お互いの本音 後編
こころ「だって、だって...かなでが、自分を大切にしないから...」
かなではそれを聞くと、少し驚いた様子を見せた。その後、「ちがうの」と言いながらゆっくり首を横に振った。
かなで「私には、こころが一番、なの。」
こころ「でも、でも!! 僕も、かなでが一番だから...大切な人が自分を投げやりにしているのをみたら、僕だって辛いよ...」
そうだよ、辛いよ。苦しいよ。かなでがこうなっているのは、僕のせいなんだから。かなでが、こんな風になる必要はなかったのに。
かなで「投げやり、か。こころには、私がそう見えた? 投げやり、のつもりはなかったんだけどな、」
かなでが、視線をそらした。少し、申し訳なさが出ていた。
僕は知ってる。かなでが視線を逸らす時は、100%嘘をついていて、それを自覚しているとき。...自分でもわかってるんじゃん。
こころ「嘘、つき。今、目線そらした。ねえ、かなで。周りとしょっちゅう、言い争いして、今はこんな風になってるのに、僕の心配してる。かなでが大変な時ぐらい、かなで自身の心配してよ!! なんで、かなで自身のことを大切にしてくれないの!? 僕のために、こんな風にならないでよ。やめてよ!!」
あ、違う。間違えた、言っちゃった。こんなつもりじゃなかったのに。やめてなんて思ってないのに。逆にこんな風になるまで僕のためにしてくれて感謝しかないのに。ただでさえ弱ってるかなでを追い込んで、傷つけてどうするんだよ!?僕のバカ!!
かなでは、下を向いて黙り込んでしまった。
気づけば、外は結構強い雨が降っていた。病室の中に雨音が響いた。入ったときは、柔らかい夕日が差し込んでいたものの、今は薄暗く、病室の中も暗くなっていた。
かなでは、ちゃんと話してくれた。次は、僕が話さないと、いけな、いのに。勢いで傷つける言い方をした。もう、だめだ。僕は、かなでと話してはいけないんじゃないか。かなでが僕のために行動してくれたことをやめてよって、最低だ。謝っても、許してくれないかも、もう、僕なんかと関わりたくないかも。どうしよう、制限時間はだんだん近づいてくる。どうしよう。かなで、本当にごめんなさい。
...嫌われても、仕方ない。でも、腹を割って話すと決めた以上、話さないと。かなでが話してくれた分は、僕も話さないと、だめなのに、わかってるけど。
僕は、屑だ。こういうときに逃げるのをすぐ選択してしまう。今もほら。言わなくていいなら言いたくないと思う自分がいる。なんなの、やっぱり、自分のことは嫌い。嫌い、嫌い。
自分なんて!!、大っきーーー
かなで「こころ!」
こころ「...え、?」
かなで「なんで自分のこと責めてるの。こころが、こころ自身を否定しないで。私が悲しくなる。」
こころ「っ...! なん、で...」
かなで「そりゃ、わかるよ、親友だし。私はこころのこといつも見てるから。」
か、なで。
...言葉、声にならない。声、なんで出ないの。なんで、重要な時に...!!
かなで「こころ、落ち着いて、そんなに責めないで。さっきのを言われるのは当然だよ。だって、その通りだから。こころがこんなに私のことを大切に想ってくれてるのに、その想いをほったらかして、私のエゴで行動して、結果こうなってこころを傷つけた。今、私はこころが自分を責めてるだけで悲しかったのに。こころは、私自身がほったらかしているのを見て、毎回、もっともっと悲しく、辛い気持ちになってたんだね。私は、こころに、あの一言であんなに怒るほど心配かけてたんだね。あんな顔させるほど傷つけてた、溜めこませてた。そんなこと、全然気づけなかった。私自身を大切にしてないということにも、気づけなかった。こころ、ごめんね。そして、そのまま思ったことを言ってくれてありがとう。」
え、なんで、かなでが謝るの、ねえ、やめて。今のは、僕が、僕が、悪かったのに。
僕は何で、こんなにかなでにいろいろフォローされてるの、謝らせてるの。僕が、悪かったのに。
なんで、すっきりした顔で言うの。目を合わせたまま、言うの。あんな言い方したんだから、嫌いになって、当然でしょ、なんで、僕を許すの、なんでかなでが謝るの。
ああ、もう。自分の無能さがよくわかる。もう、いやだ。僕は、どうして、こうなるんだ。
かなで「ねえ、こころ。なにがあっても、私はずっとこころの味方だよ。そんな、苦しい顔しないで。私は、親友のありのままの本心を聞けて嬉しいんだよ?」
こころ「!!」
そう、だよ。かなでは、僕のたった一人の親友。なにを、嫌われたって、怯えてるの。かなでは、僕が嫌な言い方をしても、嫌わなかった。怒らせてしまったと思っても、傷つけてしまったと思っても。それがこころの本心なんだよね、大丈夫だよって言ってくれた。ずっと、僕と関わってくれた。本当に嬉しかった。
無意識のうちに、僕はきつい言い方をして傷つけてしまう。でもそのたびに、言い方気を付けてね、私はわかってるから、って言ってくれる、めちゃくちゃ優しい、天使のような存在なんだよ。無理させてる気がしてて心配で、本当に申し訳ないなっていうのと、自分を責めて、否定して、ということを、何回もしてた。
でもかなでは、傷つけてしまったあとに僕が僕自身を責めて、否定するのを見るのが一番つらかったんだよね。ごめん。僕も、かなでに言っておきながら。なにをしてるんだか。
こころ「かなで。僕こそ、本当にごめん。さっき、かなで自身を大切にしてって、言ったばっかりなのに、僕がしてどうするだろうね、ごめん、ありがとう。」
かなで「私たち、お互いに同じようなこと思ってたんだね。半分ぐらいは、わかってたけどね。」
少し嬉しそうに自慢げに言う。かわいいな。
よし、もう、大丈夫。言おう。ずっと言おうと思ってたあのことを。
こころ「ねえ、かなで。僕は、ずっとかなでに言おうと思ってたことがあるんだ。」
かなで「ちゃんと、本心で言ってね。嘘ついたらわかるからね。」
僕は、隠していたことがばれても、あっさりしていた。かなでならいっかと思った。なんなら、もう気づいてるだろうと思ってた。かなではとっくに気づいていた。本当に、その通りだったらしい。
あれ、僕は、本当に隠したかったのかな? 本当に隠したいことなら、否定するよね。そうでなくても、こんな、あっさりとは...
ああ、そうか。僕は、ずっと本心が出したかったんだ。
こころ「やっぱり、かなでにはばれてたか。僕がみんなと本心で会話してないことに。」
かなで「当然じゃん、だって、私だよ?」
思わず、微笑んでしまう。でも、真面目な顔をして、ずっと、話したかったことを口に出した。
こころ「僕は、ずっとずっと、かなでに感謝してたんだ。こんな僕とずっと幼馴染で、親友でいてくれて、僕のために、僕が知らないうちにたくさんのことを肩代わりしてくれて、本当に、申し訳ない。だけど、でも僕を大切にしてくれて、凄く、嬉しい。ほんとに、怪我を見た時はすごいびっくりしたし、悲しかったけどね。」
かなでが何か言おうとした。きっと、「そんなことか。」と笑うつもりだったのだろう。でも、言わなかった。僕が真剣な顔をしたからだと思う。僕は、言おうと思ってたことを言い始めた。
かなでは、黙って、真剣に聞いてくれた。かなでにとっては、だいぶ辛いことかもしれないのに、顔には一切出さなかった。僕はその反応で、また少し心配になった。
こころ「僕は、自分がいじめられてるとわかったとき、かなでに言い出すことができなかった。かなでと僕は四六時中一緒には行動してなかったでしょ? だから、僕はかなでがいないときに、いじめられた。最初は悪口を言われるだけだった。悪口なんか、慣れてた。関係なかった。でも、そこからだんだんかなでも悪く言われ始めた。それだけは嫌だった。大切な人が、僕のせいで悪く言われるのは。」
本当に、僕もかなでと同じ理由だな。
こころ「だから、僕は言った。かなでは関係ないって。言った時は、それで大丈夫だと思ってた。でも、次の日から、物がなくなり、破られ、汚され、捨てられるようになった。かなでに、忘れたから貸してって言ったこと何回かあったでしょ? あれは全部そういうこと。でも、決して大ごとになるような物は捨てられなかった。制服とか、上履きとか。あいつらは、無駄に賢かった。僕は、抵抗しなかった。そしたら、だんだん見えないところを殴られたり、蹴られたりした。暴言を言われながら。教室でやられてた。他にも人はいた、先生もいた、でも誰も止めなかった。あまりにも、あいつらは自然に僕をいじめた。大きい声ではなく、普通に話すような声の大きさで暴言を言われてた。大きい動きじゃなくて、一見はしゃいでるようにしか見えないように暴力を振るわれた。だから、少なくとも先生には遊んでるだけだと思われてた。」
ここで少し、かなでの顔が歪んだ気がした。部屋が暗すぎて、あまりはっきりは見えなかった。
こころ「僕は何で、抵抗しなかったんだろうね。意味、わかんない、よね、」
なんだか、辛くて涙が出てきた。止まらなかった。頑張って、涙を止めようとしたけど、止まらなくて、だんだん何を話したいか分からなくなった。視界が、ぐらぐらし始めた。
こころ「ご、ごめ゙っ、」
かなで「...」
かなで、きついよね。かなでは、凄く優しいから、僕のことを自分ことのように考えるから。涙は止まれないし、だんだんふらふらしてきた。でも、どうにか、最後に1つだけ、言わないといけなかった。
こころ「あ゙の、ね゙。」
喉、カラカラだ。喉痛い。頭痛い。でもふわふわする。涙はとめどなく流れてる。
こころ「僕、ね。ずっとずっと怖かったんだ。クラスの人が、いや、人が。人間不信になって、いじめられてた原因が、僕の、たった一言だったから、かなでにも、さ。そんなわけない、と思っても心の奥底では思っちゃって、ずっと怖くて。苦しかったんだ。親友を疑ってしまう、という行為が。」
かなで「...」
こころ「でも、かなでは、話してくれたから。僕に真実と思ってたことを。だから、凄く安心できたんだ。だから、」
かなで。本当に、本当に。
こころ「いつも、ありがとう、!!」
つづく