第十七話 気まずい
「……」
重い沈黙が部屋の中に流れる。
ベット二つの狭い部屋に、男女が二人。
気まずくならないはずがない。
ドンキホーテとリリベルはそれぞれ、自身に割り振られたであろうベットに座り、何とか平静を装っていた。
しかし、実際は──。
((どうしよう……これ))
心は困惑の極致にいた。
覚悟を決めていたリリベルでさえである。
そもそもリリベルはまさか唯一、自分の秘密を知る男性という微妙な立場にあるドンキホーテと一緒になるなど想像もしていなかったのだ。
もしこれが何も知らない男子生徒ならば、うまく誤魔化せていけるだろうと、内心リリベルは信じていた。
何せ今までは隠し通して生きてこれたのだから、これからも隠し通せるだろうと、自信を待っていたのだ。
だが、今はこの有様である。
ドンキホーテは不純な人間ではないと思うものの、やはり男女が同部屋という異質な状況は意識はせざるを得ない。
もしドンキホーテが何も知らない教師ならば逆にやりやすかった、しかしドンキホーテは知っている。
(僕が女の子だってことを)
だからこそだ、気まずい。
「その」
ドンキホーテが口を開く。
「は、はい」
リリベルは反射的に返事をする。
「嫌じゃないか?」
「はい?」
「いや、愚問だったな俺みたいな……変態クソ視姦変態教師なんて……嫌だよな……」
「いや! 先生、だ、大丈夫ですよもう過ぎたことですし! そんな変態をダブルでつけないでください!」
「君は優しいな、でも、無理しなくていいんだぞ」
ドンキホーテは哀愁の漂う背中を見せながら語る。
そして独白するように呟いた。
「俺が……変態クソ視姦変態ゴミ変態教師なのは事実だし……」
(変態がトリプルになった……)
とんがり帽子のせいで影が余計に落ち相当落ち込んでいるように見えるドンキホーテを見てリリベルは思わずフォローを入れる。
「そんな気を揉まないでくださいよ……事故なんですから、先生……」
「すまん……その……急に罪悪感が沸々とな……」
どうやら、リリベルと初めて会った時の場面を彷彿とさせる今の状況にドンキホーテは堪えているらしい、だが今やるべきは懺悔ではないことは二人にもわかっていた。
「その……とりあえずだ……!」
ドンキホーテは若干気まずそうにしながらも話を切り出す。
「君の秘密は誰にも話さない、それは安心してくれ」
「ありがとう……ございます」
「だが、どうする? 日常生活は? 不便はないか?」
ドンキホーテの心配そうな言葉に、リリベルは胸を張って答える。
「だ、大丈夫です! これまでも隠して生きてきましたし!」
それは答えになっていない、とドンキホーテは思った。
隠すと言い放っているということはリリベルの忍耐によって今の状況が成り立っている、ということだ。
それは相当な負担の筈だ。
故に、常に相当な不便を強いられているのは想像に難くない。しかし、ドンキホーテ自身どうすることもできない。
所詮は生徒と教師、女と男、どうしても打ち明けられないことや触れられたくない部分はある。
(……どうすべきかな)
この学生寮に来てからリリベルは果たして安心できたことがあるのだろうか。
目の前の生徒の背負っている荷を下ろしてやるべきだ、ドンキホーテはそう思い至った。そうでなければ、勉強どころではない。
リソースが、秘密の隠蔽に大きく裂かれるようでは本末転倒だ。
しかしどうすればいいのか、そもそもなぜ、リリベルが性別を偽っているのかすらわからない。
(しかしまぁ、それを無理に聞くのもな……)
やんごとなき事情があるのだろうと、ドンキホーテはベットに寝転がった。
「そうか、わかった。でももし、君の肩に背負ってるものを下ろしたくなったら俺に言え。何でも聞くぞ」
「……ありがとうございます」
リリベルはこちらに向き直り、礼を言う。
ドンキホーテは「当然のことだ」というと、再び上体を起こした。
「とりあえず、今日は寝るか! 明日は休みだ、いろいろあって疲れたろ? 君も早めに寝ておけ!」
「は、はい!」
「よしじゃあ! 早速、風呂に……て、君はどうする?」
するとリリベルは若干申し訳なさそうに言った。
「その……大きめの桶とかタライとかありますか? そこにお湯を溜めてくるので……」
「オーケー任せてくれ、フォディメ」
すると、大きなあくびをしながら帽子の妖精は目を覚ます。
「なんだよ変態教師」
「黙れ、入浴用のでかい桶、あったろ? 出してくれ」
「はいよ」
帽子のとんがりに開いた口から捻り曲がり、湾曲した桶が出てきたかと思ったら、口から出た瞬間に丸い底のついた円形の桶が姿を表す。
そして床にドスンと着地した桶にドンキホーテは近いた。
「神様頼む」
そう言って、片手を握り拳を作る、そして顔の目の前に祈るように拳を置いた。
すると何もない桶からぶくぶくと、水が沸き始めた。
「これって、奇跡の再現……先生って聖職者なんですか?」
リリベルの言葉にドンキホーテは笑う。
「まさか! そんな清く正しいように見えるか?」
「変態教師だもんな」
「うるさいぞフォデュメ」
「じゃあ俺は共同風呂に行ってくる」とドンキホーテは部屋を出ていく。
ポツンと残された、リリベルは桶のお湯に手を入れる。
アーシェの作り出したお湯とほぼ同じ温度だ。
このような奇跡は単純で簡単であるが故に精度が個人の技量が出ると言われていることをリリベルは知っていた。
ただお湯を沸かしただけとはいえ奇跡の専門家であるアーシェに劣らない精度の奇跡の再現が使えるということは、それだけの実力をドンキホーテは秘めていると言っても過言ではない。
「先生って何者……?」
改めて、リリベルは思った。
ドンキホーテという一人の教師について何も知らないのだと。
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