短剣を鈍らせている。


 リリベルの生来の優しさが彼に短剣を使わさせない。

 故に一見リリベルが優勢に見えるが、コメディアンに対して決定打が与えられていない。


 コメディアンの様子から見るにダメージの蓄積はかなりあるようだが逆転の可能性も高確率であるだろう。


 もし反撃をされたら、リリベルはどうなるのだろうか。


 今の優勢はアビリティの特性をコメディアンが全く理解していないからだ。

 現に理解される前にリリベルは決着をつけよう躍起になっている。


 だが、もし仕掛けが割れてしまったら……。


(リリベルは負ける……)


 そんなこと、わかっていた。

 そう、わざわざ言葉にしなくてもわかっていた。

 だというのに──。


(私はまた見てるだけ)


 魔導機関車が魔物に襲われた時もそうだった。

 ミケッシュは思う、自分は何もできていないと。

 ドンキホーテはミケッシュを友達を助けた英雄だと褒めてくれた。


 だが、それは結果論だ。ミケッシュの逃げた先にたまたま、列車に乗り遅れて馬を走らせていたドンキホーテがいただけだった。


(私はまた……)


 見ているだけなのか、見捨てるだけなのか。


(そんなの……)


 ミケッシュの答えはもはや決まっていた。

 震える手で槍を握り締め、竦む足を奮い立たせる。

 その時だった。


「キュルル……」


 ミケッシュの胸元から、鳴き声がした。


「……ジェミール?」


 ドラゴンの幼子のジェミールは名を呼ばれるとミケッシュの服の中から姿を表し、ミケッシュの顔の周りをぐるりと飛行し、顔の前でふわりと止まる。


 ミケッシュはじっと見つめる、ジェミールが何を伝えたいのかわからぬまま、ただミケッシュはジェミールの頭に手を伸ばす。


 すると、その伸ばされた右手の指をガブリと噛んだ。


「痛ッ!」


 思わず、手を引き離したミケッシュの右手には、8の字刻まれていた。


 ミケッシュはそのマークを凝視し訝しむ。

 このマークの意味は何だろう。果たしてジェミールは自分に何をしたのだろう。


「数字の8? それとも……」


 いや、このマークもう一つ意味がある。

 このマーク、これは──。


「……無限?」


 ─────────────


「やってくれたなぁ! お嬢さん!」


 リリベルのナイフの投擲の一撃を、防いだ謎のドラゴンそしてそれを使役したであろう、ミケッシュを見てコメディアンはニヤリと笑いながら言う。


 しかし当の本人であるミケッシュはこの状況に困惑していた。

 ナイフに刺され瀕死に陥ったリリベルの姿をみてミケッシュはどうにかしなければならない思った。


 その時、まるでミケッシュの思いを代弁するかのように、ジェミールが飛び出しリリベルを守ったのだ。


「じ、ジェミール……」


 何が起こったのかわからない、何を自分がしたのか、なぜジェミールは突然、手を貸してくれたのか。

 なにもかもがわからないが、ミケッシュは賭けにでた。


「リリベルを──!」


 ミケッシュは叫ぶ。


「──助けて!!」


 その叫びにジェミールは再び答える。

 ジェミールは細長い胴体をくねらせ体を使ってある図形を作った。


 8の字、無限のマークだ。同時にジェミールの体が光り輝く。


「おいおいおいおい! 何を!」


 コメディアンの焦る声と共に短剣の切先をジェミールに向けた。


「冗談じゃないよぉ! また変なもん出されでもしたら──!」


 いままさにジェミールに短剣の刃が迫るその時だった。


「うおおおお!!」


 聞き覚えのある少年の叫び声と共に、コメディアンの顎に衝撃が走る。


「ゴハッ!」


 なんだ、とコメディアンは攻撃をうけた方向を見た。

 視界の中、足を振り上げたリリベルが映る。

 コメディアンの顎に衝撃を与えたのは、蹴り上げたのはリリベルだった。


 体のあちこちに刺さっていたはずのナイフはどこかに抜け落ち、かと言って傷から出血はしていない。


(な、何が、起こって……!)


 まさかあのドラゴンが傷を治したのか、困惑しながらも咄嗟に体勢を立て直したコメディアンは、大振りの蹴りを放ったリリベルに対して再び切り掛かる。


(だが、リリベルくんにはもうアビリティを使うだけの余力は──!)


 その時、再び、コメディアンは違和感を覚える。

 斬撃の為、振り下ろしたはずの腕が振り下ろす前に戻っている。


(アビリティが発動……!?)


 コメディアンの驚愕、その一瞬の隙、それをリリベルは見逃さなかった。


「はぁぁぁ!!」


 リリベルの拳が再び、コメディアンの顔面に突き刺さった。

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