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聖火  作者: 青山喜太


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第十六話 さてと

「はぁ」


 道を歩くリリベルは息を吐いた。

 息に混じるのは疲労と苦労。

 それもその筈だ、なにせ隣には──。


「ぐぬぅぅぅ……!」


 火のついた油の中に水をぶち込んだ時のような、そんな激しい怒りと不機嫌を飛び散らせるネクスがいたからだ。


「ねぇネクス、落ち着きなよぉ……」


 リリベルと同様に、ネクスの隣を歩くミケッシュはぎこちなく頬を緩ませながら言うが、ギロリとネクスに睨みつけられる。

「ヒュッ……」と息を飲み込むミケッシュに、さらにネクスは畳み掛ける。


「これが! 落ち着いていられるかっての!! 私達! 最下位のFクラスじゃない!! 納得いかない!」


 怒りに比例して声を荒げるネクス。相当な立腹だ、その怒りの火を誰も鎮められずにいた。


「おい皆んなもう少しだぜ!」


 そんな、空気が焼きつくような憤怒をリリベルとミケッシュがたじろいでいるところ、そんな雰囲気にした張本人であるドンキホーテはマントをたなびかせながら三人を先導していた。


 何とも言えないこの空気を物ともせず、ドンキホーテは悠々と風を切って歩いていた。

 そして、やがてドンキホーテがとある建物の前で立ち止まる。


 止まったドンキホーテに連動して、三人は止まりその建物を見た。

 大きくそして横長な建物、住宅が連なるこの王都エポロの一角の中で明らかに他の建物よりも面積を取っている。


 そして、ドンキホーテは言った。


「ついたぜ諸君、ここが学生寮だ」


 ─────────────


「チッ……」


「おっ!」


 王都エポロ、騎士学校学生寮の玄関の大広間に足をを踏み入れたドンキホーテとネクス達はいきなり舌打ちで迎えられることとなった。


 舌打ちをしたのは、淡く長い緑髪の美丈夫。

 いきなりのことでネクス達三人は怪訝そうな顔をするが、直感的に、どうやらその舌打ちの美丈夫が向けた不機嫌の矛先は、ドンキホーテに向けられたものだと、何となく察せられた。


 反対にドンキホーテは、不機嫌になるどころかニタリと、嬉しさと、意地悪さが入り混じったような好きな女子を前にした悪ガキのような笑みを浮かべ、おもむろにその美丈夫に近づいて行った。


「よう!! センセ!」


「馴れ馴れしく呼ぶな」


 肩を組みに行こうとして、拒絶されるドンキホーテはしかし嫌な顔をせずに笑みを浮かべたままネクス達に向き直る。


「ほら諸君! 挨拶だ! レヴァンス先生だぜ!」


 舌打ちの美丈夫は不機嫌な顔のままそっぽを向く。

 相当ドンキホーテが嫌いらしい。


「よ、よろしくお願いします」


 おずおずと、ほんの少し険悪な雰囲気が流れるこの場を和ませるようにリリベルが最初に挨拶した。

 すると、続いてミケッシュ、ネクスと続き過不足のなく挨拶を済ませる。


「リリベル・オウス・ノルンヴェント、君はともかく──」


 だが、レヴァンスは素直に挨拶を返しはしなかった。


「ネクス・オウス・クロエロード、ミケッシュ・ザラウ、君たちを騎士学生と認める訳には行かないな」


 その言葉に、ネクスは思わず怒りが頂点に達してしまった。

 しかし第一に言葉を発したのは、ネクスではなかった。


「取り消せ、レヴァンス」


 そんなドンキホーテの一言は、思わずびくりとネクスの肩を震わせる。

 怖気付いた、思わず、ネクスは怖気付いたのだ。


(私が……!)


 ネクスは驚愕した、今まで怒りを忘れるほどの恐怖を感じたことがないからだ。

 そして、その恐怖を抱かせた本人であるドンキホーテは不敵な笑みを浮かべたままレヴァンスを見つめていた。


 ミケッシュも、リリベルも思わずたじろぐような、そのドンキホーテの敵意が空間を支配する中、レヴァンスは平然と言い放つ。


「断る、私の信条故にな」


 すると、レヴァンスはもうこれ以上話すことはないと言わんばかりにドンキホーテに背を向け、荘厳な装飾があしらわれた階段を登っていく。


 去って行こうとするレヴァンスにドンキホーテはさらに言葉を投げかけた。


「うちのクラスは、そこいらの生徒よりも優秀だ」


 そんなドンキホーテの言葉にレヴァンスは横目で睨みつけながら言った。


「だからこそだ」


 そう言ってレヴァンスは階段を上り切り、そのまま吹き抜けの廊下を進んで、ドアの向こうへと消えた。


「はぁ……」


 ため息と共に、ドンキホーテの敵意が消える。

 ようやく、威圧感を感じないで済むようになったネクス達も同時に、肩の力を緩めた。


「ま! 気を取り直すか! ようこそ学生寮へ!」


 ドンキホーテの切り替えの速さに、ネクスは肩透かしを喰らう。


(さっきまで、あんな威圧感を放っていたのに……)


 ドンキホーテは説明を続ける。


「長い説明はまあ置いといて、とりあえず女子の部屋はネクス達から見て右側だ」


 ドンキホーテの言葉の通り、ネクスとミケッシュは自然と右を見る。

 すると二つの扉があり、よく見ると、「女子寮」と書かれた看板がぶら下げてあった。


「えへっ! ネクス、お先!」


 ミケッシュは早速駆け出した。


「あ、おい! ミケッシュさん!? まだ説明が──!」


 ドンキホーテが、制止するもミケッシュは聞かない。


「全くあの馬鹿、部屋番号すら聞いてないじゃない……先生私たちの部屋番号は?」


「ああ、いや番号はなくてなそれぞれ部屋ごとに、生徒の名前が割り振られてる。自分の名前がある所に行ってくれ」


「それだけ聞ければいいわね、じゃあ」


 そう言ってネクスも駆け出した。


「ああ! 待って! まだ施設の説明が……! まあいいか……」


 諦めたドンキホーテは苦笑を浮かべる。


「さてリリベル、君は……男子寮だ」


「……はい」


「男子寮は基本的に、相部屋だ……大丈夫そうか?」


 ドンキホーテの心配の意味はリリベルは当然理解していた。

 リリベルは曲がりなりにも女子だ、そしてそれを隠して男としてこの学校に来ている。


 見ず知らずのルームメイトがいると言うことはそ当然それだけ、秘密がバレる可能性が上がると言うことだ。


「……大丈夫です」


 しかしリリベルは気丈に振る舞う。


「本当か? もしよかったら、部屋を一人部屋に……」


「い、いえそんなことをすれば他の生徒に不公平だと言われるでしょう? それは同じ学生の身としても良くないと思うし……」


 すると、ドンキホーテはやるせない笑みを浮かべたまま言った。


「君は……全くそんなに生真面目にならなくてもいい、嫌なら嫌でいいんだぞ?」


「で、でもその僕だけ特別扱いはおかしいじゃないですか……周りの生徒にも不審がられるし返って……怪しまれます」


「……そうか……と、これ以上はここで話すことでもないな、とりあえず案内だけさせてくれ」


 するとドンキホーテは歩き始めた。


「ついてきてくれリリベル」


 ─────────────


 目的の部屋はすぐに見つかった。

『リリベル・オウス・ノルンヴェント』部屋のネームプレートにはそう書かれている。


 問題は──。


「あー間違いじゃないよな? リリベル」


「……はい」


 その下に『教員 エヴァンソ・ドンキホーテ』というネームプレートが連なっていたことだ。


「あのもしかして……相部屋の相手って……」


「俺と言うことになるな……リリベル」

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